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第六十八話

時は少し遡る、ここはホビット族ロッシュの村、目的を果たしたロッシュとたまが滞在している。


私の名前はたま、妖狐族の魔法師だ、ラファエル法王国で行方不明となっている母と姉を探すため一級魔法師になった、ラファエル法王国には一級魔法師か一級魔法師を含むパーティでないと入国できないからだ、今は試験で一緒だったホビット族のロッシュの村に立ち寄っている、ロッシュの村はモンスターに襲われ多くの重傷者が出た、ロッシュは村の仲間を救うため再生魔法が使える魔法師を探す目的で試験を受けたそうだ、幸いにもフェアリーのティア様や魔法戦士のクレイ様と出会い再生魔法を使える杖までくださった、再生魔法は特級魔法師でも使える者は少ない、当然たまも使えないがこの杖を使うと使用可能なのだ、国宝級の価値があるこの杖を私とロッシュに何の対価もなくくださった、クレイ様達が何者かは分からない、だが何かとてつもない目的のため旅をしておられるように感じた、本当は母と姉のことも相談したかったがクレイ様達の迷惑になると思い言えなかった。


「自分達でなんとかできた方がいいでしょ」


クレイ様はそうおっしゃった、ロッシュの村は救われた次は自分の番そう思いラファエル法王国へ向かう決意をする。


「ロッシュ、私、明日出発するわ」

「そうか、じゃあ俺も準備しなくちゃな」

「準備?」

「俺も一緒に行くんだよ」

「どうして?」

「たまには助けられた、次は俺が助ける番だろ?それとも足手まといか?」

「いや、でもいいの?」

「もちろん、魔法師としては三流だがレンジャーとしてはそこそこ役に立てるぞ」

「分かった、じゃあ一緒に行きましょう」


翌日、村の外まで大勢の村人に見送くられ港町へ向け出発した、再生魔法を使える杖は村に一本置いて行った、今回助けた人の中にロッシュより魔力の多い魔法師がいるため彼に使ってもらうことにしたのだ、港町ギサンからラファエル法王国行きの船に乗ろうと船着き場で乗船チケットを買っていると見知らぬ男に声をかけられた。


「ラファエル法王国に行くのか」

「そうだけど、何か用かしら」


男は近寄り小声で二人に囁く、何者か分からないので油断はしない。


「あの国に二人だけで行くのは危険だ」

「でも行かなきゃ行けないの」

「邪魔するなら痛い目みるぜ」

「ロッシュ、ダメよ」

「でもどう見ても怪しいだろ」


男は肩をすぼめて言う、警戒は必要だがいきなり襲われるような人では無いように感じる。


「俺は敵じゃない、説明するからついてきてくれないか」

「いいわ、行きましょう」

「いいのか?」


ロッシュは警戒しているがこの程度の相手なら魔法で叩きのめす自信はある。


「私は一級魔法師、下手なことをすれば怪我じゃ済まないわよ」

「もちろんだ、危害を加えるつもりはない、ついてきてくれ」


男について行くとどんどん人気のない路地へ歩いて行く、裏路地を通り抜けさらに奥へ、薄暗い裏路地はロッシュの警戒心を高める。


「おい、どこまで行くんだ」

「あの先だ」


古い建物に入ると階段を下りる、カードキーで開く扉の中に入るとそこには数人の人間が集まっていた、見るからに悪人そうな男と鋭い目付きの女性剣士、他にも普通ではない者が集まっている。


「やっぱり騙したんだな」

「怪我じゃ済まないって言ったわよ」


ロッシュは二本のミスリルナイフを抜きくるくる回すとたまの後ろを守る、たまは杖を構え魔力を集中し始める。


「待て、戦闘の意思はない」

「ラファエル法王国に行った亜人の魔法師は国を出られないんだ!」

「何ですって!」


突然の情報にたまも衝撃を受け心が揺らぐ、確かにたまの母も姉も帰って来ていない。


「魔力を吸いだす装置に入れられるんだ」

「本当なの!何のために?」

「エネルギーだ、魔石から取り出すより効率的なんだそうだ」

「そんなこと本気で?」

「亜人は寿命も長いし魔法師なら魔力も多い」


女性の剣士が剣も抜かずに両手を広げたまの前に進み話しかける。


「全て本当のことなの、あなたをそうさせたくない」

「私は母と姉を探しに行くの、あなた達の話が本当ならまだ生きてる可能性がある、助け出せるわ」

「彼を見て」


指差した方向に屈強な体をした男が横たわっている、右腕を切断されたらしく包帯が巻かれ血がにじんでいた。


「彼はレベル365のヘビーガードよ、こうなりたくないでしょ」


たまは男に近づき状態を確認する、切断されてそれほど経過していないようだ、まだ再生できるかもしれない。


「腕を」

「熱があるの、無理させないで」

「大丈夫」


たまは迷うこと無く杖に魔力を込め再生魔法を発動する。


「リジェネレーション!」


失われた腕が再生して行く、周囲の驚く声を聞き流し指先まで完全に再生させると女性剣士の方を向き話しかける。


「もう行くわ、忠告ありがとう」

「待って」

「どうしても行くなら俺達の何人かが護衛しよう」

「必要ない、ロッシュだけで十分よ」


今会ったばかりの彼らを信用できないと考え断り続けていると、先ほど腕を再生させた男が上半身を起こしてたまに話しかけてきた。


「待ってくれ、俺にはこの腕の借りがある、それに法王国の情報も持ってる、この命お前のために使わせてくれ、頼む」


起き上がり必死に頼み込む男は真っ直ぐにたまを見つめる、真剣な眼差しから少しは信用できるかも知れないと感じ仕方なく同行を認める。


「情報は確かに必要ね、じゃあついてきなさい」

「バルター・ザック・カリスだよろしく頼む」

「では行きましょう」


バルターの同行が決まると他の者達もそれ以上は何も言わず見送った、地上に出て船着き場へ戻り三人パーティでの乗船手続きを済ませる、船は既に停泊しておりラファエル法王国行きの大きな客船に乗り込んだ。


「ふー、何だか疲れた」

「そうね、ゆっくり休みましょう」

「法王国に着いたらどこへ向かうつもりだ?」

「王都サンカリオスじゃないかやっぱり」

「そうね、まずは情報を集めなきゃ」

「情報なら俺が知っていることを先に話しておこう」


バルターが知っている情報を話し始める、嘘がないがロッシュもたまも注意深く聞いている。


「亜人の魔法師が出国できないと言ってたな」

「俺のいたパーティにもエルフの魔法師がいたんだ、法王国の魔法師に連れて行かれちまったがな」

「それは本当か?」

「そうだ、国が絡んでるのは間違いない、俺は油断して腕をやられた」

「他の仲間は?」

「俺を逃がそうと抵抗し殺された」

「本当かよ!」


国が亜人を拐う、それも抵抗する者は殺すと、信じがたいがバルターの目は嘘をついていないように感じる。


「法王国には魔法師が大勢いる、正直俺一人加わった所で救出は難しいだろう」

「どうする?もう少し仲間を増やすか?」

「いいえ、少ない方が動きやすいわ」

「バルター、向こうに協力してくれそうな人はいるか?」

「地下組織はあるが情報提供ぐらいだな」

「十分よ、まずは真実を見極めましょう」


客船はラファエル法王国の港町エリンズに到着し船着き場の職員に一級魔法師の証を見せるとすんなり入国できた、ただし監視者がいるとすぐに気が付いた、どこへ行くにも少し離れて付いて来る、たまが一人になるのを待っているのだろうと予想する。


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