第八十話
扉を開け中へ入ると何もない広い部屋だった、壁も床も石造りで照明に明かりが灯っている。警戒しながら慎重に中へ進むと左前を歩いていたクラリスが衝撃音と共に右側の壁に叩きつけられた。
「クラリス!」
「大丈夫です」
「クレイこれはいったい」
「フォルト下がって!」
クレイの左手に何かが叩きつけられた、衝撃音だけが聞こえる見えない何かに攻撃されているようだ、防御シールドの魔法は砕けたが衝撃無効の防御魔法は効果を発揮し吹き飛ばされるのを防いでいる、左手で見えない何かをがっちりと掴み右手のロングソードで叩き切ると切断した断面だけが一瞬見えた。
「クラリスとエルリックも下がって防御を固めてくれ」
「分かりました」
「承知した」
「クレイよ、もしかして隠密のスキルか?」
クレイが左手に掴んでいるのはドラゴンの尻尾の一部だった、切断すると見えるようになるのは隠密魔法かスキルの効果が消えるからだろう、後ろに放り投げるとプニムがキャッチし食べ始める。
「竜王が隠密スキルで不意打ちとはな、慎重なのかそれとも臆病なのか」
敵の隠密効果はかなり高く足音も空気の流れも全く感じられない、クレイは周囲に防御シールドを張り巡らせる、敵の攻撃でシールドが砕ける瞬間を狙いロングソードでカウンター攻撃を放つ、すると今度は鋭い爪の付いた指を切り落としていた、今度も切断した断面は見えているがすぐに再生し見えなくなる、切り落とした指はプニムに投げて食べさせた。
「これではお互い攻め切れんの」
「デタラメに魔法を撃ち込んでみるか」
「建物が崩壊せぬか?」
「なら檻に入れてみるか、アイスジェイル!」
クレイは部屋全体に氷の檻を作り出しそして徐々に大きさを縮めてゆく、強力な魔力で作った氷の檻に衝撃音が聞こえるが破壊は出来ないようだ、やがて衝撃音も聞こえなくなる。
「逃げられたか?」
「竜人化した可能性もある」
氷の檻はどんどん小さくなる切断した部位の大きさを考えると既に小さすぎるがそれでも更に縮めて人間が入る程度まで小さくした。
「やはり逃げたのではないか?」
「このまま潰す」
更にどんどん縮めて行くと突然爆発し檻が破壊された、銀色に輝く鱗に黄金の角を二本生やした竜が現れるこれが竜王だろう。
「こんなところで全力を出さねばならんとは、千年もの時間を掛け溜めたエネルギーだが、仕方あるまい」
「この星から出ていく気はないか?」
「全力ですり潰してやろう!」
話を聞かず竜王は灼熱のブレスを一点に集めビームのように発射した、クレイの防御シールドを貫通しそのまま直撃するかに見えたがロングソードを当て軌道を逸らす、ビームはクラリス達の頭上の壁に当たり貫通その穴の周囲が赤く熔け落ちた。
「まずいのではないか?」
「クラリス、フォルト、撤退しろ!」
叫ぶ間に次のブレスが発射される今度はクレイの届かない位置からクラリス達を狙っていた。
「逃げろ!」
クラリスとフォルトの背中にブレスが届くその直前にプニムの体が膨れ上がりそこに直撃した。
「プニム!」
プニムの体が真っ赤になっている、溶け落ち貫通するかと思ったがそうはならず見事に防いでくれた。
「良くやったプニム!」
「撤退します」
「行け!」
フォルトとクラリスに向け三回目のブレスが発射されるが直撃する前に部屋からの脱出に成功した、エルリックとプニムも一緒に撤退したのを確認するとクレイは竜に向け魔法を放つ。
「アイスジャベリン三連射!」
巨大な氷の槍が竜の首に向け放たれるとブレスのビームで迎撃する、その隙に接近しロングソードを振り抜く。
「パワースラッシュ!」
銀色の鱗が切り裂かれ血が吹き出している、回復の時間を与えず連続で剣技を繰り出す。
「アッパースマッシュ!クロスブレイク!ファイアトルネード!」
回復が間に合わず想像以上のダメージを受けた竜は上空へ飛び上がると防御シールドを展開し後方へ逃げようとする、だがクレイもフライの魔法で追いかけ追撃する。
「アイスジャベリン!」
飛んで来る氷の槍をブレスで迎撃しながら後退しているため飛行速度が遅い、クレイはスピードを上げて一気に追い付くと魔法を放つ。
「アダマンハンマー!」
シールド魔法を何重にも展開し攻撃を防ごうとするが振り下ろすハンマーの勢いは止められずシールドは全て粉々に砕け首の付け根に直撃した。
「グフッァ!」
床に叩きつけられた竜は体を起こそうともがいているそこへ更にアダマンハンマーで追撃した、衝撃で動けない竜にそのまま止めを刺そうと首へロングソードを振り下ろす、だが竜人化しこれを避け立ち上がる。
「ここでは勝てないようだ」
「逃がさない!」
青年のような顔をした美しい体だが傷から血が流れている消耗した体では逃げ切れるはずも無いように思えるだが、ニヤリと笑うと青年はマジックアイテムを取り出した。
「この屈辱は忘れない」
青年の体が光ると次の瞬間には消え去っていた、瞬間移動のマジックアイテムを使ったようだ。
「転移魔法か」
「逃げられたの」
グラグラと地震のような揺れが始まった、建物に亀裂が走り崩れ始めている箇所もある。
「これは、崩壊するのか」
「時間稼ぎじゃろう、追いかけるのは無理じゃ巻き添えになる前に儂らも脱出するぞ」
部屋を出で来た道を引き返すと前の部屋でフォルトとクラリスが待っていた、エルリックとプニムは二人の周囲を警戒している。
「クレイ、倒せたか?」
「いや逃げられた」
「この揺れは?」
「城が崩壊するようだ、その前に出よう」
「おう」
「はい」
エルリックとプニムの召喚を解除し転移魔法でドームの屋根まで移動する。
「俺達の戦艦は何処だ?」
竜王国からも浮遊戦艦が飛び立とうとしている、既に三隻の浮遊戦艦が飛行していた。
「竜王国も退避が始まってるようですね」
「あ、あれだ」
「よし、行こう」
浮遊魔法で乗ってきた戦艦まで移動し中に入るとイーリス達も既に退避していた。
「クリン、すぐに離脱する!」
「了解しました、発進します」
パーフェクトアンノウンを使い姿を消すと全力で帝国領へ飛行する、遠ざかる竜王国の城は崩壊し瓦礫の山となって行く。




