第七十九話
補給を済ませたクレイの浮遊戦艦に悪魔軍の精鋭と幹部達を乗せ出発したのは翌日の朝だった、悪魔軍の幹部は大将軍バーリウムや魔術師長リムントスそれにイーリスが乗船している、その他の兵士は二十名でそれぞれ戦闘装備を点検している。
「クレイ殿、準備が整いました」
「バーリウム将軍、報告ご苦労様です、では出発します」
クリンに出発するよう伝えると浮遊戦艦が浮上し竜王国に向け発進した、悪魔の国を出ると海上を北上し法王国の上空へ侵入した、ブリッジではイーリス達が外の様子を注意深く観察している。
「本当に気付かれていないようだな」
「パーフェクトアンノウンで隠してるから」
「そんな魔法初めて聞いたぞ、魔法の維持にかなり魔力を消費するんじゃないのか?」
「高位の魔法だけど使用する魔力はそれほどでもないかな」
「魔法の発動はどうしているんだ?」
「魔道具にストックしてるから誰でも発動出来るんですよ、魔力炉から供給されるエネルギーが不足しなければ魔法を維持できる仕組みなんです」
「凄い仕組みだな、法王国に気付かれず上空を通過する方法があるなんて思ってもみなかった」
ラファエル法王国を通過しジャイナ王国に入る、この辺りは高い山が連なっておりその上空をクレイ達が北西へ飛行する。
「そろそろ帝国の領土に入るな」
「竜王国は聖王国の北にあるんだろ?」
「帝国と聖王国の国境付近から北西へ進めば見えて来るだろう」
イーリス達が言う通りに飛行を続けると山脈の奥に巨大なドーム状の建物が見えてきた。
「あれか」
「この星の古竜ではないからダンジョンは造れないそうだ、だから地上に城を建てそこに住んでいる」
「ドームは五つあるけど奥の三つが一回り大きい」
「一番大きいドームを任せていいか?」
「あれだ、分かったフォルト、クラリス準備はいい?」
「いつでもいいぜ」
「よしじゃあ行くか、クリン、イーリス達を任せるよ」
「承知しました」
クレイはフォルトとクラリスを伴い浮遊戦艦から飛び降りると巨大なドームの真上にフライの魔法で着地した、イーリス達を乗せた戦艦は隣のドームへ移動する。
「よし、じゃあ入ってみますか」
「入り口は何処じゃ?」
ティアがポケットから顔を出している、クレイがコンコンと足元を叩いてドームの屋根を確認した後、魔法を使い調べてみると屋根はかなり厚く硬い素材で作られていると判明した。
「かなりの強度があるな、まるでシェルターみたいだ」
「どうするんじゃ?」
「プニム、溶かせない?」
プニムを足元に置き調べさせると体内にジュワっと泡が出るのが見えた。
「溶かせそうです」
「じゃあ頼むよ」
「承知しました」
潰れるように円形に広がるとドームの屋根を溶かし始める、ジュワっと泡が出ると少しずつ屋根を溶かし沈んで行った、五分を過ぎた頃には人が通れる大きさの穴が空いていた。
「よくやったねプニム」
優しく撫でてやるとプルプルと震えて喜びを表している。
「隠密のマント準備いい?ゆっくり降下する」
「おう」
「はい」
クレイに続いてクラリスとフォルトも穴に飛び込むフライの魔法でゆっくりと降りて行くと数人の竜人が集まっていた、見つからないように離れた場所に着地する。
「一体何事だ?」
「第二ドームで警戒中の兵士が倒れていました」
「侵入者ではないのか?」
「いえ、近くに生命反応はありません、兵士が目を覚まし次第確認する予定です」
「容態は?」
「命に問題はありません、竜王様に報告されますか?」
「そうだな、念のため伝えてくれ他の者は調査を続けるように」
クレイ達は報告に行くと言う竜人の後をそっとついて行く、兵士が倒れていたのはイーリス達の仕業だろう、竜人と一緒のエレベーターに乗り下へ移動する、通路を進み大きな扉の前に到着した。
「竜王様へ報告に来た」
「よし、通れ」
閉まっていた扉が開くと中に入って行く、広いフロアの真ん中に一匹の竜が眠っている。
「竜王様にご報告です」
「ん、竜王様なら奥で仕事中だ俺が聞いてやろう」
「はは、ではご報告します、先ほど第二ドームで倒れている兵士が発見されました、原因は調査中ですが辺りに生命反応はありませんでした」
「侵入者ではないのか、分かった伝えておく」
「では失礼します」
竜人が出て行くと竜がクレイの方を向き鋭い目付きで見つめている、何か気配を感じたのかいきなり炎のブレスを吐いたクレイは防御シールドを使いブレスを防ぐ。
「まさか見つかるとはね」
クレイが隠密のマントを脱ぎアイテムボックスに入れるとロングソードを取り出し魔力を込める、青く輝くロングソードとクレイの姿を見て竜が驚いている、エルリックも出し攻撃に備える。
「まさかこの星の人間か!」
「他の星から来た古竜だな」
『なんなんだ?全く気配も感じなかった、何となく気になってブレスを吐いてみただけだったんだがこいつら何でここにいるんだ?とにかくここは危険だ逃げなくては』
「防衛魔法陣起動!」
「クラリス、エルリック、防御!」
「はい」
「任せよ!」
天井や壁から無数の銃弾が撃ち込まれその隙に逃げようとしていた古竜をクレイが魔法で拘束する。
「シャドウバインド!」
古竜は足に絡み付いた黒いベルト状の魔法を引きちぎろうと力を込めている。
「なに!切れないだと!」
「みんな行くぞ!」
「おう!」
クラリスとエルリックが古竜に切りかかるティアは魔法で支援しフォルトとクレイで壁と天井の弾丸発射口を破壊する。
「こっちは終わったぜ!」
「クラリス達の援護に行くぞ!」
片足を拘束しているとはいえ凄まじい攻撃を繰り出しいる古竜にクラリス達は苦戦している、特に強力な尾による打撃とドラゴンファングは一撃で致命傷になる威力がありそうだ。
「スパイラルアロー!」
「ウインドカッター!」
放たれた矢と魔法が古竜の背中に命中すると激しく暴れまわるような攻撃を受けクラリスとエルリックが防戦に徹している。
「あまり時間を掛けられない一気に行くよ」
「援護は任せろ!」
「儂は回復に専念する行け!」
クレイは魔力を練り上げると天井付近に巨大なハンマーを作り上げる。
「アダマンハンマー!」
古竜の背中に振り下ろすとその衝撃で床に這いつくばるような体勢になった。
『これは!この威力!人間の魔法とは思えん!何とか逃げねば』
「グオーーーーーーー!」
古竜の咆哮で一瞬クラリスとエルリックの攻撃を止めた、その瞬間至近距離から灼熱のブレスを吐き焼き払う、骨まで燃え尽きる高温のブレスで真っ赤になった床や壁の一部が溶けて煙を出している。
『何だと!これを耐えられるはずがない!』
「パワースマッシュ!」
「アッパースマッシュ!」
『どうなってるんだ、あり得んだろ!防御だ防御しなければ』
クラリスとエルリックの剣技が古竜の首に炸裂した、この攻撃で大ダメージを受けふらついている頭にクレイの魔法が放たれる。
「アダマンハンマー!」
『こんな奴らに、こんな小さな人間なんかに殺されるのか!』
床とハンマーの間に挟まれた頭部がグシャリと潰れる音が聞こえた、少ししてキラキラと光の粒になり消えて行く。
「やりましたね」
「この先に竜王がいる気を抜かずに行こう」
「はい!」
先へ進むと奥に扉があった、開くと通路になっており竜の姿でも通れる広い幅と高さがあった、広い通路をしばらく進むと奥に黒に金色で模様が描かれた大きな扉がある。
「この奥に竜王がいるようだな」
「行きましょう」
「準備は出来ておるぞ」
「行こうぜ」
「よし、行こう!」




