第九十二話
ここはロイクと言う小さな村だ、人口は500人ほどで周囲を山に囲まれた場所にある、人間の村だがたまに獣人が買い物に来ている、それほど遠くない場所に獣人の村があるのだろう。
多くの村人は山にある採掘現場で魔石を掘り出しそれを売り生活している、魔石はダンジョンでも採取できるのだが、竜王が去って千年以上経過したこの星のダンジョンでは魔物が多く下層へ行けば高品質の魔石があると分かっていても取りに行ける探索者は少ない、一方、山から採れる魔石は微量な魔素が結晶化した物で品質は低いが今の人々の暮らしには十分役に立つ魔石だった。
かつて栄華を極め繁栄していた国は滅び科学技術も失われた、質の低い魔石しか採取できないため治療用のカプセルを維持する事さえ難しく破棄せざるを得なかった。
この世界でも魔力を持つ人間は少ない、そのため高い魔力を持つ魔法師の身分は高く貴族出身者が多い、少ない魔力でも薬師や魔道具を作る技師になれる、これらの職業も平民の中では高い身分になるようだ。
俺は父で魔道具技師のラース・トルン・ミラーと母で薬師のニース・クオ・ミラーの子供として転生した、名前はノルト・リック・ミラー、転生者の特典として最初から進化した人間にしてもらった、もちろんこの世界で唯一の新人類・ハイヒューマンだ、ステータスは前より多少下がっているが魔力は前世並みに高くスキルも一つなら可能だと言うので悩んだ末『匠のハンマー』を選び転生した。
この国では十歳になると学校に通わなければならない、幼少期から魔力は使わないよう注意して過ごしていたが学校の入学審査で魔力測定があり見つかってしまった、ただ魔力を抑えるアンクレットを匠のハンマーで作り身に付けていたので魔力測定の水晶玉には低級魔法師相当の数値が表示されている。
それでもこの村で一番の魔力量だと判明し大騒ぎになった、村長の推薦で町の学校へ通う準備が始まる、町の学校には魔法科があり国が定める魔力量によってクラス分けされている、国中の町や村から入学する生徒を集めているので、どこの村で生まれた者であっても一定の魔力量があればこの学校に入学しなければならない、町の外部から入学する場合寮に入る決まりだから俺も村を出て寮へ引っ越しする。
そういう日が来ると想定していたが予想外に早く来てしまった、家が魔道具工房であったため幼い頃から魔石をおもちゃにして遊んでいた、両親も魔石を積み木のようにして遊んでいる俺を咎めなかった、魔道具に使う魔石は質が悪い、ただ中には稀に上質の魔石が混ざっていた、父親もそれに気付いていたが魔道具に使えない小さな上質の魔石は気にせず俺の遊び道具になっていた、俺はそれを集め箱に入れ大事に取っておいた将来利用するつもりだったのだ。
五歳頃から金属の端材も集め始めていた、こっそり集めた金属の端材を匠のハンマーでメダルに加工する、そこに集めていた小さな魔石をいくつも嵌め込み装飾品に仕上げた、魔石は小さいが数を集めればそれなりの魔法を込められる、複数の小さな魔石に魔法を付与するのはとても難しく効率も悪いが、根気よく今可能な最大の防御魔法をメダルの魔石に付与した、4つ作って村の東西南北にある出入り口付近の岩に隠し魔物が近寄れば自動的に防御魔法が展開されるよう村を出る日に起動させておいた、前世で親孝行ができなかったので今回は早めに手を打っておいたのだ、まだ幼い俺ではそれほど強力な防御魔法を展開できないがやれるだけやっておいて損はないと思っている。
出発の日、両親は少しのお金と魔法師の杖を渡し送り出してくれた、魔法師の杖は父親の手作りで奮発して上質の魔石が一つ嵌め込まれていた、学校は国からお金が出ているので無料で通えるし寮生活なので寝食にも困らないがお小遣いはあった方がいい、ありがたく受け取り馬車に乗ると両親は俺が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
村を出て一日目の夜は馬車を止めテントを張り野宿する、魔物に襲われないか緊張したが安全な野営地らしく無事に朝を迎えた、野営地にはトイレもあったが馬車には魔道具の簡易トイレを乗せている、シート状の簡易トイレはボタンを押すと個室トイレの大きさになりとても驚いた、汚水処理の機能がありボタンを押すと急速乾燥で粉末となり回収ボックスに収納される仕組みだった、とても使いやすく便利なのでこちらを使う人の方が多い。
馬車の御者が作ってくれた朝食を食べ出発すると夕方にはレーンの町に到着した、そこそこ大きな町で貴族も住んでいるらしい、案内板で寮を確認し田舎者をターゲットにしている悪い奴らに見付からないよう歩き出した、道中何人かガラの悪そうな人とすれ違ったがあらかじめ防御魔法と隠密の魔法を使っていたので絡まれずに済んでいた、それなのに運悪く田舎者の女の子が路地裏で絡まれているところに出くわしてしまった、誰か助けてやればいいのにと思いながら通り過ぎようとするとその田舎者と目があった、こいつ何か特殊スキルを持っているのかも知れない。
「助けて!」
「はぁー?こいつ誰に言ってんだぁ?」
「助け、グホッ」
「大人しく金出せ!」
「おい、やり過ぎるなよ」
「分かってる、殺しやしないさ!」
「おい!まーだ痛い目見たいのかぁ?」
襟元を掴み引き寄せ怖い顔で睨んでいる、関わるのはよそう。
「お金はありません」
「そんなわけねーだろ!田舎の村から何しに来たんだぁ?」
「おい、鞄を見せろ!」
「止めてください!ゲホ」
蹴りをくらい咳き込む田舎者を助けに入った者がいた、綺麗な身なりの子供で男だと思ったがなんとなく女性のような気もする、ちょっと様子を見てみるか。
「そこまでにしておくんだな!」
「おい、貴族様のお出ましだぜ」
「子供じゃねーか!やっちまおうぜ」
「俺達は貧乏なんだ、お金恵んでくれよ貴族様!」
掴みかかる男をさらりとかわすとレイピアを抜き鼻先に突き付けた、剣の腕に自信があるのだろう。
「子供だと思ってなめるなよ」
「そっちこそ大人をなめるな!」
複数の男が一斉に襲いかかると貴族の子供はあっさり捕まってしまった、まったく何しに出て来たんだか。
「おい、こいつこんななりだが女だぜ」
「ほんとだ、奥へ連れていくか、顔もなかなか美形だし楽しめそうだ、へへへ」
男達は五人で他に仲間はいない、貴族の子供は従者らしき人が二人いるようだが、人混みの奥を探していてこちらには気付いていない、このままだと男達に連れて行かれるだろう、まったくしょうがない。




