名前、それは記憶のピース「7」
――不憫だ。
先日、現場で事故が起き、同僚の無残な姿に俺は頭痛、嘔吐、痺れ、歪な行動が表れていた。だが治療処置などはなく実験素体として『この場に居させて貰って申し訳ない』と洗脳され、抵抗のないよい機会だからと文句の言えない立場だったことまで刷り込まされた。理由は抵抗値に対してどこまで記憶が維持できるのかを調べたいからだという。モノゴトリー協会で初日説明された通りの“記憶を戻し、健康な状態へ戻す”という内容とは相反する対応でこの日は薬で意識朦朧となる中、医療補助員による質問を受けさせられる。
「№850、モノゴトリー協会に対する感謝の意志を伝えられますか?」
「その通りですぃ~俺はぁこの協会で生かせて貰っていたぁ~」
「では、生かせて貰えるならどの様に記憶復元措置を受入れるべきでしょう?」
「はィ~まったくぅ、逆らわないことをぉ~誓いますぅ~~」
「誓い、問題なし」
「誓い、良好。意識・記憶とも問題なし」
「№850、次は脳領域テストを開始します」
――もう駄目になるかと思い毎回この悪魔ような実験がカウンセリングとして繰返される。モノゴトリーの規則として行われているが、理由は未だ告げられていない。
初めは一週間おきの実験で目の回るようなスケジュールだった事を物語る。次は一カ月おきに固定されるが体は拒絶反応を起こし失神する。集中治療室で入院させられると再び実験を受けることに。その次は工事の都合で実験が三カ月おきになると無理矢理に自白をさせられては生かされる。そして生活習慣が整えば実験が半年おきでよくなり次は恐怖で死にたくなる。それでも工事は続行と言われて終わりなき実験行為を繰返された。
俺の脳領域テストについては別の研究所へデーターが送られる。その結果は医師との連携がないので聞かされない。薬物と電波を施される事に終わりが見えてこない。以前の記憶から今の記憶を以ってどの様に活かされていくのだろう。真相を知りたい。
「―それで、
草原にある陸地が見えてきたあなたは
何処へと向かうのでしょうか?――」
「―向かうぅ~先はぁ~見えなァァ~い。
俺はぁ、生きられるぅ~のかなぁ~?―」
――機械にある脳領域の内容
『ここのモノゴトリー協会とは別にグロリアランドという空中大陸がある。そこに我が仲間が生存している。地下にはアムヴァークという地下都市にも我が仲間が生存している。彼等はこの地に眠る“ブラックホール”を空中と地下の焦点から確認した。俺はこの協会の外に出るとブラックホールに入るよう仲間へ通信している。俺達は新たな生命として変容する。そうすれば友である君達に少し近付けるような気がする』
――俺はここから生きて出る――その意識を持っていたのに――ここでまた生きて外へ出られることを拒むように意識全てが落とされ――延々とそれを繰返されるのだった――
そう、ここは闇だ・・・。
やがて闇が俺を支配する・・・
その先は、光・・・だれ?
―――“俺は眩い閃光となって、きっと生還するのだ”―――
「生存、確認」
「確認、よし」
「継続、よし」
「№850、今は意識が無いようですね。
―――しかし、いいですか№850・・・。
頭の怪我ですが、我々から診るからに中程度かと思われます―――」
この怪我から回復することなど、いつになることだろうかと疑った。
―――実験で俺の意識はグチャグチャになっていた。
それでも彼等は俺の体内へ“意識調律薬物”という液体を点滴投与する事でまた再び立たせるのだった。まるで何事もなかったように。
1年間この調子で記憶を探している医療補助員の彼等は、ただサンシャイン現象と告げて間もなくして工事現場で労働することを現場指導員へ任せており、記憶が妙な感覚がすることを指令していた当時の俺は、もうこのリハビリはダメと断念していたが、決して妙でもないこととモノゴトリー協会では信じ込まされていた。それをこの医療班は“これらの工程は不思議なことでも特別でもなく普通のことだ”として覚えさせる方が俺にとってよい事だと通院するたびに教え込んでいた。
だからこそ、俺が以前何をしていたのかに必死になって首を長くして、ここでの実験に耐えて、どうして今に至るのかを思い出すのにはかなりの労力が必要になる。
しかし、モニターには変わらず俺の言語と異なる表示が成されていた。『俺の住む星には光があり幾つもの実験装置が開発されていたが既に記憶にない』という内容に変わっていたのだった。その訳さえ記憶が分からない時にどうして聞き取るのだろう。
「そうですか、回復はまだまだ先のようにみえますね。大丈夫です。これは“一連の星”だと思っていてください。この星はあなたの通過点に過ぎません。まだ№850にはここモノゴトリー協会での課題がたくさんあり、この医療施設でのカウンセリングを受けるよう推奨します」
――ようやく終わったのか・・・体がしんどい
彼等の推奨どおり、また半年後にこの実験が執り行われる。そしてまた、いつものように、彼はこう俺に言うのだ。
「さて・・・№850、随分カウンセリングから“居心地のよい意識から”覚めたと思われます。この薬を飲んでください。大丈夫、きっと落着きます。安心して下さい」
―――そして、またこのように指示を繰り出される。
「さァ、飲んでください№850」
(・・・・・・な・・・ぜ・・だ・・・・っ!)
「繰返す№850この薬を飲むのです!」
(・・・・・な・・ぜ・・・俺が・・・こんな・・・目に・・・っ!!)
「さぁ―ッ!」―いやだぁ・・・記憶を戻してくれぇ―!
「さぁァ、飲め・・・」―やめてくれぇ~、俺は明日が見たいんだァ・・・
「飲むんだァアアッ―――!!」―もう、やめてぇぇ~~ッ!!
「№850―――ッ――ッ!!!」―うああああァァ――あっ!!!
―――抵抗を見せると複数人に取り押さえられる。
俺の体は椅子にすべて固定されている。しかも医療班の手が俺の頬を掴む。
そしてもう一方の手で口へ、カプセル状のものを無理矢理と突っ込まれた。
それは、“意識変換薬物”という薬だった。
闇の先に見えたのは光でなくまさに“地獄”だった。
「ぅぐッ――おガァおォ!!?」
目の瞳孔が開き、大量の汗を搔いていた俺の意思は拒んでいた――。
――だが、無情にも喉はそれを飲みこんだ。
―――ゴクリ―――ッ
俺は1時間ほど集中治療室で気絶していたそうだ。
それから渡された薬が30袋と・・・、つまり半年分だった。
(この薬・・・、飲んでいたけど効果は人それぞれだと聞いたような・・・)
その薬とは“脳梁遮断覚醒剤”。
俺はこの薬による記憶を抑える副作用、効能にはかなり悩まされている。
(・・・半年前なんて睡眠導入剤を梱包されていたほどだったなァ・・・)
飲めない時は実験を受けることになるから脳と体がいつまで持つのかとても不安だった。
日誌だって俺は“ありがたい”等と書いていたが、そう書かないと実験の強度を上昇させてゆく。薬を増やすとか強度を上げて薬が要らないと判断された場合は神経を焼き切るほどの電気ショックを与えるとか、思えばとても異様な光景だろう。
そんな記録が溜まっていて毎日薬や自前の日付などで作業量をコントロールしている。
リハビリテーションの結果報告は10枚の用紙にコピーされ医師に渡される。
その資料を基に、診断を形成、サンシャイン現象は固定。
(・・・ほんとう、自分らしく居られる事が・・・いつも大変だ・・・)
このサンシャインでの医療用語はフィクション。




