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ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
第一章 リハビリテーション
13/82

名前、それは記憶のピース「1」


10カ月目が経つと仕事が連休になっていた。その初日、俺は定期的な医療補助員による面会を兼ねカウンセリングを受けていた。記憶を取り戻すことに焦っていた唯一の悩みが名前で呼ばれない事だった。ここは総合施設の一環、容態変化における連携は取れる筈。


―――それなのにまだ実験が繰返されるのだ。


「こんにちは№850」

「こんにちは、今日はお世話になります」

そう、二日の連休が始まった。彼は医療補助員のメンバーでカウンセリングを担当している。

俺は医療施設のほうで必ずナンバーで呼ばれているのだが、それは正直慣れるものでもなかった。彼等は名称で呼ぶことに細心の注意を払っている。それもサインシャイン現象での様々な症状が出ないよう、証言を行うためかなりの訓練を積み上げてきている。

そういった医療行為をするのだから、患者である俺の名称は№850である。

「さて、質問を開始します」

「はい、どうぞ・・・」

質問は続けられた。これから名も知らぬ彼の医療補助員によるカウンセリングがいよいよ始まったわけだ。俺も当時この対応は不思議と受け入れられるものだったが、現場指導員はこのような対応も“おかしい”と感じていた。

このときの俺の体には液体の入った点滴注射が打たれていた。

いつも単なる入眠導入剤と説明されていた。


「ではまず――、№850の記憶について質疑を――開始します」


彼曰く

『この施術は患者の意識へ突入していくもので、我々は患者の脳にある意識の中へ映りこむ輝く光を特異点として捉える作業にあたります。更には意識体としてその光の欠片を徐々に摘み取ることで記憶の中の神経伝達をより活性させていきます。意識のなかを整えられるよう手伝うものだと思ってください』

などと言っていた。

――確かに体の感覚はますます自分らしさを取り戻していくかの様だった。

その一方で、記憶を探ると言う行為は更なる意識への潜入捜査が必要とされている。

それは一時的に麻酔をかけて瞑想に近い状態で執り行われるらしい。


(俺は眠るのか。そして、起きた頃にはいつも通りスッキリしているはずだな・・・)


その当時は気付かなかったものの、カウンセリングの医療行為だと諭されていた。

しかしそれは危険な施術であり現場指導員の言うように“廃人”になり兼ねない。

俺的には宗教的な押し付けだったような気がする。その操作は“暗示”或いは“洗脳的”。

そういった印象を受けるのも仕方のない事だった。


「あなたは、今のところサンシャイン症候群と診断されていましたね」

カウンセリングへの紹介はサンシャイン現象ではなく症候群として扱われている。これでは状況が飲み込めていないとして、医学的に様々な視点が要求されるのだろう。

「はい」

「何かにぶつかり、事件に巻き込まれたなど現時点で覚えていた事は?」

「まだ覚えていた事は・・・。でも―――、今は不便は少なく現在は働けていますし、俺は大丈夫です・・・」


仕事と買物以外にどこかに出かけるでもなく、この協会でこのように保護されている身だ。覚えていることは毎日、毎日、日誌のなかに書いている。メモ帳も支給されている。


「今、特異点に差し掛かった」

「了解、特異点信号よし」

「意識を保たせろ」

「了解、意識とも問題なし」


特に日付は医療班が初診から最後のときに必要なので、記憶が戻った時に役立つのだと言う。それは更なる潜在意識の中でモノゴトリー協会との豊かさや毎日、行動全てを日誌へ書くよう指示(操作)されているものだ。メモ帳にもその日の情報の箇条書きとして日付を入れているが以前の記憶よりも最新の記憶だけが確認されたものだった。


「――どうですか、日誌など。この一年間でどの様な記憶が取り戻せていましたか?」

「はい――、指示通り書いています。今は手の感覚がもう少し左に向いていたようだと思いました。そして歩くよりも走る方が向いていたようだと発見はありました。俺には記憶が無かったので本当、重宝しています。なので、この方法はとてもありがたく――」


彼は“なるほど”といい、次にどのくらい施設で暮らし、時間が経過していたのかを丁寧に聞いてくれた。時々現れるフラッシュバックについては、当時ここでは言えなかった。

しかし彼はもちろん、モノゴトリー協会の医療班からはこれからどうするのかも計算して聞いてくれた。俺が外に出られることを想定してのものだった。


「もう、目覚めて1年経ち今の宿舎にも慣れ仕事もあり充実している。それから施設の周囲にも足を運んでいる。それで発見もあったということでしたね」

「ええ、発見もありました」


――俺がこのモノゴトリー協会へ来てから施設の外、つまり別の設備環境にも足を運んで充実した生活を送っている。治療次第では生活状況も変わると聞いた。

しかも気になる人がいて、声を掛けるかどうか当時、迷っていたものだ。たしかに半年前よりも落着いて居られた。当時はこんな事をされていた時はむず痒くもあったものだ。

それでもこのカウンセリングによって記憶を思い起こさせる施術は苦手だった。

深い麻酔下での意識の中で俺はずいぶん脳裏の内を彷徨っていたからな。


「いかがですか?何か希望は見えそうですか?たとえば今後施設から出てみて家を持ちたいとか、恋人を作ってみたいとかは?焦らなくていいですので――」


俺の意識体は言う。名前も知らずその人はまだ恋人でもないが、とても気になっている。別の施設で働いているその人はいつか俺の大切な人になるだろうと思っていた。

だが、そんな浮かれた気持ちはここでは即、打ち崩される。

医療班の遠隔操作によって俺の座っていた椅子から拘束ベルトが瞬時に掛けられる。

そして医療班から“脳領域覚醒剤ベニンレジョン・ステリジェス”を点滴投与され、俺は意識もうろうとなった。これが“洗脳”と知ったのは後のことだった。


「なるほどォ、君も随分と記憶が消されたのだなぁ~」

「・・・あのォ、身に覚えがありません、失礼します」



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