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 今日、訓練の最中言われた事だ。


「一週間後、この城の近くに狩猟場がある。その場所で、狩をしてみる事にした。彼らなら魔物と違って突進して来る事もないし、いきなり噛み付くこともない。多少威嚇されたりはするだろうが、所詮は動物だ。邪気を放つなんて事は無いから安心して訓練が出来る」


 という。騎士団長らしい男に言われた。その男はこれだけ告げてどこかへ行ってしまったので名前などは知らないが、それなりに大柄で、逞しい体を持った男だった。


***


 召喚されてから一週間が経った。この一週間何ら変わらない生活をしている。だが、数日後森に行くのだ。それなりに下調べがしたい。

 俺達勇者には色々な権限が与えられている。そして、その中の一つに王宮図書館立入許可というものがある。王宮図書館には多大な書物が置かれており、その書物を閲覧するには本来多大な申請書を退出する必要がある。だが、俺達は勇者という事で申請なしで入れるようになっている。これは俺からするととてもありがたかった。書物の内容は様々だ。魔法について書かれたもの、この世界の植物について書かれたもの、この国とその周辺の国の詳細な地図。中には物語の書物もある。ショートスリーパーであまり睡眠を必要としない体質のお陰か、毎晩毎晩大量の書物を読むことが出来ている。その中に、数日後に行く事になるだろう。森の詳細な情報が載った本も入っている。この一週間で俺はこの世界の事を大体理解する事が出来他と思う。まぁ、それはリォルのお陰でもあるが。リォルが色々なことをベラベラと喋ってくれる。俺はそれを全て記憶しただけだ。そんな大層な事はしていない。

 そして今日は、書物を漁るだけではなく、森に行ってみようという事になった。城下に降りてみたいが、勇者としてのお披露目が終わるまでは城下に降りる事を禁じられ、よく分からん魔法をかけられてしまった。リォル曰く、この魔法を解く事は出来るが、解く事によって魔法をかけた者に知らせが届くようになっている為。魔法を解けば、警戒させてしまう。こうなっている現状どうする事も出来ないので大人しく従うに限る。


『リォル、行くぞ』

『毎晩来ている密偵はもうきたのぉ?』

『あぁ、先程帰って行った』


 そう、あの密偵のような黒い人間は毎晩毎晩俺の寝室の窓付近に現れた。いつも反対の立場だった為なんか変な感じだが、いつも観察していたお陰で無事にやり過ごせている。まさかこっちが向こうに気づいているなど考えてもいないだろうからな。クラスの奴らからもそう言った声を聞いた事はない。


『じゃぁ、窓から降りるから、リォルは俺のポケットに。魔力を使わない為にも、だ』

『よろしくねぇ』


 窓から飛び降りる、2階の癖に随分と高いが、これくらいの高さなら何ら問題はない。

 記憶にある地図の通りに進めば、だんだんと大きな木々が見えてくる。そこに向かって俺は突っ走った。いるのは鹿や兎、蛇や熊、狸、狐、といった武器さえ持っていればあまり脅威になり得る事の無い動物ばかりだ。


 この狩猟場は国が管理している。魔物がいる筈が無い。筈が無い筈なんだが……一体どういう事だろうか?これは魔物では無いだろうか?人型で緑色の体にとんがった耳、口は大きく、そこから覗く牙は人間の肩など簡単に噛み砕いてしまいそうだ。そう、そいつはゴブリンと呼ばれる生き物だ。明らか動物ではないだろう。


『おい、リォル、おかしくないか?』

『うーん、まぁ、あれだねぇ、魔族が動き出したんじゃ無いかなぁ?多分だけどぉ?魔王が生まれたんだと思うよぉ?もしくは復活ぅ。魔王が生まれるかぁ、復活したらぁ勇者は召喚されるとされているからねぇ。これは神話の話になるから、詳しくは後だよぉ』

『あぁ、分かった』


 現れたゴブリンは3体。身につけている装備は何も無く、腰に布を巻いているだけだ。皮膚も硬い鱗で覆われていたりとか、特に硬そうな感じはないので俺はそのままナイフを手に突っ込む。傷は深く、そして血を流す前に手っ取り早く片付ける。真っ赤になった体では目立ってしまうから。それに生臭いのは好かない。小さい頃はよく真っ赤になってたが。

 三体のゴブリンは一言も声を上げずに絶命していた。まぁ、それが出来るように訓練していたのだから当たり前か。


『さすがぁ』

『いや、それよりも何か大きな気配を感じないか?』

『僕、気配は分からないけど、魔力なら感じるよぉ?結構大きいねぇ、多分だけど、個々の動物達を食わせて、魔物をより強大にしたかったんだろうねぇ。まぁ、あるじなら大丈夫だよぉ』


 リォルがそう言うなら良いだろう。

 俺はその気配がする方向へと向かった。


「&&%#!(0`%#$"#(%」


 何を喋っている?なんて言っているのか詳しくは聞こえないが、何か唱えている様だ。


『!?あるじ!早く止めて!!』


 止める?アイツをか?まぁいい、理由は後だ。

 後ろから思いっきり蹴りを入れて吹き飛ばす、その後直様ナイフを首元に近づけ脅迫する。


『どうすればいい?こいつは殺していいのか?』

『あぁ、殺してくれ』


 リォル、なんか変だな。口調もいつもののんびりとした口調じゃないし。殺気がダダ漏れだ。

 俺は取り敢えず奴の首にナイフを滑らせる、ついでに胸にもナイフを入れておく。喉を掻っ切られ心臓を的確に刺されればいくら魔族といえどくたばるだろう。


『で、コイツはなんだ?』

『僕の因縁の相手の部下だねぇ。まさか奴がいると思わなかったからぁ……』


 決まり悪そうに歯に噛むリォルは何か考えている様だ。俺に過去のリォルはわからない。だが、この話が容易に触れてはいけないものだという事は分かる。


『今日はもう帰るか?』

『いやぁ、逆かなぁ?帰れなくなった、の方が正しいかもねぇ』

『そうか、出来る限り協力しよう』


 そう言ったら、リォルは迷う事なく魔力を所望した。まぁ、全然構わないのだが。



 こうして無事にリォルの用事は済んだのだが、問題は動物が魔物に食い荒らされてしまっているという事だ。これでは数日後の訓練はままならないだろう。


『その心配はないかなぁ。ここにはスポナーと呼ばれる魔道具があってねぇ、王宮の中かから操作出来る魔道具なんだけどぉ、急激に獲物の数が減ったりすると自動的に補充されるシステムになってるんだってぇ。どっかから動物を転移させてるらしいよぉ』

『なら問題ないな。それで、魔物はどうする。恐らくだが、狩り切れてはいないと思うぞ?』

『それなら問題ないんじゃないかなぁ。あるじはきっと明日もここに来る事になるからねぇ』


 それはそうかもしれない。きっと何か気になる事ができればこの森に来るだろうから。


 森から帰った俺は自分の部屋へ窓から入る。すると、部屋の奥に影が見えた。咄嗟にナイフを構え、相手が姿を表すまで待つ。


「あの……桜木君、さっきみんなで集まろうって話になったんだけど、居なかったから……待ってた』


 確か神崎琴音といったか。しかし何と答えたら良いものか。


「あぁ、それで、俺はどうしたら良い?もう夜も明けるこの時間までずっと待ってたのか?」

「うん」

「寝てないみたいだな。それでは睡眠不足で倒れるのではないか?」

「それは桜木君もでしょ?」

「俺は慣れてるから問題ない。それより神崎、帰って早く休め。少しでも長く寝た方が良い。他に何か用があるなら今日の……そうだな、7時でどうだ?その時間だったら、ここに居る」

「あ、うん…ありがと」


 俺は、神崎の背を見送る。さて、どうしたものか。何を聞かれるのかなんて目に見えている。そして、長い時間留守にしていたのもあって、言い訳が聞かないのも分かっている。神崎になら本当の事を話してもいいかと思ってしまうが……それはよくないと引き留める俺も居る。


 そして、訓練後神崎は現れた。

 コンコン、と控えめなノック。


「神崎だろ?入れ」

「うん」


 俺は部屋へ招き入れた神崎に紅茶と茶菓子を勧める。


「俺も、やる事が多くてな。いろいろ調べたい事がある。話は手短にお願いしたい」

「えっと、あの、昨日は……あんなに遅くまで、何をしてたの?」

「ちょっと森にな…気がかりな事があったから。そしたら変なのに出くわしちまってな。時間がかかった」

「あ、え、そうだったの?で、でも、危ないからもう行かないで。桜木君に何かあったらって、怖かった、から」

「すまない。心配してくれたのなら謝ろう。しかし、これは自分の身を守る為だ。やめろと言われてやめられるものではない」

「あ、そうだよね。じゃぁ、さ、もしよかったらだけど、どこか行くなら私を連れて行って」

「しかし……」

「良いから連れてって!」

「あ、あぁ…なら、次は頼む…」


 この会話は勿論だがリォルも聴いていた…そして何故か俺はリォルにモテ男にされている…何故だ。問題ばかり起こしていた俺がモテるわけないだろう。いかにもインキャな根暗だぞ?


『えぇ〜、絶対モテるでしょぉ?』


 この声を俺は無視した。


***


 そして今日は王宮の近くにある狩猟場に来ている。そういや荒井風雅とやらが全力で阻止しようとしていたな。危ないから良くないと。

 いくら勇者と言えど戦闘慣れしていなければとんでもない才能を秘めているただの一般人だ。

 と女に言われて仕舞えば彼も何も言えなくなってしまった様だが。

 それに今回は実践訓練だ。勿論騎士の皆さんがついていてくれる。とんでもない事態でも起きなければ死人げ出るような事はない場所。正直に言って仕舞えばクラスの奴らも余裕で倒せる様な生き物しか生息していない。それについては確認済みだしな。


 この俺が一週間何もしないで居るわけがない。一応これでもクラスメイトなんだ。多少の気遣いくらいしているつもりだ。それに俺自身情報がない場所に乗り込む程無防備ではない。よく調べてあるから、あまり危なくない。この俺が保証しよう。

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