第九十三話
「シャドウバインド」
男達の足元から黒い紐が現れ五人を拘束し動きを封じる、何もせず通り過ぎて恨まれても面倒なので逃げる手助けをした。
「何だ!」
「これは魔法か!」
「う、動けねえ!」
「どうなってるんだ!」
捕まっていた貴族の子供が剣を振り男達の手から逃れると田舎者の子供に手を差し出した。
「逃げるぞ!」
「え、あ、はい」
「待て!こら!」
「逃がさねえ!」
二人が逃げたあとでその場を離れ寮に向かった、男達の魔法はそのうち解けるだろうからそのまま放置しておいた、寮に着くと寮監の男性に挨拶し部屋の鍵をもらう、部屋番号を確認し部屋に入る。
「あいつ見えてたのか?」
路地裏での出来事を思い返してみる、目が合ったのは確かだし俺に向かい『助けて』と言ったのは確かだ、俺の隠密魔法がまだ完全ではない証拠だろう。
「口封じした方がよかったか」
荷物をクローゼットに入れベッドに腰かけ学校のパンフレットを見る、入学式は明日の朝だ今日は長旅で疲れていたし明日考えよう、そう決め食堂へ向かうバイキング方式でパンとスープそれにサラダを取ると空いているテーブルで食べ始めた、料理は思っていたより美味しかった、部屋に帰ると風呂に入り旅の汚れを落とす、寝間着に着替え少し固いベッドで早めに眠りについた。
翌日、朝食を食べ学校へ向かい入学式に出席する、貴族出身者が多い上級魔法師や中級魔法師の生徒が前の席に座り低級魔法師のクラスはその後ろに座る、校長先生の話が終わると上級生からの歓迎の言葉を聞き最後に教科担当の先生達の紹介があった、式が終わると教室へ移動し、しばらくして教師が教室に入って来きて教壇に立ち話しを始めた。
「皆さん入学おめでとうございます、この学校に入学された皆さんは魔法を使える貴重な人材です、ここは低級魔法師の教室ですので、まずはこの魔力測定用水晶で自分の魔力量を再測定します、自分の魔力量をしっかり覚えてくださいね」
みんな緊張しているのだろう、おとなしく黙って話を聞いている。
「それでは順番に測定します、こちらに並んでください」
今回もアンクレットを身に付けているので村で測定した時と同じ数値が表示された、俺の魔力量はこのクラスの平均よりやや少ない。
「はい、皆さん終わりましたね、このクラスでは少ない魔力を精密に操作する技術を学びます、上級や中級では大まかに操作するだけでも上手に魔法を使えますがそれは魔力量が多いからです、皆さんは精密に操作しなければ魔法が使えなかったり使えても効果が弱かったりして役に立ちません、しっかり練習して役に立つ魔法師を目指しましょう」
「はい!」
「では明日から始めます、よろしくお願いします」
教科書と制服を受け取り寮へ帰ると時間割表と必要な持ち物を確認する、ノルトのクラスでは魔法師の杖と教科書以外は特に必要な物はない、明日からの授業に備え配布された教科書を読んでみる、予想通り簡単な魔力操作方法が書いてあるだけだった、この程度の知識は既に知っているしもっと複雑な魔力操作も習得済みだ。
「これは、手加減しなきゃ目立つだろうな、下手に魔力操作する練習が必要か」
何度か練習してみるが難しすぎる、自転車に乗れるのに乗れない練習をするようなものだ、不自然過ぎるのもわざとらしく見えるのもよくない、もっと魔力を少なく扱う練習をする他ないと考え微量の魔力で魔法を扱う練習に変更した。
翌日、教室での講義と実技練習場での訓練が始まった、俺はわざと魔力を微量しか使わずに実技の訓練をする、魔力が上手く使えないように見えているか心配だったが教師が度々アドバイスにやって来るので初心者に見えていると確信した。
そんな日を一ヶ月ほど過ごし今では微量の魔力でファイアボールを扱えるようになった、みんなと同じように小さな丸い炎のボールを放ち不安定に飛ばすと的に命中し弾ける、上手に出来ていると自分でも思っていた。
そんなある日、教室に見慣れない二人の生徒が現れた、一人は中級魔法師クラスの女でもう一人は上級魔法師クラスの男の振りをした女だ、それは以前路地裏で助けた二人だった、ここは初対面のふりで誤魔化そう、そう思っていたのだが俺の席まで歩いて来て立ち止まってしまう。
「この人です!」
「本当にこいつなのか?」
「間違いありません!」
「しかしここは低級魔法師クラスだぞ」
「そうですが、絶対この人です!」
なにやら注目を浴びてしまっている、低級魔法師クラスに上級魔法師クラスの生徒が来ることなどめったにない、何か嫌がらせをされているとクラスメイトは思っているだろう。
「お前の名前は?」
「低級魔法師クラスの俺の名前など聞いてどうする?」
「聞かれた事に答えろ」
「先にそっちが名乗るべきじゃないのか?」
不穏な空気を察して中級魔法師クラスの女が間に入り自己紹介を始める。
「私は中級魔法師のリアナですリアナ・ネム・フィアム、こちらはリディア様、スネイル家ご存知ですよね?」
スネイル家はこの町でも三本の指に入る名門貴族だ、代々王国宮廷魔術師を排出している確か今の魔術師副長官もスネイル家だったと思い出す。
「私はリディア・レイ・スネイルだ、お前の名前も聞かせてもらおうぞ」
「ノルト・リック・ミラーだ」
「ノルトか、お前に聞きたい事がある、このリアナが以前路地裏でお前を見たと言っている、覚えはないか?」
「知らない」
「その時私も側にいたのだがどうだ?」
「貴族様も俺を見たのか?」
「いや私は見てない」
「なら人違いだろ」
「リアナやっぱり違うんじゃないのか?」
「いいえ、絶対この人です」
「ノルト、場所を変えよう」
「悪いが次の授業がある、お嬢様にはお帰り願いたい」
「何だと!お前私が女に見えるのか!やはりあの場にいたのはお前だな!」
「なぜそうなる?男の服を着てはいるが僅かな胸の膨らみとそのケツを見ればお前が女と分かるだろ?」
「僅かな胸の膨らみだと!無礼だぞ貴様!」
実技訓練に向かおうと席を立ち歩き始めると背中に何かが投げつけられた、振り返ると手袋が落ちていた、しゃがんで拾いリディアに返そうとすると突然決闘を申し込まれた。
「決闘だ!勝負しろ!お前が勝てばもう関わらない、だが私が勝てば正直に話してもらう」
「上級魔法師が低級魔法師に決闘を申し込むのか?俺は平民だぞ?」
「関係ない!」
「そこまで言うならその勝負受けよう、約束は守れよ」




