第九十五話
学校に通い始めて四ヶ月が過ぎたにも関わらず、友達が出来ないのはほぼ毎日やって来るリアナとリディアのせいだ、クラスメイトとは仲良くやっているつもりだが彼女達のせいで距離を取られている、先生にも注意を払っていたのだがそれも限界にきている、最近はもう魔力操作が得意になったと言う事にしているがそれでも俺にだけ細かいチェックが入っている、来月末には前期の試験が始まるのでクラスのみんなも自主練習に忙しい、俺も一緒に練習しようとするのだが決まって邪魔が入る。
「ノルト!今日も試験の練習か?私も自主練するんだが一緒にやらないか」
「お前は上級魔法師の試験だろ」
「いいじゃないか、ノルトの練習は私達も参考になるんだ」
「そんなわけ無いだろ、だいたいもう関わらない約束はどうした?決闘までしたんだぞ」
「私の胸を見た可能性がある限り約束は保留となるだろ?今まで通りと言ったのはノルトだ」
「だから見てないって何回言えば分かるんだ」
言っても聞かないので仕方なくいつも一緒に練習している、そうすると当然目立ってしまう、最近では他の上級魔法師にも話しかけられるようになった。
「相変わらず仲いいなお前達」
「これはマーチン伯爵、何とかしてください」
「まあ、何とかしてやりたいがリディアがお前に惚れてるからどうしようもないな」
「ブレッド!誰が誰に惚れてるだって!」
金髪のサラサラした髪をなびかせる王子様のようなこの男はブレッド・アス・マーチン、この町の大貴族だ、リディアにはこの男の方がお似合いだと思う。
「じゃあな、頑張れよ」
「マーチン様!待って下さい!」
ノルトの声が届いているはずだがそのまま行ってしまった、マーチンもリディアのような女の子は好みじゃないのだろう。
「はー、行ってしまった」
「ノルトはブレッドに対しては敬語で話すんだな」
「お前もそうして欲しいならそうするぞ」
「いやいや、私は今の方がいいぞ、そのままでいい」
「俺なんかよりマーチン伯爵と練習すればいいんじゃないか?」
「ブレッドは気さくでいい奴だが私には似合わない」
「そうか?どう見ても俺より似合ってるけどな」
「ブレッドは貴族として立派だ、だが私は貴族同士の権力争いや領地の統治も出来そうにない、大軍を率いる能力も無いんだ、むしろノルトのような一市民として生きて行きたい」
「わがままなご令嬢だな」
「だからノルト、本当にお前と結婚してもいいと思ってるんだぞ」
「結婚しなくてもお前なら出来そうな気がするけどな」
「リディア様お待たせしました、私も混ぜて下さい」
「リアナ、今日も特訓だぞ」
「はい、リディア様」
試験日まで三人で実技の練習を続けた、二人とも魔力量が多いので精密な魔力操作など必要無いのだがコツを教えると徐々に上手く操作できるようになった、今までより少ない魔力で魔法が使えるようになったが、実技の試験は魔法の威力が試されるので効率が悪くても高威力の魔法を使えるように練習する方が高得点が狙える、低級魔法師用の練習が上級魔法師の試験にどう役に立つのか分からないまま試験の日を迎えた。
「今日から試験が始まります、筆記試験より実技が重要ですのでみなさん頑張って下さい」
筆記試験が一日あり翌日からは実技試験が始まった、ノルトは筆記試験には自信があった、しっかり勉強したのでテストでもスラスラと記入できた、問題は実技試験だ、魔法を使う試験だが攻撃魔法、回復魔法、補助魔法のテストが三日間で行われる、攻撃魔法はみんなと威力を合わせればなんとかなりそうだが回復魔法と補助魔法は手加減がとても難しい。
「はい次ノルト」
「はい」
「ファイアボールでいいですね」
「はい」
「では始め」
ノルトはファイアボールを次々に発射する、低級魔法師は威力が弱くても手数が多ければ得点が多くなる、クラスメイトは平均三発だったのでノルトも時間内に三発撃つように調整した、三発とも的に当たり威力も平均的な得点が表示されたので心の中でガッツポーズをした、二日目は回復魔法の試験だった。
「次ノルト」
「はい」
「どれに挑戦しますか?」
回復魔法は怪我の回復以外に状態異常の回復も選べる、クラスメイトは怪我の回復を選ぶ生徒が多かったが、ノルトが怪我の回復魔法を使うと跡形もなく完全に治癒してしまうかまったく治癒しないかどちらかだった、中途半端に治癒するよう回復魔法を調整して使うのは非常に難しい、これではどうやってもダメなので試験では毒の回復を選んだ。
「毒の回復にします」
「分かりました、では毒の回復魔法試験始めて下さい」
ここでノルトは不味いことに気が付いた、他のクラスメイトは茶色い蛇だったがノルトの試験だけ赤と黒の縞模様の蛇が用意されていた、他のクラスメイトとは箱に入っている毒蛇の種類が明らかに違うのだ、試験は蛇に噛まれる人が必要で高レベルの冒険者が報酬目当てに依頼を引き受けるのだが、ノルトの試験を担当する冒険者の表情が先程までとまったく違っている、真剣な目で毒蛇を見つめ大量の汗をかいていた、自分でも解毒の魔法を使えるのだろうがこの表情からして致死性の毒かも知れない、試験官に意見しようとしたところ冒険者が毒蛇の入った箱に腕を入れてしまった、顔が苦痛に歪み噛まれた腕がどんどん紫色に変色していく、急いで解毒しないと危険だと判断し駆け寄り回復魔法を使用する。
「キュアウインド!」
魔力を調整する時間は無かったし失敗すると冒険者が死んでしまうかも知れない、噛まれて紫色に変色している腕が瞬時に回復すると冒険者は満面の笑みに変わりうっすら涙を浮かべていた、振り返ると試験官が驚きの表情のまま固まっている、ノルトは平静を装い会場を出るがこの試験は完全に仕組まれているのだと確信した、今のところ冒険者と試験官以外は誰も気付いていないだろう、明日は平均点になるよう頑張らねばならない、三つの試験で二つが平均値ならまだ誤魔化せる可能性もある、そう考え直し明日に備えた、翌日、試験三日目は補助魔法の試験だ。
「次ノルト」
「はい」
「どれに挑戦する?」
補助魔法は身体強化魔法やシールド魔法などが対象になる今回も身体強化魔法は選べない、強化の調整が難しすぎるからだ、ちょっとだけ強化するなんて不可能に違いない。
「シールド魔法でお願いします」
「ではシールド魔法の試験を開始する」
シールド魔法は相手の魔法を防げるかどうかで判断される、これには少し自信があった相手が放つ魔法をシールド魔法で防ぎ直後に破壊すればギリギリ防げたとアピール出来るからだ、試験の相手が杖を構え魔法を放つ。
「では行くぞ!トリプルサンダードラゴン!」
「え!待って!サンダーじゃないの?」
魔法で作り出した三匹のサンダードラゴンがノルトに襲いかかる、俺は低級魔法師なのにどうしてそんな強力な魔法を放つんだ!
「フォースシールド!」
展開されたシールド魔法が攻撃魔法を完全に防ぐと同時にシールド魔法を破壊したがもはや何の意味も無かった、攻撃魔法を使った魔法師は予想外の展開に驚いた顔のまま硬直している、子供にトリプルサンダードラゴンを防がれたらそうなるだろう、試験官の方をゆっくり振り向くとこちらもひきつった顔で眉をピクピクさせている、今日の試験も仕組まれていたようだ、身体強化魔法を選んでもノルトだけ特別な試験になっていたのだろう、いったい何のつもりなのか、もうこれで完全にバレてしまった、肩を落とし静かに会場を去るノルトを笑顔で見送り拍手している人物がいる、ウィリアム・マック・ステートこの学校の校長だ。




