外伝その1 〜クリスマスツリーを飾ろう〜
(〇 〇)「クリスマスだし、うちらも宇宙船デコデコするか」
(‐△‐)「げー。あんな華美におあやどりになってワーレワレハシモジモトハ違うザーマスよーなんてことを――」
(〇 〇)「うん。お前みたいな着眼点持つヤツは死んだらいいんだよ」〝トナカイに轢かれて〟
(‐△‐)「え~。俺もっとかっこいい死に様がいいなあ。俺、死んだ後ヴァルハラの館でオーディーンに見初められる予定なんですよね」
(〇 〇)「で、そのあとはヴァルキリーの姉ちゃんとちちくりあうんだろ」
(‐△‐)「……すみません、未来から来た人ですか?」
(〇 〇)「安心しろい。テメーがヴァルキリーとちちくり合う未来なんか、如何にパラレルワールドの存在が叫ばれようともありえねえから」
(‐△‐)「ちェ~。所詮俺がちちくり合えるのなんてキャンディさんが関の山か……」
(〇 〇)「アア? 誰があーしどまりだよアアン? てめーあーしの×××に顔面つっこんで圧死&窒息死させたろかい!」
(‐△‐)「そんな無様な死に方じゃオーディーンにお目通り叶わないやい!」
(〇 〇)「あったりまえだろそもそも戦死なんかするタマかよおのれが!」
(‐△‐)「いやだいいやだい!かっこよく死ぬんだ俺はぁ~い。俺のことはいい! 先に行けッ!って隠れたところで練習してるんだから~」
(〇 〇)「見たよ、何回も見たよそのシーン。その度にぎょっとすんじゃねえよ! もう割れてんだよオメーがその練習してっとこ! そのあとぴゅぴゅぴゅ~じゃないんだよ口笛!」
(‐△‐)「影が必要でしょうがかっこいい男には! あばくなやすやすと!」
(〇 〇)「じゃあテメエが場所変えろや! なんで階段前とか人が通るであろう場所で練習すんだよ! ガラス前でダンスの練習して人通ったら辞める人か! お前が人通りの多い場所選んだんだろがい! なんでちょっとこっちに責任寄越してくんだよ、にらみすかしと共にぃよぉ!」
(‐△‐)「通らないと思ったんだもん…」
(〇 〇)「そんな理屈通用するかぁ! お前以外も済んでんだよ!? ここには!」
(‐△‐)「そっちが気を遣って欲しい」
(〇 〇)「こどもかお前は!」
(‐△‐)「いいんだよボクはこどもで。そうじゃないと星座とか出せないんでしょ? やめちゃうよ?戦力にならないよ?」
(〇 〇)「そしたら降ろすまでだよ」
(‐△‐)「キャンディさん好き」
と言って僕はしがみつく。
(〇 〇)「いやもう無理だろ。もう立つ瀬なくなったんだろ?」
(‐△‐)「キャンディさんなんてだーい嫌い! キャンディさんとずーっとずーっと一緒に暮らさないぃ!」
(〇 〇)「それ言えば感動的に収まると思うなよ?」
(‐△‐)「キャンディさん肩凝ってない?」
(〇 〇)「はいはい。無理だよそんなうわべだけのべんちゃら……うわべんちゃら」
(‐△‐)「しかしですね~キャンディさ~ん。どうしますぅ? こたびの飾り付け~」
(〇 〇)「もうそんな気なくしたよ」
(‐△‐)「先取りして鏡餅飾っちゃおうかな~」
(〇 〇)「はい、ふざけた~。はいもう無理~。もう今年は飾り付けしな~い。というか永劫うちらは飾り付けしな~い。はい、押し入れの飾りフリマ行き~」
(‐△‐)「ごめんごめん。肩揉むからあ~」
(〇 〇)「オメーのご機嫌取りそれしかねーのかよ!!」
(‐△‐)「え~じゃあ他に何揉めばいいのさ~」
(〇 〇)「まず揉むというところから離れよ」
宇宙船アソートビバ和室
(‐△‐)「やっぱりこたつが落ち着きますなあ~」
俺はこたつに入ってぬくぬく。
(‐△‐)「ばあさんや、お茶でも淹れてわくれんかの」
(〇 〇)「誰がばあさんだよ」
と、ハリセンでぽかり。俺は大きめに首を揺らしてぼんよよよ~んと呟く。
(〇 〇)「くだンね~ことやってねーでさっさと飾り付け済ませろや」
(‐△‐)「焦らない焦らない」
俺はずずずとお茶を一口。
(‐△‐)「正月になってからでよくないスか?」
背後の方へ走ってゆくキャンディさん。
そして。
だっだっだっ。
(〇 〇)「それじゃ片付けの時間なんだよッ!!」
と勢いを付けてドロップキックが俺の背中にクリティカル。
8900のダメージ。
(‐△‐)「ぐわあああああああああ!!」
勢いに折れ曲がらされる俺のおでこを、迂闊にもテーブルの上の茶飲みが襲う。ぐわああああああ。
痛いし熱いの。
くそー。飼い主に手を噛まれるって感じによく似たあれだ、うん。
(〇 〇)「いいからはよやらんかい!!」
あ~あ。なんだよ。これじゃあ構図がジャングルの王者ターちゃんとジェーンの構図だよ……
上手く行かねえ――人生ってなんでこんなに上手く行かんのぢゃ……
(〇 〇)「そんな思い通りに行くもんじゃねーからだよ」
あ~あ、心読んでくるし。独白とかの概念ねーのかよ、ここ宇宙にはヨォ……。なんだよ宇宙人、進化し過ぎだろ……心読めるまで発達してどうなるってんだよ。
とぼとぼ歩きながら俺はキャンディさんのもとへ。
(〇 〇)「大宇宙の流れに文句言ってもしょうがねえだろ」
ぷるん。俺のおしりがぱしっと言って揺れた。キャンディさんに叩かれたんだろう。あ~あ、まったく。俺がおしり叩かれるの好きな生物で助かったな。さもなくばおめーの事――
(〇 〇)「引き裂くぞ割れ目」
と言って俺の脳内に俺がおしりの割れ目を活かされてそこから真っ二つに引き裂かれるイメージ図をキャンディさんが念波に乗せて飛ばしてくる。うひへええ~。これ死ぬだろ。如何に宇宙人でも死ぬるだろこれ――
(〇 〇)「割れ目から引き裂くぞ」
と言ってキャンディさんが後追いでにらみを効かせてくる。
(‐△‐)「俺はざくろじゃねえっ」
と言って俺は汗を飛ばしながら最後の抵抗に冗談を放つ。
――やるしかねえ。飾り付け。
どうなっても知らないぜ?
――だいたい、おしりの割れ目ってのはそっから割る為に割れてるわけじゃないのに……割りやすいように割れてるわけじゃない――割れ線ぢゃないのに……
【一休みゾーン】
アソートビバ和室・クリスマスツリーのそば。
俺はまず星形の飾りに手を伸ばす。
これを乗っけてあとはきらきらのぼさぼさ巻けば終いだろ。あ~めんどくせっ
えっと――なんだこりゃハマんねえぞ? あ? これどこで止めんだこれ? あ、違うわこれ先っぽに挿すやつじゃねえのか紛らわしいな。先端綺羅星面してんじゃねえ! もういい。これボンドで止めチャロ。良かったな。俺に見つかって。今宵はお前を一番上のお星様にしてやるよ。せいぜい俺に感謝するんだぞ。
――んで? これを――なんだよこのきらきら毛羽立ち。名前何つーんだよ。お前なんかに名前なんかねーか! んで? これを巻き付け~の? ふぁさーじゃねえよ! 落ちんなよ! ……ふぁさー! またふぁさー!!
ああああああ゛あ゛!! ムカつくのゥ!! てめえ引きちぎってやる!!!!
……引きちぎっちゃった……どうしよ。
これキャンディさんに見つかったら大目玉だな。あ、あひい……想像しただけでおしっこ漏れる……やべえ。今日のクリスマスは血に染まるぞ。血のクリスマスだ。ミンチよりもひでえ事になるの請け合い。
ローストチキンに心配されるやつだ。
だいじょぶっすか? ミンチさん……
いやあ、だいじょぶだいじょぶ~なれっこだからさ~
また元に戻るんすかあ? ミンチさ~ん。
こんなもんなれっこだから二三日? あ~まあ正月前には元通りよ。
すげェっス!すげェっす!ミンチさ~ん。
……みたいなくだらない妄想はさておき今晩はうちにローストチキンは出るのだろうか。いんにゃ。でねーだろうな。まずチキンが手に入りづらいぞ。うちの家計上。チキン的な何かは出るが、ローストされたチキン的な何かは顔を出すが、罷り間違ってもうちの食卓ではチキンには出逢えまい。ローストデベソガエルが関の山だな。さよならおデベ。
ここにデベッソンが居たなら、ボクを殺さないで欲しいデベ~とか当たり障りのないツッコミするんだろうな。はあ。恋しい。当たり障りのないツッコミが恋しい。デベッソンったら何してるんだろう。……あ、そうだ念波してみよ。
(デベッソン――デベッソン――?)
………
……
…
駄目だ。3コール以内に出ない。これどっか行ってるな。そもそも念波の届かないところにいるわ。ま、うちそういうとこ奔放だからな。困ったら頼れって言ってるけど基本的にはわーってやってわーって帰ってこい(?)だから。まあいいや。あ~コーラ飲みたい。ここらで一休みしてコーラ買ってくるか。
〝がしゃこん〟
※宇宙船アソートビバにはたくさんの秘密があって、誰が補充しているのだか分からない自動販売機が船のあちこちにあります。
和室・クリスマスツリー前。
ふい~。うまい。コーラうまい。台所行ってレモン搾って来たからバリうめえ。しかしあれだな。改めて一拍置いてツリー見てみるけどなんだこの完成度は。我ながらフィルター通しても手つかず感がもの凄いぞ。なんだこれ。もみの木の緑の部分に白いさわさわが浮かんで、まあボンドなんだけど、ああ~これどうすんだよ~キャンディさんに殺されんぞこれ~。あ~コーラうまい。くっそ~。こう、雪の感を――ホワイトクリスマス感を出してみました~とか言っても、余計な事すんじゃね~って昇竜拳食らうの目に見えてるな。あのさ。昇竜拳って殺人拳のひとつだからね? それも奥義だから。封じ手だから。サガットの胸の傷、これでつけたんだから。ねえ。そんなもんたとえパロディでも軽々しく撃っちゃいけねえのよ。
う~んどうしよ。なんか赤が欲しいな。それも誰もが思いつかん赤をあしらいてえ。俺の中の職人気質がうずいておられる。よし、ならばこの飲み終わったコーラの空き缶を――こ~んなところに置いちゃったりして~☆
いや、そんな☆の上に置いたところで安定――
落ちた。その反動で星のいっぺん折れた。ぽろ~ん。そんでコーラの残りがちょろっとはみ出てサンタの人形にシミが出来た。急いでコスっても落ちない。それどころか染みこんで大きくなる一方。
―――
――
―
まずッ!! え!? まずッ!! どうしよ! これ怒られるよ!? キャンディさんに大目玉食らうよ!? 大目玉食らうというか俺の目玉引きずり出されて俺にぶつけてくるよ!? そして俺はそれを食らって夏侯惇よろしく食べるハメになるよ!?
まあ、仮にも半身は宇宙人だから元に戻ると思うけど。
……え? ホントに戻るのか? 心配。
よし、じゃあ、そもそもキャンディさんに怒られない方向性で。ぐぎゃあ! 目の前にボロボロのクリスマスツリーがぁ! 何も問題解決してねええ!!
頭を抱える俺。よし。しょうがない。一回、ドクターペッパー飲んで考えよう。
……おろ? こんなとこに箱が――ガンプラじゃん。あれ? こんなとこにがんぷ――あ。Ezー8だ。好きなんだよな~この兵器感。あ~このSD感よ。ディフォルメ具合たまんね~♡ うおおお。これバックパック付いてんのかよ! え!? これ楯撃ち再現出来んの!? SDの癖して!? やべっ! なにこれ全然素組みで――
(〇 〇)「――おめえなにしてんだよ」
見えるッ! 僕にも見えるッ! 背後だけど! おそらく目元に線が幾本も引かれてるキャンディさん、がッ!!
ほわほわ~ん。
(‐△‐)「ん?」
(●∧●)「ようやく起きたかよ」
〇 〇
(☆∨☆)「お先に頂いてるケロ」
(‐△‐)「うわあああああ! なんか鍋囲んどるううううう!!」
と、俺もこたつに滑り込もうと試みるもぎゅっ!それを何かが許さない。と思ったら俺縛られ括られとる。吊されとーんがな。
(〇 〇)「オメー、罰としてパーティ不参加だから」
(‐△‐)「そんなああああああ!!」――嫌だい嫌だい!そんな両津勘吉みたいなバッドエンドみたいな終わり嫌だい嫌だ~い!!
(‐△‐)「許してよおおキャンディさあああん」
(〇 〇)「……」
(‐△‐)「うわああああん! 無視された!そっぽ向かれた! これぞそっぽ! 辞書に載せたい!例文として載せたいっ!!」
(●∧●)「……口も塞ぐか」
(‐△‐)「っがむぐ」
(〇 〇)――自分で口を塞ぐジテン。上の唇と舌の唇が交錯して手術後の縫い目みたいになってる。
(●∧●)――ちょっと泣いてるじゃん。かわいいんだ♡
〇 〇
(☆∨☆)「はむはむがつがつ」
(‐△‐)「ううう……器用だねデベ。お箸誰に習ったのかな?」
〇 〇
(☆∨☆)「ジテンでべ」
(‐△‐)「そうだろうがいぃぃ!! なら今こそおどれの受けた恩返すべきじゃねえのかぃいいいい!!」
〇 〇
(☆∨☆)――みたいな事言って紐で吊されたジテンはじたばたするけどそんなの知らないでべ。
(‐△‐)「ううう……」
――クソがっ。クソが。斯くなる上はここらでおしょうべんでもおだいべんでも漏らしてこのパーティを終わらせてやる――ッ!!
テロリストだ……俺は立った今からテロリストへと変貌するッ。
みてろやくそ共が。お前らが造り出した社会と云う物のいびつさをぶつけてやる……規律正しい社会が生み出したもうたいびつさの権化よ! 今我の身体に集えんッ!!
(‐△‐)「うおおおおおおおおおおおッッ!」
俺は下半身に力を込める。ありったけの力をだ。
――もうどうなってもいい。
――だから
――ありったけを。
ぶぽむり。
宇宙船に吊されたジテンを引き釣りながら。今日もアソートビバ号は宇宙を進む。