第八十四話
「あれは!」
「クレイ様!」
「二人とも急いで登って!落ちるよ!」
壁に当たらないよう飛行モードでゆっくり上昇するとハーシエルは海面すれすれまで落下していた。
「助かったぜ」
「まだ敵の飛行部隊がいるから撃ち落とされないように戦艦に戻ってね」
「了解しました」
フォルトとクラリスが戦艦に戻るとルメリア達が悪魔軍に連絡する、大将軍バーリウムは戦闘海域からの離脱を指示した。
「お疲れさまでした」
「危うく一緒に沈むところだったぜ」
「どうやって脱出を?」
「クレイが来てくれたんだ、大きな穴を開けてくれたお陰で脱出できた」
「クレイ殿は宇宙に行かれたはずでは?」
「宇宙船も帰って来てるんじゃないか?」
「指示通り一旦悪魔の国へ戻りましょう」
海に沈んで行くハーシエルの映像をモニターで確認しフォルト達は撤退を始めたのだった。
ーーーーーーーーーーーー
宇宙での戦いが終わりイーリスと地上の戦いについて会議が開かれていた。
「戦力差が大き過ぎる」
「フォルトとクラリスがいるからなんとかなると思ってたけど厳しいのか?」
「善戦はしてくれるだろうが撤退は避けられないだろう、だがそれで十分だ我らが戻るまで時間を稼いでくれればいい」
「クリン、最短で地上に戻るいい方法は無いか?」
「脱出用のカプセルがあります、うまくハーシエルの真上に落下すれば良いかと」
「うん、じゃあそれで行こう」
「クレイ殿本気か!そなた一人戦場に戻ってもどうにかなるとは思えないが」
「ハーシエルの上に落ちたらなんとかなりますよ」
「そう言うのならクレイ殿を信じるしかないな、だがくれぐれも無理はしてくれるな、我々は降伏した者達を連れて悪魔の国に向かう」
「分かった、地上で会おう」
通信を終了し脱出用のカプセルへ移動する、今回はティアに戦艦に残ってもらった、ぶつぶつ文句を言っていたがかなり魔力を消費していたので足手まといになると認識したのか渋々従ってくれた。
「クリン、調整頼むよ」
「承知しました、目標確認、発射角度微調整完了、いつでも発射できます」
「よし発射して」
「脱出カプセル発射!」
宇宙船から発射されたカプセルは重力に引かれ物凄いスピードで落下する、地上まで二十分程度で到着した、ハーシエルに直撃し装甲を破壊するがカプセルにダメージは無かった。
「クリン、お見事!」
クレイはカプセルから出ると真下に向かい魔法を放つ、中心部にある浮遊石の破壊が目的だったが破壊した装甲の間から真下に見覚えのある魔導アーマーが二機暴れているのを見つけ驚く。
「二人とも急いで登って!落ちるよ!」
魔導アーマーが飛行能力を使いゆっくりと破壊した装甲の間を抜け甲板まで脱出する。
「助かったぜ」
「まだ敵の飛行部隊がいるから撃ち落とされないように戦艦に戻ってね」
「了解しました」
ーーーーーーーーーーー
二機が離れて行くのを見送り改めて魔法を撃ち込む、装甲が大きく破壊された。
「よし!あれだな」
クレイは急いで浮遊石が並んでいる階まで下りるとアイテムボックスに収納する、徐々に海水が入って来たもう時間が無い。
「五つか、こんなもんだな」
クレイは転移魔法で甲板に移動すると飛行魔法でハーシエルを離脱する、浮遊石を半分以上失ったハーシエルはもう再浮上不可能だろう、辺りは夕陽が水平線に沈んで暗くなり始めている戦場になった海域には多くの残骸が海面を漂っていた。
「あれはなんだ?」
海面に赤い光が見える、その場所へ行ってみると黒い鎖が巻かれた箱が浮かんでいた、箱の割れ目から光が漏れている。
「なんだろ?」
隙間から覗き込むと赤く光る球体が入っていた、箱の大きさは一辺が二メートルの正六面体で半分以上が沈んでいる。
「陸まで運ぶか」
鎖に手を掛け飛行魔法で飛ぼうとするが想像以上に重くゆっくりと陸まで運んだ、これだけ重いのに沈ま無かったのは海に沈まないよう魔法文字が箱に刻まれているからだと分かった。
「大事な物なんだな、アナライズ!」
鎖は外れないよう魔法できつく絞めてある、緩むように魔力を流すと鎖が簡単に外れた箱の蓋を外すと中の球体を取り出す。
「カプセル?」
操作パネルがあり解放のボタンをタッチすると上下半分に割れ開いた、中には赤い髪の子供が丸くなり眠っている。
「アナライズ!」
子供は古竜で今は人間の姿をしていると判明した、どうしようかと考えていると目を覚ました子供は大なあくびをし両手を頭上に伸ばす、背筋をぐっと伸ばしキョロキョロと辺りを見渡した。
「ここはどこ?」
「南の大陸だ、俺はクレイ君の名前は?」
「私はアルシェ、古竜よ」
「古竜か、どこかのダンジョン創造主なのか?」
「ライオット王国のダンジョン創造主だけど」
「ライオット王国?知らない国だな」
「知らないってことはここは惑星ルシアじゃ無いのよね?私が解放されたと言うことはルシアの人達と戦ってるのね?今どうなってるの?」
「宇宙母艦を破壊して戻って来たところだよ」
「宇宙母艦を破壊したの!思ってたよりやるじゃない」
「なぜカプセルに?」
「ライオット王国が滅ぼされて捕まってたのよ」
「他にも捕まってる古竜はいるのか?」
「いないわ、ハーシエル王国に従っている古竜はいるけどね」
「ライオット王国はハーシエル王国に滅ぼされたのか?」
「そうよ、そしてハーシエル王国に従っている古竜がこの星に来ている、私が解放されたこともそのうち伝わるでしょうからこの星の古竜と全面戦争になるわね」
「それは困ったな」
「私は助けてもらった恩もあるしハーシエル王国に恨みもあるからあなたに味方するわよ」
「敵対する古竜はどのくらいいるかわかる?」
「私が知ってるのは三体よ、今も生きているのかは知らないけどね」
「結構多いな」
「この星の古竜が全員で戦えば勝てると思うわよ」
「俺の仲間達で倒せないかな?」
「古竜は強いわよ、人間が勝てるとは思わないけど、でも宇宙母艦を破壊した実力ならやってみる価値はあるかもね」
「よし、じゃあ今日はも遅いしここで一泊して明日にでも仲間の所へ行こう」
「お腹空いた」
魔法で家を作り中で食事の準備をする、今日のメニューはゴールデンビーフのステーキと海鮮スープそれに新鮮な野菜たっぷりのサラダを用意した、クレイの作り出した家に驚いていたアルシェだがテーブルに並んだ料理を見ると大喜びでステーキを頬張っていた、翌日魔法で作った家を消し去るとアイテムボックスからクルマを取り出しアルシェに乗り込むよう促す。
「あなた凄いわね!昨日の家もそうだけどこれがアイテムボックスに入るなんて」
「じゃあ行くよ」
クレイはアルシェをクルマに乗せ悪魔の国に向け出発したのだった。




