第六十九話
「つけられてるな」
「バルターどう思いますか?」
「このままはまずい、何処かで始末しよう」
「ではなるべく人気の無いあそこはどうですか」
たまが指差す方向に古びた工場の屋根が見える、裏路地を進めばたどり着けそうだ。
「廃工場か、いいんじゃないか」
「ロッシュ、遠距離攻撃はできますか」
「強化弓がある任せろ」
「では行きましょう」
裏路地を進みたどり着いた廃工場は予想した通り誰もいない、中に入ると隠れていた追跡者が姿を現した、魔法師と盗賊系の男が合わせて三人、たまとロッシュが小柄なため自分達で捕まえる自信があるのだろう。
「こんなところに誘い込んでどうするつもりだ?」
「俺達と戦うつもりらしい」
「へへへ、俺達はラッキーだぜ、妖狐族の一級魔法師か、高額報酬間違いなしだ」
追跡者達は完全にたま達を見下し油断していた、大柄なバルターのみに注意を払いロッシュが強化弓で狙っているのに無視して話しをしている。
「シークレットスナイプ!」
ロッシュの弓技が敵の一人に命中する、それも眉間を見事に撃ち抜いた、突然崩れ落ちる仲間に慌てて声をかける。
「おい、どうした」
「くそっ、殺られてる」
「なんだと」
「ぐわっ、くそ俺も手をやられた」
「一旦引くぞ!」
慌てて逃げようとする追跡者達にたまが魔法を放つ、魔法師がそれを見てシールド魔法を発動した。
「逃がしません!サンダーボール!」
「フォースシールド!」
追跡者達はたまの放った魔法をフォースシールドで防ぐ自信があったようだ、だがたまの魔法の威力がシールドの防御力を上回り粉々に砕け追跡者に直撃する。
「何だと!バカな、うっ」
ロッシュの矢が二人目を始末した、三人目はたまの魔法で痺れて動けないようだ、バルターが近寄りとどめを刺す。
「ロッシュ、凄いじゃない、試験の時とは大違い」
「あの時は魔法師として参加してたからな、たまの魔法も強くなってるんじゃないか」
「この杖のお陰よ、魔力のコントロールが簡単にできるの」
うまく追跡者を倒したたま達が話している、その間にバルターは冷静に追跡者を調べていた。
「おい、こいつらやはり国から雇われてる人さらいだ、急いでここから離れよう」
「時間稼ぎに死体は消しておくわ、フレイム!」
一瞬燃え上がるとすぐに火は消えて死体は灰となった、廃工場を出てこの町にある地下組織へ向かう、酒場の奥にアジトへ繋がる通路がありバルターに続いて中に入ると数人の人間が待っていた、丸眼鏡を掛けた長身の男がバルターに話しかける。
「バルターか、本当に戻ったんだな、腕も再生してるじゃねーか」
「ああ、もう一度役に立てそうだ」
「それで何の情報が欲しい?」
「妖狐族の魔法師だ」
「それなら王都の浮遊戦艦に捕らえられていると聞いたな」
「浮遊戦艦だと!」
「高速浮遊戦艦グランルーク、そのエネルギー源になってるらしい」
「そんな、本当なの、許せない」
「その子は?」
「妖狐族のたまだ母親と姉がこの国で行方不明になってる」
「そうか、残念だが救出は難しいだろうな、浮遊戦艦の警備は厳重過ぎる」
「大丈夫、私行くわ」
腕組みしていた白髪の老人が救出に向かうと宣言したたまに話しかける。
「ふむ、なら見つからずに潜入する必要があるな、隠密魔法かそれに変わる装備が必要だがあるのか?」
「隠密魔法なら使えるわ」
「救出後に脱出する手段は?」
「転移の指輪があるぜ」
「ふむ、準備はしているようだな、だがそれでも浮遊戦艦に潜入するのは至難の技だぞ」
「大丈夫、うまくやるさ」
「止めても無駄のようだな、死ぬなよ」
「もう一つ、バルターの仲間のエルフは何処に捕まってる?」
ロッシュの問いかけに協力者達が沈黙する、情報を持っていないのかと思ったが隣にいたバルターがその問いに答えた。
「彼は死んだんだ」
「バルター?連れていかれたって言ってたじゃない」
「ずいぶん前に死体で見つかった、脱獄しようとしたらしい」
「それじゃバルター、あなたは何故私達と来たの?仲間を助けたかったんじゃないの?」
「死に場所を求めて、なんて言うなよ」
「そんなつもりはないさ、奴らに一泡吹かせてやりたい、仲間のためにもな」
「誰も死なせないわ」
「行こう、絶対救出しようぜ」
アジトを出てその日の内に町を出発した、乗り合い馬車に乗るわけにも行かず、まずは南の森を目指し徒歩で進んだ、森の中には野生のバトルホースが暮らしている、たまとロッシュは森での生活が長いためすぐに自分達が乗る分を捕らえたがバルターはかなり手こずった、たまとロッシュも協力し何度も失敗しながら何とか乗せてくれるバトルホースの捕獲に成功した、王都サンカリオスへ向け出発したのは町を出て五日後の朝となった、モンスターに襲われるかもと思っていたが全く襲われなかった、もっとずっと南の森にはいるのだろうが街道に近いこの辺りまでは来ないようだ、数日後、高い壁に囲まれた町が見えてきた。
「あれがサンカリオスだ」
「門から入れるかしら?」
「いや、検問が厳しい、忍び込む方がいいだろう」
「あの壁を登るのは一苦労だぜ」
「浮遊船の港から入れないかしら」
「隠密魔法なら行けるかもな」
王都の東には浮遊船の港があった、港は他より城壁は低いがその分港で働く兵士や役人に発見されやすい、しかも往来するクルマや馬車も多かった。
「ここで待っててね」
バトルホースを森の中に放し潜入する場所を探す、馬車が出入りしている入り口からならなんとか入れそうだと判断し、見つからない距離まで進み隠密魔法を使う。
「シークレットスクリーン」
三人の姿が消える、見た目は見えないが足音や話し声は聞こえてしまう、バルターが躓き危うく転びそうになったがなんとかこらえると、慎重に音を立てないように進み入り口を通過、そのまま町へと入った。
「もういいわね」
「バルターはもう少し歩き方に注意してくれ」
「すまない」
「宿に泊まっても大丈夫かしら」
「問題は無いだろうがたまは耳と杖を見せない方がいいな」
「そうね、そうする」
たまは魔法で姿を変える、頭髪を黒くし耳も人間のように丸く。
「これでいいかしら」
「さすが妖狐族だな」
「行こう」
王都でも一般的な宿に入り前払いで宿代を払うと三人部屋に入った、その後酒場や飲食店で情報を集めるがどうやら高速浮遊戦艦グランルークは今この町に停泊しておらず航行中だと判明した、宿に帰り今後について話し合う。
「情報では浮遊島に行ってるのよね」
「俺達じゃ浮遊船に乗る金がない、追いかけるにしてもここで待つにしても金が必要だ」
「そうね、私達にもできる仕事はあるかしら」
「ダンジョンに行くのはどうだ」
「探索者としてなら長期滞在してても不思議じゃないしな」
「では、そうしましょう」




