第九十四話
放課後、実技練習場で模擬戦をするハメになった、クラスメイトや野次馬の観客もいる中で低級魔法師として最弱を見せながら上級魔法師に勝つと言う面倒な模擬戦が始まる。
「怪我させちゃダメだよ、はい始め!」
「ファイアボール!」
いつものように小さな炎の玉がゆらゆらとリディアに向かって飛んで行く、リディアは魔法を使う気が無いのかレイピアを抜き俺の放ったファイアボールを突いた、これで消せると思ったのだろう、だがファイアボールはゆらゆらと揺れレイピアを避けながら飛ぶ、観客からはリディアが捉え切れずにいるように見えるだろうが実際はノルトが魔力操作で動かしてレイピアを避けている。
「くそ!当たらない、アイスシールド!」
リディアは後退しながら魔法を使うリディアの前に大きな氷の盾が現れた、慌てたせいか少しムラがある、しかしこのままでは確実に防がれてしまうだろう、そこでアイスシールドに衝突する直前にファイアボールをファイアアローに変えアイスシールドのムラを撃ち抜いた、だが突き抜けた炎はごく一部でほとんどは防がれていた。
「小さいがまあいいか」
極小の炎がリディアの胸に命中すると服の一部分だけを上手に焼けるよう操作し炎は消え去った、俺の予想に反してリディアは晒しを巻いていなかったのでその結果胸が丸出しになってしまう、リディアはレイピアを落とし胸を隠すようにしゃがみこんだ、観客からはほとんど見えていないがこれ以上の戦闘継続は不可能だろう、勝負はついた。
「俺の勝ちでいいな」
「はい、ノルトさんの勝ちです、リディア様これを」
リアナがリディアに駆け寄りタオルを渡していた、観客は意外な決着に驚いていたがクラスメイトは拍手で向かえてくれた、俺は手を振りその場を離れ寮に帰った。
「リディア様、医務室へ行きましょう」
リディアは呆然としている、自信があったアイスシールドがあんな小さなファイアボールに耐えられないとは。
「立てますか」
ショックでふらつく足に力を入れ立ち上がり医務室へ歩いて行った、扉を開け治癒魔法師の診察を受ける。
「服は燃えてますが火傷はありませんね、こんなに焼けてるのに不思議ですね」
「私の、完敗だ」
「リディア様」
「私は今まで何を練習してきたんだろうな、全て無駄だった、まさか低級クラスに勝てないとはな」
「それは違います、彼が異常なんですよ、低級魔法師クラスにいるのも何か理由があるはずです」
「なぜそう思う?」
「隠密の魔法も拘束の魔法も私達は見てます、低級魔法師のはずがありません」
「認めるべきだな、私は彼より弱いと」
「これからどうします?もう関わらないと約束しましたし」
「大丈夫だ、こんな辱しめを受けたんだ、あいつは男だし責任があるだろ?」
「責任ですか」
「胸を見た責任をとって結婚してもらおう」
「結婚!それはちょっと」
「それを口実に明日から付きまとってやる」
「リディア様、目が怖いです」
上手く行ったはずだ、リディアには恥をかかせたが向こうが売ってきたんだし良い薬になっただろう、そう思いその日は終わった、翌日、これで問題が解決したと思い学校に行くと教師に呼び出されてしまった、貴族の生徒と決闘したから反省文を書かされるかもそう思いながらドアをノックし中に入る。
「入りなさい」
「失礼します」
「ノルト、昨日決闘をしたそうですね」
「ただの模擬戦です」
「上級魔法師クラスの生徒に勝ったと聞きましたが?」
「たまたま運が良かっただけです」
「目撃者の話ではそうなっていますね、しかし相手がスネイル家のリディア様です、本当に運ですか?」
「俺は低級魔法師ですよ、先生もご指導して下さっているからご存知のはずでしょ?」
「私も最初の頃はそう思っていました、でも最近思うのですよ、ノルト、君の魔法操作は正確過ぎると」
「先生のご指導が上手だから」
「お世辞は要りませんよ、実際どうなのです?例えばアイスシールドに衝突する直前にファイアボールをファイアランス、又はファイアアローに変換したのではありませんか?」
「そんなの可能なんですか?魔法を放った後で変換なんて」
「通常は無理ですね、ですが低級魔法師のファイアボールは飛行速度が遅い、そこを逆手にとればあなたなら可能なのではと思ったのです」
「アイスシールドにムラがあるように見えました、たまたまその部分にファイアボールが当たっただけですよ」
「証拠はありませんしあなたがそう言うなら誰も反論出来ませんが、スネイル家は氷魔法のスペシャリストです、ムラがあると言っても低級魔法師のファイアボールで撃ち抜けるとは思えませんが、まあいいでしょう、今回はそう言う事にしておきます」
「では、失礼します」
ノルトが出て行くと奥の部屋から話を隠れて聞いていた男が入って来た。
「今の話、どこまで事実なのだね?」
「ファイアボールを変換したところまでは確実でしょうね」
「低級魔法師に出来るとは思えんのだが?」
「彼は特別です、魔法操作の天才ですよ、学校始まって以来のね」
「本当かね、信じられん」
「リディア様の服のみが綺麗に焼けたと聞いています、肌には傷一つ無いと」
「まさかそこまで操作したと」
「可能性はゼロではありませんよ」
ノルトが教室に戻ると約束を破り堂々とリアナとリディアが会いに来ていた、平民との約束など平気で反故にする貴族の子供らしいやり方だと思い席に向かう。
「約束はどうなったんだ?」
「事情が変わった、我がスネイル家は最初に胸を見た男と結婚すると言うしきたりがある、責任をとってもらうぞ」
「結婚だと!だいたい俺はお前の胸なんて見てない、アイスシールドで見えなかっただろ!」
「驚きだな、スネイル家の者と結婚すれば出世は思いのままだと言うのに、まさかそんなに嫌われているとは思わなかった」
「そうですよノルトさん光栄な事です!リディア様が男装してるのもそれが原因なんですよ」
「とにかく見ていないのだからしきたりとも関係ない、今まで通りだ、結婚なんてしないぞ」
「お前がそう言うのならそうしよう、『今まで通り』だな、本当に見えてないんだな」
「ああ、見えてない、それにあれだ、俺もお前もまだ成長期だこれから成長するだろうから気にするな」
「やっぱり見えてたんじゃないか!」
「見えてない、制服の上からでもリアナと比べてだな」
「私は普通ですよ、断じて普通です」
「私が普通より小さいみたいじゃないか!」
「リディア様も普通です」
始業のベルが鳴りまだ何か言いたそうなリディア達が急いで出て行った、俺の穏やかな学校生活はどうなるのか今まで通りなんて言うんじゃなかった、先生にもなにやら疑われているようだし今まで以上に気を付けないといけないようだ、それからは毎日リディアとリアナにつきまとわれるようになった、授業中は先生の目が鋭くなって細心の注意を払う必要がある、まったく気が休まらないまま学校生活は過ぎていった。




