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第七十五話

たまが目を覚ました時、最初に目にしたのは白い天井だった、ベッドに寝かされていると分かると左右を確認する、自分の隣にはロッシュその隣にはバルターが眠っている、たまに怪我が無いのは魔力を使い果たし意識を失ったからだろう、ロッシュもバルターも傷の手当てがされている、回復魔法を使おうかと思ったがまだ十分魔力が戻っていないようで使えなかった。


「目覚めたのですね」

「あなたが運んでくれたの?」

「ゼム様の指示です」

「彼らに回復魔法を使ってくれませんか?」

「私は回復魔法を使えません、ですが魔法薬を塗っています、じきに回復するでしょう」

「そうですか、ありがとうございます」

「少し食事されますか?」

「はい」

「では用意してきます」


メイドが静かに部屋を出て行った、体はまだ怠いが体を起こしてみる、窓からは明るい日の光が差し込んでいた、ダンジョンなので魔法による光とは分かっているが気分がいい、メイドが食事を運んできた、カートに乗っているのはスープと柔らかい白パンそれと飲み物だった。


「ゆっくり食べてください」

「ありがとうございます」

「では、何かありましたらお呼びください」


メイドが出て行くとスープを一匙口へ運ぶ、卵と海藻の温かいスープで優しい塩味だった、食事を終えると眠りにつく、次に起きた時はロッシュもバルターも元気になっており一緒に食堂で食事をした、そのあとゼムに呼ばれメイドに従い部屋に入る。


「元気になったようだな」

「はい」

「まずはおめでとう、これは報酬の装備品だ確認してくれ」


ロッシュはドラゴンの弓と軽鎧バルターはドラゴンのロングソードと盾に鎧、たまにはドラゴンローブとドラゴンロッドが用意されていた、サイズもピッタリで軽く動きやすいバルターもロッシュも嬉しそうだ。


「私はクレイ様に頂いた杖がありますのでこのロッドは不要です」

「へー、その規格外の杖はクレイが作ったのか、再生魔法が使えるミスリルの杖なんてよく思いついたものだな、だが攻撃魔法はそのロッドを使った方が威力が増すから使う魔法によって使い分けるといい」

「分かりました、では頂いておきます」

「それと君が持ってた転移の指輪だけど、あまり遠くへは転移できないから気を付けてくれ」

「具体的にはどのくらいの距離なら移動できるんだ?」

「ダンジョンの階層移動程度だな、ダンジョンの外だと建物の中から外くらいか」

「町の外には行けないの?」

「無理だ、外は魔力の消費が激しいからな」

「浮遊戦艦からの脱出には使えそうか?」

「着陸していたなら可能だが飛行中は無理だな」

「それで十分よ、飛び立つ前に外へ出るつもりだから」

「使用回数は初期化しておいた壊れる心配はいらない」

「ありがとうございます、ロッシュあなたもお礼言って」

「ありがとうな」

「地上へは転移装置で戻るといい、もし町から出られない状況になったらここに避難するといい」

「俺達でもまだ勝てない相手がこの国にいるのですか?」

「奴らの将軍クラスは強いぞ、くれぐれも注意して行け」


ゼムとメイドに案内され転移装置の部屋まで行くと一階へ移動した、宿に帰ると目的の浮遊戦艦が明後日に入港すると噂になっていた、この国でもかなり有名な戦艦のようでニュースにもなっている。


「明後日ね」

「港の様子を見ておこうぜ」

「そうだな、行こう」


軍港の場所と周辺を探索し戦艦を見られる場所を探す、周辺地図を見てみると見物人のために遠目ではあるが戦艦を見られる場所が用意されていた、警備は厳重で関係者以外は施設に入れない、強化ガラスの向こう側では今も整備士が忙しく働いているのが見える。


「この壁さえ越えられれば戦艦まで行けそうだな」

「そうですね、隠密魔法を使えば見つからずに行けそうです」

「なら転移の指輪で壁を越えるか?」

「それがいい」

「助け出したら警報器が作動するでしょうから問題はそのあとです」

「一旦ダンジョンに隠れるのはどうだ?」

「その日のうちに国を出るのは難しいだろうからな」

「ダンジョンまでの最短ルート調べましょう」


準備は順調に進み明後日を迎えた、軍港に向かうと普段より少し人が多かったが戦艦が軍港に到着するのを見届けると多くの見物人は帰っていった。


「あの船に母と姉がいるのね」

「もう少し人が減るのを待とう」


乗員が全員降りると戦艦の周囲にいろいろなトラックが横付けされ整備が始まる。


「ここなら監視カメラにも映らないな」

「シークレットスクリーン!」

「行きましょう」


強化ガラスの前まで来るとロッシュが転移の指輪を準備する。


「行くぞ、転移!」


一瞬視界がぼやけ次の瞬間転移が完了した、滑走路に向かい歩いて行く走り出したい衝動を抑え見つからないよう慎重に戦艦に近付いた、戦艦にはタラップ車が繋がっている、今は誰も出入りしていない、このタイミングを逃さず素早く船内に侵入した、入ってすぐの階は個室が並んでいる乗組員の部屋なのだろう、下の階へ移動すると食堂とロッカーがあった、更に下へ移動する。


「倉庫だな」

「魔石が積んであるぞ」

「魔力炉があるんでしょう」

「奥へ行ってみよう」


通路を歩いて行くと魔力炉が見えてきた、巨大な魔力炉が浮遊石にエネルギーを供給している。


「これが浮遊石か」

「行きましょう」


浮遊石を回り込むように進むと鉄格子がある、ロッシュが鍵を開け中へ。


「これは、魔力抽出装置だ」

「じゃあ近くに」

「たま、ゆっくり、落ち着いてこっちへこい」

「どうしたの、あ、あああ、そんな、ひどい」

「あいつら!」


そこには両足を切り取られた妖狐族が二人いた、両手に枷を嵌められ鎖で繋がれている、手首や指は変形し痩せ細った体は病人のように青白い肌をしている頭と体には管が繋がった装置を装着されていて、この管から魔力を抽出されているようだ、口の周りには食料なのかゼリー状の付着物がある。


「生きてはいるようだが装置は外せるか?」

「俺に任せろ、だがここに入れば警報が鳴るはずだ」

「枷は俺が外す、たま、ショックだろうが」

「大丈夫です、回復は後回しにします脱出の準備を」

「た・・ま・・・」

「お母様!意識があるのですか」

「に・げ・・て・」

「大丈夫です、今助けます」

「じゃあ行くぞ!」


三人が一斉に魔力抽出装置の中に入る、警報が鳴り響く中ロッシュが装置を外すとバルターが枷を切断したまが受け止め寝かせる、そうして二人を解放した時には兵士がすぐ近くまで来ていた。


「何者だ!動くと撃つ!」


装置も枷も外した、回復魔法を使う暇はなさそうだが転移するなら今だと思いロッシュが小声で確認する。


「たま、いいか」

「ええ」

「ゆっくり両手を上げてこっちを向け!」


バルターともアイコンタクトで確認をすると解放した二人を含め、五人を指輪の効果範囲に設定し敵兵に聞こえない小声で転移の指輪の効果を発動する。


「転移」


転移の指輪が効果を発揮し五人を戦艦の外へ一瞬で転移させた、五人が今までいた場所にはもう誰もいない。


「消えた!ど、どこへ行った!」

「隠密魔法か!」

「探せ!探せ!近くにいるはずだ!」


兵士達は目の前から消えた侵入者に驚くがすぐに捜索を開始する。

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