第六十六話
ゲンとギエモンに見送られ工房を出るとそのまま町を出て封印の遺跡へ出発した、ベヒモスに乗り港町ルッツへ向かう、ベヒモスのお陰でモンスターに襲われず最短日数で町に到着するとすぐ乗船手続きを済ませ船に乗り港町ワロンへ、そこから封印の遺跡まで再びベヒモスに乗り移動する。
「ベヒモスありがとう」
「うむ、またな」
「クリン、準備は出来てるか」
「はい、案内いたします」
遺跡に入るとクリンに案内され動力室へ移動する、ブースターをアイテムボックスから取り出し渡すとロボットアームが取り付け作業を開始する。
「時間掛かりそう?」
「いえ、数分で終わります」
作業を見守ること数分、予定通り取り付け作業が完了しクリンにブリッジへと案内された。
「クレイ様、準備が完了しました」
「クレイ、発進すると宇宙人にバレないか?」
「帝国の戦艦と認識されるはずだけど、クリンどうかな」
「帝国の戦艦より多少大きいですが警戒されるほどの大きさではありません、性能はかなり高いですが戦闘しなければ分からないと予想します」
「問題無さそうだね、では改めて浮遊戦艦発進!」
「発進します」
地面に埋まっていた浮遊戦艦が上昇を始める、地響きと共に森の木が倒れ割れた地面の中から徐々にその姿を現した、ゆっくり上昇し空中に浮遊する戦艦。
「凄いぞ、モニターで全方位確認できるんだな」
「モニター映像以外にもレーダーによる敵艦隊やミサイルの感知能力に優れています」
「ステルス性能はどうだ?」
「敵レーダーに補足されにくい塗料が使用されています、更にクレイ様の魔法も反映できるよう改良しました」
「魔法?」
「クレイ様の防御魔法を一つ戦艦に反映させるとストックされ解除するまで効果が持続出来ます」
「それは凄いね、効果を維持するのに必要な魔力は?」
「戦艦の魔力炉から供給されます、高密度魔法石も倉庫に沢山ありますので心配ありません」
「じゃあさっそく魔法使ってみようか」
「こちらの宝珠に魔法をお願いします」
クレイは魔力を右手に集中し宝珠に向け魔法を発動する。
「パーフェクトアンノウン!これでいいのか」
「このような魔法があるのですね!問題ありません、魔法の効果で姿が完全に消えています」
「ハーシエル王国の位置は分かる?」
「ステルス機能が使われていますが完全では無いようです、南東に何か反応があります」
「そこで間違いない、じゃあ行こうか」
「では、南東に向け発進します!」
南東に向けゆっくり発進する、ジャイナ王国の上空を通過しラファエル法王国に入るが迎撃部隊も現れない、クレイの魔法が効果を発揮している、ゆっくりそのまま通過しノイマン王国の手前を東へ進むと空中に浮かぶ島が見えてきた、ステルス機能の影響でボヤけているが確かに島がある。
「あれがハーシエル王国か」
「本当に島が浮いていますね」
「どうやって浮いてるんだ?」
「シルフィーあの島もしかして宇宙人の技術で浮いてるのか」
「原理はこの戦艦と同じで浮遊石を使ってるわ」
「魔力炉があるなら魔法石がたくさん要るだろうな」
浮遊船の港に三隻停泊している法王国とノイマン王国の国旗が見える、物資を運ぶ貨物船と軍艦のようだ、港を迂回し着陸できそうな場所を探す。
「どこに降りる?」
「町の西側が広い草原になってる、あそこにしよう」
「どうやって潜入する?」
「古竜サキにもらったこの隠密マントを着てみて」
「これは凄いな、全く見えない」
「フードを被ると完璧ですね」
「でもお互いも見えないぞ」
「クレイ様、手を繋いで行けば問題ありません」
「それで行こう」
パーフェクトアンノウンの効果で船体が見えない浮遊戦艦から降りる、町へ歩いて移動するがハーシエルの町は壁も門も無いので簡単に潜入できた、町には高いビルが建ち並んでいるが人は少ない、中央の大きな建物を目指し歩いて進む。
「警備はしてないのか?」
「宇宙人以外はあまり住んでいないのかもな」
「あそこが入り口みたいです」
中から出てくる人は地上の人間と変わらないように見えるが身に付けている服装が全員グレーだった、こっそりと近寄り紛れて中へ入るとホールの正面にはエレベーターが五基並んでいた、だが上りのボタンしか無い一旦離れてクリンに確認する。
「浮遊石はここの上にあると思うか?」
「大きな建物ですがこの島を浮かせるには大きな浮遊石が必須です、浮遊石は地下にあると予想します」
「ここのエレベーターでは地下へ行けない他にもある?」
「右手の奥にも貨物用のエレベーターがあるようです」
「行ってみよう」
右の通路を進むと確かに貨物用のエレベーターがあった、大きなエレベーターで丁度荷物を運んでいる、こっそりと荷物の影に隠れて乗り込んでみる。
「この荷物を運べば一旦休憩にするか」
「そうだな、次の貨物船は昼まで来ないからそうしよう」
「食堂の新しいメニュー聞いたか?」
「いいや、どんなメニューだ?」
「シーバードの肉を使った料理らしいぞ」
「シーバードか、旨いよなあれは」
「終わったら行ってみようぜ」
「そうだな、楽しみだ」
荷物運搬の作業員と一緒にエレベーターで降りると目の前に大きな魔力炉があった、作業員は奥へ荷物を運んで行ったがクレイ達は目の前の部屋に入ってみた魔力炉の状態を確認する管理室のようだ。
「端末があるぞ」
「調べて見ます」
「浮遊石もありそうだな」
「それにしても人が少ないですね」
「調査が終わりました浮遊石は階段を下りて左手に進んだ位置にあります」
「イーリスはどこにいるか分かるか?」
「浮遊石の奥に何名かの亜人が囚われているようです」
「そんな場所にか!」
「封印されてるんですよね」
「ティアの場合とは違うのかもな、案内してくれ」
部屋を出て近くの階段を下りる、金属製の階段なので本来は足音が響くのだが隠密のマントで足音も消えている、折り返し階段を何度も下りると少し開けた場所にたどり着いた。
「右側の通路を進んでください」
「魔力炉の底だな」
「こんな場所にいるのか?」
通路を進むと左側に浮遊石が見えてきた、青いクリスタルのような浮遊石は巨大で大型の戦車を二台重ねたほどの大きさだった。
「シルフィー、こんな大きな浮遊石があるんだな」
「いいえ、これは人工的に作り出した浮遊石ね」
「これだけ大きいからこの島を浮かせられるんだな」
「クレイ、扉があるぞ」
「開きませんね」
「クリン、開けられるか?」
「お任せください」
クリンがロックを解除し扉を開け中に入ると円柱の水槽が並んでいた、中には女性の悪魔が入れられている。
「これって悪魔だよな」
「イーリスなのか?」
「クローンですね、魔力を吸い出しているようです」
「生きてるのか?」
「生きてはいますが意思は無いようです、魔法石の替わりとして使用されているようです」
「ひどい」
「先へ進もう」
円柱の水槽が並ぶ通路を歩き奥にある扉を開けると正面に厳重に封印された悪魔が壁に鎖で縛り付けられていた、隣にも封印されている亜人が三人いる。
「この悪魔がイーリスか」
「ミカエラ!どうしてここに」
「ティア知り合いか?」
「昔の仲間じゃ一緒に助けてやってくれぬか」
「もちろんそのつもりだ、このフェアリーは?」
「ダークフェアリーのルメリアじゃ」
「こっちのエルフも知り合いなの?」
「いや、知らぬ顔じゃがハイエルフのようじゃな」
四人とも封印されているが生きている、魔法で調べてみると黒い鎖で縛られ魔力を奪われているグプト王の呪いと同じ効果があるようだ。
「クレイ様、封印は解けそうですか?」
「体の周囲に浮かんでいる二本の魔力の帯これが封印だ、解除は難しく無い繋がれている鎖も物理的に切断可能だ、だけど」
「セキュリティーに引っ掛かるんじゃないか?」
「フォルトの言う通り、完全にバレちゃうね」
「どうしますか?」
「浮遊戦艦から町までそんなに離れてないし大人五人とフェアリー二人なら転移魔法で何とか移動できそうだ」
「それじゃあ」
「うん全員助けよう、封印は僕が解くからフォルトとクラリスは鎖を外してくれる?」
「分かった」
「ティアは回りを警戒して何かあったら知らせて」
「うむ」
クレイが魔法で封印を解いて行く、強引に帯状の封印に対し魔力を注ぎ破壊するイーリス、ミカエラ、ルメリア、ハイエルフの順に解除するとクラリスが鎌で鎖を切断する、警報音が鳴り響く中で冷静にフォルトが一人ずつ寝かせる。
「クレイ、警備員がすぐそこまで来ておるぞ!」
「集まって!転移魔法発動!」
一瞬で浮遊戦艦の近くまで移動した、隠密マントを脱ぎ全員の無事を確認する。




