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ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
第一章 リハビリテーション
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我が指標を伝えよう


8ヶ月目がやってきた―――。焦っては焦るなと言われ焦るなと言われれば焦るように生きて焦らないよう生きてゆく・・・。医療班の提案したリハビリテーションというのは学習施設が存在しない。だから肉体的行動と僅かな資金援助から購入する本を読むことで記憶の安定を求める事でしか言葉の表現ができないのだ。言葉は選択であり言葉は道となる。“それこそ指標”と『君の道標』の著者アークス・メイディンが表現するのも納得だ。


(・・・さて、標識を見つけないといけないな・・・)


このモノゴトリー協会にある現場のほうの複合施設には様々な施設が点在しているが宿舎と別に宿泊施設もあり店もある。それ等の道々が長く広く分かれており私は今、そこで住まわせてもらっているが、宿舎まで戻る道のりや方向感覚は各所に設置されている標識によって保たれている。ナンバーネームは道で迷うといずれ運ばれるのだが心身衰弱した場合に限る。人間であるのに人間でないような生き様を示すのもまた“道標”と言えよう。


「やあ、あんたも標識で迷っているのかね!!」

「はっ!!指導員さん!?」

彼は私の声に驚きを示すのだ。普段私的な所で一人きりだった事が彼の神経をとがらせていたようだ。私とは私的に話すこともなかったようで、ここで声を掛けられるなどと随分“久しぶり”だったような気がした事だろう。

「なあ、あんたも宿舎へ帰れば一人なのだろう?私もそうだ、一人さ!だからもし良ければだが・・・、話でもしていかないか?」

彼の意識はこのような目線を流す。

(誘ってくれているのかな。俺タバコと酒はダメなんだけど・・・)

毎日、汗を流し体中が固まるのだから今の体では限度を感じる事を示しているのだ。

それなら私はタバコよりも酒を勧めるほかないな・・・。

「なに、タバコは吸わんよ。でもその代わり私の愚痴でも聞いてくれないか?」

「あの、その・・・指導員さんもフラストレーションを溜めていたのですか・・・?」

人体的に溜まる事があるその欲求不満というもの。生理的現象だと脳科学で証明されたが、人間とは脆いもの。

「まぁな!私もそういったものが溜まるんじゃ一人じゃつまらんよ!だからあんたに相談だ。あんたもリハビリテーションだけじゃ疲れるだろうからな!!」

私は現場指導員としての目線を外しいつも彼をしっかり見て声を掛ける形をとる事しか出来なかった。相談に乗ることもそうだが彼に欠けているのは記憶でなく意志なのだ。

そんな時の流れに則り私が理論上で愚痴というものを放つ予定である。数多なる民を従えていた彼が今はどのように示すのだ?

「あのォ、それなら医療班へ相談するのは如何でしょうか・・・?」

「フンッ!医療班では解消されんよ。俺はあんたに見せたい。“今の私”がどうであるかをだ。まァ、いいだろう偶にはァ~!さっさと付いてきてくれたまえよッ!」

やはりあの世界線を越えてしまうと力が収縮し意図的に発揮されないのだろう。

私が用意した暗い一室に扉の外にゴミ袋、洗濯機がある。

彼はこれをどのように見るのだ?

(彼は、その部屋へ招待してくれた。彼は目の暗い笑顔だった・・・なぜ?)

その意志を示すのだ。過去に遡る彼の記憶と意識へ委ねよう。

「―――まずは水だ。さあ、酒はないから心ゆくまで飲みたまえよォ~!?」

(そのニコッとした顔、怖いんだよな。もう少し距離を離してくれるといいかなぁ~)

怖いというのはその意志に宿るものではなさそうだ。

体が人間としての意識を介しているのだから自然な動きだろう。

「それでぇ、そのォ・・・愚痴というのは・・・?」

「よくぞ聞いてくれたッ!よぅっし!今日こそ言うぞォォ――ッ!!」


まず、私はこの施設で働いているという設定で妻が居ると告げる。

その内容には彼のかつての要素が割り振ってある。まだ純真な頃の彼ならば意志は若く芽生えてこない。しかし民を連れていた彼なら話を反らさず苦悩してしまうだろう。

さあ、彼がそのままこの場へ居られるのかその意志へ委ね試してみよう・・・。


―――薄暗い現場指導員の部屋

「私の妻はモノゴトリー協会の介護施設テュサイズで働いている・・・だがなァ」

「は、はぁ・・・なるほどォ~~」

いつも酒に酔って帰る彼は妻とのスキンシップに悩んでいた。

酔っている彼と妻の意識がズレている事にだ。

「私だって仕事以外の事をしたい・・・ッ!なのに妻はこう、カッとなってだなぁ~」

“たまにはマーケットに付いてきて服を一緒に選んでほしい、子供と話してほしい、それから施設内のビーチにも連れて行ってほしい、食事くらい色々と食べてみたい、夜は一緒に寝てほしい、朝は今日もキレイだと言ってほしい”・・・などなど、現場で多様に動き回る彼にとって妻にも仕事があり家庭両立したくてそれで安らぎを求めていたようだ。

だけど妻である彼女にとって夫としての“当然している事”の要求であることは彼も承知していたようだ。彼は“意識が違う、意識がだ”と開き直るも俺からは“マニュアルがあっても意識は誰だってズレてしまう事なのでは?”としか言いようがないが彼は笑う。

俺にとってこの夫婦間のズレはかなりハードな内容だった。それはお互いの身になればこそだった。何となくこの感覚には覚えがあった。


「なあ、分かるだろう?それでな!?私はな、彼女に言ってやったんだ!!」

(段々声が大きくなる。俺は彼のこの勢いを止められないのか?・・・それと、さすがに正座はキツい!はやく帰りたい―――ッ!!)

「おや?いつもの現場での勢いはどうした?まだまだ、愚痴は山ほどあるぞォ!?」

“ガハハハハ――ッ!!”


大声で笑う彼の目には凄い勢いがあり、怖かった。いつもよりもギラギラとしていて唾液が口の中を覆っているのが見える。その彼が顔をニヤけてつかせていて今にも食べに来そう。俺はそのまま猛獣に従う置物のように身が固まっていたのだった。


「それでも私はなぁ―ッ必死に働いているんだぞォ!!何が“一緒に行って子供を見て”だよォ!どうだねぇ~、あんたもォッ!!私はなぁ妻と子供にも自慢してやりたいんだァァッ!!なぁ、現場の皆も言ってくれぇ、私に付いてェエ、もっと頑張るよォオオ――ッってぇ!!」

更に大声に輪をかけて両の腕を挙げていた。ちなみに現場指導員である彼は細身である。

このエネルギーは一体どこからやってくるのだろうか。俺の脳の声が訴えている。

「ぐふふふふふ・・・・いいかね・・・ぇ」


――いい加減、ここら辺にしてもらえないかなァ

愚痴は散々聞いたんだから、もう帰りたいよォ・・・

なんにも食べてないんだから・・・

あと、眠い――ィ!


「いいかねぇ!?あんたもだァッ―!!・・・いい嫁さん見つけろよォ?ボケっとしてたら誰かに取られちまうからな?憶えとけぇェェ―――ッ!!」


――うぅぅ・・・血の気が多いなァ

こんなのマニュアルになかったよォ~~


「イヒーィッヒッヒッヒィイ――ック!!!」


――酒を飲み始めるといつもこうなのか?

飲まないんじゃなかったんですか?

指導員さん!


「あのよォ、そろそろ時間・・・かねぇ~?・・・ヒック!」


―――パン―ッ

――あなたは酒豪なのね。

“ねえ、ミヘルも酔っちゃった”

“よォ、ミヘルなんか放っとけよォ?俺も、こいつも、まだまだァ飲めるぞォ~ッ!?”

“はァ・・・まったくもう!今日は血の気が多いわねぇ、あなたは特に・・・あのね、いい?明日はまた計画を進めないといけないのよ?そろそろ彼も解放させて寝させてあげなさいよねぇ!?”

“なんだとォォ~俺は皆でやっと、やっと王国にィイッ!?”

“もう、まだ終わってないって言っているでしょッ!?”

“僕はもうぅ~~終わってキミだけ・・・・ムニャムニャ~~”

“ああッ寝たァァ!なぁイータァァ、一緒に飲もうよォォオ――!?”

“あッ、この馬鹿ッ寄るんじゃないわよ!キャッ?ちょッ、どこ触ってんのよォ!”

”――ドカッドカッ――痛ぇえ!やめ、おい、イーターァァ”


――もうそろそろいい加減にしなさいっ!!


―バチンッ―


「っは・・・!」

何だ、今のは?俺も飲んでいたので幻覚でも見たのだろうか。

(やっぱり酒はダメだ)

もう、現場指導員の彼は酔いが冷めたのだろうか。

「起きたかね?」

「・・・はい、俺も酔っていました」

「私が酒を勧めた事はすまなかったね。もう、帰ってよいから明日に備えろよ?」

(やっと、解放された。もう帰らないと・・・)

指導員の話は結局、愚痴ではなく現実的に悩みがあったというものだった。

現場じゃ、事故が起きる時があり対処する役だから、覚えておくことが多い筈だ。


“天命は近い。くれぐれも彼女を―――、我が姫君を頼んだぞ―――”

“はい、仰せのままに。あの日が来る時まで―――、俺は殿下の示す計画を―――”

“―――解放されることを祈る―――”


お陰でフラッシュバックが起きたよ。

でも夫婦だと、色々あるんだな。

「明日もリハビリだ。それと、焦らず気をつけて帰るんだぞ!」

「あ、はい。では、お邪魔しましたッ」

こうしてこの日も宿舎へ帰ることができた。

(酔いが冷めず現場で万が一具合が悪くても働いてしまったら・・・もしそんなことで事故でも起きていたら・・・俺はこの居場所を失っていただろう)

ふと、そう思ってしまう俺だった。

外は夕日から青黒い夜へ空を覆っていた。毎晩俺は明日も事故のないよう祈っていた。

この日というこの日ごとに日誌をつけ、生きていられることに感謝をし、そして眠る前には購買部で手に入れていた本へ目をむけている。その本はいつも哲学的でなんとも格言の多い内容だった。この本について作者はあるページの後にこのように詠っていた。


『天意のことば』

―――この世は平たい地面へ向かっている。地平線、人も光も温度も。

自分の住むところを移せば、また新しい空気を味わえるのだ。

どんなに歩いても倒れていても太陽も月もすべてあなたを映してくれている。

その魂宿る願いの意味を想うのなら再び憶えておくといい。

光はいつもあなたを見守っている事を忘れてはいけない―――

――――――著者ビヨジャ・メンション・ジュダスより


確かにここは新鮮な感覚で居られている。医師から聞いた光。でもそれは当時何なのかはハッキリしないし言えないで居る。俺はどこからやってきてどのような人物なのかも。だが、俺はきっと記憶を取り戻す。きっと戻る、戻せる筈だ。


俺はそう信じて眠る。


意識がうっすらと俺以外の意識へ運んでいるかのよう。


明日は・・・。


―――そうか、私の意志の一部を彼は覚えていてくれたようだ。

それに加え、あの彼等と私との繋がりをも覚えてくれていたという。

君はその意志を示してくれるのかね?


―――――――あの私の分身を――




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