第九十一話
「マジックアイテムもダメか」
アイテムボックスを閉じプニムを見つめる、フォルト達の戦況も気になるがここから出るには他に方法が思い付かない。
「少しずつ魔力を練るしかないか」
集中し全神経を研ぎ澄ますと魔力を練り始めた、体内で少しずつ大きくなって行く魔力を練り続ける、かなり時間を使ったがようやく一つ上の階なら転移可能な魔力の大きさまで練り上がった、転移魔法を使おうと思った瞬間、突然目の前に竜王が姿を現した、部屋の外から転移アイテムで入って来たようだ。
「この空間でそこまで魔力を練り上げるとは、もはや直接叩き潰すしかなさそうだな」
「ここに閉じ込めておくつもりだったのか」
「この要塞はまもなく崩壊する、この部屋も崩壊の衝撃で海水が入り中にいるお前は溺れ死ぬだろう、確実にお前をここで殺すために来たのだ、死ね!」
転移魔法を使う隙を与えず竜王が攻撃を始める、銀色の鱗を輝かせ爪や尾による強力な物理攻撃を繰り出す、同じ古竜でもパワーが桁違いで盾で受け止めても壁際まで押されてしまう、輝くブレスの熱も凄まじくせっかく練り上げた魔力を防御魔法に使わざるを得ない。
「時間は竜王の見方か、しかたない、出でよエルリック!」
召喚されたエルリックと共に竜王への攻撃を開始する、練り上げた残り少ない魔力を身体強化に使い爪や牙の攻撃をクレイが弾き返すとエルリックが切り込みダメージを与える、尾による攻撃は受けきれずこちらもダメージを受けるがすぐに体勢を立て直し攻撃を続けていると、爆発音と同時にグラグラと部屋が揺れ始めるどうやら要塞の崩壊が始まったようだ、時間がない。
「グランドブレス!」
「フォースシールド!」
「クロスベアクラッシュ!」
「グオオオオオオオ!」
「エルリック行けーー!」
「バスターストライク!」
フォースシールドが砕け散る、次のブレスが放たれる前にエルリックが竜王の頭上へ飛び渾身の一撃を叩き込む、進化したパワーで振り下ろされる一撃は竜人の額に直撃した。
「アッパースマッシュ!」
クレイのロングソードが竜王の顎を切り上げる、ブレスを放つ前に口を閉じさせた、二人の同時攻撃がダメージを与え竜王は床に崩れ落ち意識を失った。
「せっかく練り上げた魔力を全部使ってしまった」
床に這いつくばる竜王はすぐに意識を取り戻し起き上がる、だがもう戦う力は残っていないようだ。
「まさか人間ごときに倒されるとはな、だがお前も道連れだこのまま溺れ死ぬがいい、ハハハハ」
竜王の体はゆっくり少しずつ崩れ始めていた、回復魔法もマジックアイテムも使えないこの部屋で竜王の自己治癒力だけでは回復が不十分なのだろう、天井からは海水が流れ込んでいたプニムがやっと開けた穴は狭くクレイは通れない。
「もう一度練り上げる時間はないな」
ドンドンと崩壊の音が聞こえている、海水が冷たい、それでもこの部屋の効果は失われず人魚化の薬も使えない、体が冷え続け意識が薄れて行く、遠くからティアとウンディーネの声が聞こえている、プニム、エルリック俺の変わりにティアを助けてやってくれ、召喚の権限をティアに移譲する!最後の力を振り絞りティアに権限を移譲すると意識を失った。
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気が付けばいつか見た天井だった、白衣の女性が駆け寄って来た。
「ジン様、目を覚ましましたよ」
「今行きます」
白衣の男がゆっくり歩いて来る進化の秘石を使った時と同じ部屋だと理解した。
「お久しぶりです」
「今回は死んだな」
「いいえ、ギリギリですがまだ生きてますよ、ただ」
「ただ何ですか?」
「古竜アルシェが命を落としました」
「え!どうして?戦いはどうなったんですか」
「説明しましょう」
ジンの話によるとクレイが意識を失った後ウンディーネが飛び込んで来たがやはり脱出は不可能の状態だった、プニムも穴を広げようと必死に頑張ったがそれでもどうにもならなかった、そこへアルシェが体当たりで天井を砕きクレイを咥え脱出に成功したのだった、しかし崩壊する要塞に飛び込み体中に深い傷を負っていた、更にクレイが閉じ込められた天井を砕くため体当たりしたのだがその時にも大きな傷を負っていた、脱出後これらの傷を治療しようとしたが間に合わず亡くなってしまったそうだ、竜王は崩れ行く部屋の中で動けずボロボロの体のまま瓦礫の中に埋もれてしまったそうだ、イーリス達と戦っていた敵の連合軍は竜王が倒された影響で竜王の加護が失なわれ戦艦や空母の浮遊力が不安定となり次々と降下し降伏したそうだ、小競り合い程度で総攻撃は行われなかったこともあり戦争の犠牲者は最小限となったそうだ。
「おれはどうなるんですか?」
「選択肢としてはクレイの体に戻り天寿を全うするか、地球の生命エネルギーとして戻るかあとは」
「あとは?」
「アルシェが惑星ルシアに古竜として転生するのですが、惑星ルシアには古竜が現在一体しか生存していません、転生した後かなり苦労すると思われます、そこで惑星ルシアに転生してアルシェを助けて頂くと言う選択肢もあります」
「惑星ルシアもあなたの管轄なんですか」
「そうです、私としては転生して欲しいのですが無理強いは致しません」
ジンに代わり白衣の女性が元気よくニコニコしながら話し始める。
「あなたの活躍は想定以上でした、破棄する可能性の高かった惑星アクリスを再生してしまったのですからね、出来ればもう一度協力してもらいたいのだけれどどうでしょう?」
「フォルトやクラリスに別れの言葉くらい残したかったな」
「短い言葉ならメッセージを送れますよ」
「なら頼む、『別の世界を助けに行く後の事は好きにしていい、今まで楽しかった、ありがとう・・』」
「そこまで!ちょっと長いけどサービスです!」
「え、短いなぁ、まあしょうがないか、それで転生特典は今回もあるのですか?」
「もちろん、と言いたいところだが古竜の減少で魔力が枯渇状態にある惑星ルシアでは、前と同じ状態での転生は不可能だ、可能な範囲での強化になる」
「相談が必要だな」
こうして惑星アクリスでの転生生活は終わった、クレイからの別れのメッセージは古竜からフォルト達に伝えられた、生命維持装置に入っているクレイの体は徐々に崩壊している、クラリスは憔悴した状態がしばらく続いていたが、クリンがクレイの知識や思考パターンを再現した高度AIを作成それを搭載したアンドロイドを作りあげた、今では騎士団にも復帰しクレイのアンドロイドとクリンの三人で暮らしているそうだ、フォルトはクイント共和国に戻りユリンと結婚した、弓使い同士気が合ったのだろう、二人の子供に恵まれ幸せに暮らしている 、ティアはミカエラと浮遊戦艦に乗りプニムとエルリックを召喚してダンジョン探索者を続けている、ルメリアやイーリスとも和解し悪魔の国に家を建ててもらっているそうだ、イーリスはルメリアと共に世界中に残された竜人を監視している、赤い魔力を使う者も減って徐々に世界は正常な状態に戻って行った。
惑星アクリス編 終わり




