第六十二話
食堂のテーブルに海老やイカが入った炒め物、大きな魚の焼き物と海藻サラダが並べられている、どれも新鮮で美味しくティアもガツガツ海老を食べていた、食後は風呂に入り明日に備え早めに休むと、翌日の朝港へバスで移動し乗船手続きをする、小型の客船に乗り込むと二日でサンの町に到着した、大きな港町で今まで訪れた町とはまるで違い服装も建物も前世のアジアのようで懐かしさを感じる。
「変わった町だな」
「そうですね、クレイ様?」
「あ、うんそうだね」
「案内所があります」
案内所で町の地図をインストールし技術者ギエモンについて調べてみる、登録のある工房を地図データで確認し出発した。
「あっちだな」
「この道ですね」
「ここか」
工房が並んでいる通りを地図を頼りに歩き到着した中規模の工房は、大勢の職人が忙しそうに働いている、入り口の扉を開け受付の人に話し掛ける。
「技術者のギエモンさんに会いたいのですがいらっしゃいますか?」
「どちら様ですか?」
「クレイと言います、ゲンさんから手紙を預かってまして」
「申し訳ありません、今この工房にギエモンはいないのです、個人的な用件でしたら直接家を訪ねてみてはいかがですか?」
「そうですか、場所を教えてください」
工房を出て住宅街へ向かう、教えられた家にたどり着くと玄関のベルを鳴らした、少しして女性が出てきた。
「どちら様?」
「クレイと言います、ゲンさんからギエモンさんを連れてくるように言われまして手紙を預かってます」
「ゲンさんから、そうですか、残念ですがもう技術者として仕事が出来る体では無いのですよ、まあ入って見てもらえば分かりますのでどうぞ」
案内され家に入るとギエモンはベッドに寝かされていた、体を起こすのもやっとの様子だった。
「どなたかな?」
「クレイと申します、ゲンさんからの手紙を預かって来ました」
「ゲンからか」
クレイが手紙を渡すとギエモンは受け取り読み始める。
「ゲンらしいな、面白そうな仕事だがこの体では役に立てない」
「ご病気ですか?」
「ああ、医療カプセルでも治療不可能だ」
「僕に調べさせてください」
「かまわないがお主医者か?」
「一級魔法師の資格を持っています」
「ほう、なるほど、では調べてみてくれ」
クレイがアナライズで病気を調べると症状は、体が徐々に石のように固くなり動かなくなる、完治には人魚の血液が必要、進行性の病気らしいと判明した。
「回復魔法を試してみてもいいですか?」
「ああ、やってくれ」
「キュアウインド!」
状態異常回復の魔法でギエモンの体が薄い緑色に光る、かなりの魔力を込めたが何かが足りないようだ。
「お、おお、症状が和らいで行く」
「でも完全には治らないですね、完治させるには人魚の血液が必要なようです」
「完治するのか!だが人魚か、竜宮城にでも行かないと無理だな」
「竜宮城?場所はご存知ですか?」
「この町から東へ行くと小さな浜があるそこから行けるとおとぎ話で聞いたことはあるが」
「それは本当におとぎ話で実際に行った人はいません」
一緒にいた女性がそう補足する、だが調べてみる価値はありそうだ、ウンディーネに聞けば何か分かるかもしれない。
「分かりました、調べてみます、もし治ったら引き受けてくれますか?」
「そうだな、もし本当に治ったら引き受けよう」
魔法で症状はだいぶ回復し少し元気が出たようだが病気の進行は止まっていない、ギエモンの家を出て町の東門へ向かう、その途中でフォルトが話し掛ける。
「クレイの魔法でも回復できない病気があるんだな」
「状態異常の回復魔法ではあそこまでが限界だったよ」
「竜宮城なんてあると思うか?」
「分からない」
「海底ですよ、潜水艇でも無ければ行けないのでは?」
「人魚化薬もあるしもしあればウンディーネなら連れて行ってくれるだろう」
「人魚化薬?そんな薬があるのか」
「水中でも呼吸が出来るそうだよ」
東門の兵士に携帯端末を見せ通してもらうとクルマで浜まで移動する一時間で到着した。
「出でよウンディーネ!」
海の中から現れたウンディーネがニコニコしながら話し掛ける、クレイに頼られるのが嬉しいのだろう。
「なんだかお役に立てそうな雰囲気ね」
「人魚の血液が必要なんだ、人魚に会いたいんだけど竜宮城ってあるのか?」
「あるわよ、呼び方は色々だけどね、でも海底よ」
「人魚化薬がある」
「それは準備がいいわね、それと血液を分けてもらうにはお礼が必要よ」
「何とかならないか?」
「無くもないわね、じゃあ行きましょうか」
人魚化薬を全員が飲み干し服を脱ぎ海に入ると人魚の姿になった、男は首から下が魚人の姿だ。
「水の中でも呼吸が出来るのは分かったが、これ元に戻るんだろうな」
「状態異常回復の魔法で戻れるよ」
「クレイ様どうですか?」
クラリスの人魚姿は本物のように綺麗だった、下半身は綺麗な青い鱗に覆われキラキラ光を反射している。
「似合ってるよ」
「どーしてじゃ!儂はなぜ魚人?」
「フェアリーだからかな」
「納得行かんぞ!」
ティアは首から下が魚人の姿で人魚ではないことにブツブツ文句を言いながらもウンディーネにつかまり海底へ向かった、二時間ほどで海底にドーム状の魔法障壁が見えその中央に城が見えた、こちらへ向かってきた魚人の兵士に話し掛ける。
「着いたわよ、兵士さん入れて!」
「ウンディーネ様!どうぞ」
ウンディーネのお陰ですんなり門の中に入り続いて城へ入れた、多くの人魚が泳いでいる一番奥に二階へ上がる通路があり中央の部屋まで泳ぐ。
「グプト王、お久し振りね」
「これはウンディーネ様、そちらは?」
「私の契約者とその仲間よ」
「契約者ですか、して何のご用ですか?」
「体が徐々に動かなくなる病を治すために人魚の血液が必要なんです」
「ふむ、ウンディーネ様の契約者なら大丈夫だろう、輸血パックを持って行くがよい」
「ありがとうございます」
人魚の血液パックを受け取りアイテムボックスに入れる。
「その症状、病の原因はおそらく海鱗茸の胞子だろう、たまに大量発生するから地上に流れたのを食べたに違いない」
「教えてくれてありがとうございます」
「用件が済んだのなら地上に戻るといい」
見返りも求めず早く帰らそうとするグプト王はかなり疲れているように見える。
「待ってグプト王、長年の悩みクレイ様ならきっと解決出来ますよ」
「ウンディーネ様それは本当ですか」
「本当です」
ウンディーネがクレイに目配せする、なんとかなるのだろうか、よく分からないまま頷いてみる。
「では頼むとしよう」
グプト王はマントを脱ぎ体を包んでいた衣を外す、魚人の体に鎖で縛られたような跡がくっきりと分かるほどについていた、ウンディーネがクレイに説明する。
「クレイ様、呪縛の呪いです、長年解呪の方法を探しているのですが未だにこの状態なのです」
「分かりました詳しく調べてみましょう」
アナライズの魔法で調べると呪いの魔法と判明するそれもかなり強力な呪いで少しずつグプト王の魔力を吸収し鎖が太くなっているようだ。
「誰と戦ったのですか?」
「うむ大昔、法王国の大神官がその命と引き換えにこの呪いを掛けた、それ以来この有り様だどうにか出来るのか?」
「輸血パックのお礼にやってみましょう、アンチカーズ!」
クレイは魔力を練り固め魔法に込めると解呪の魔法を使う、魔法がグプト王の体を包み込み白く光り始める、黒い鎖が引き剥がれるように浮き出てきた、更に魔力を込めると一本目の鎖が千切れ消えた、全ての鎖が消えるまでに十分ほどかかったが何とか全ての鎖を引き千切り解呪に成功した。
「ふー、力業でなんとかなったよ」
「こんな方法で解呪するなんてクレイ以外では出来んかったじゃろうな」
「さすがですクレイ様」
「ありがたい、数百年ぶりに鎖から解放された、礼を言うぞ」
「王様の呪いが解けたぞ!」
「ありがとうございます」
王様の側近達がとても喜んでいる、家臣に慕われるよい王様なのだろう。
「ウンディーネ様、感謝します」
「呪いを解いたのは私の契約者よ」
「クレイ殿、感謝します、ありがとうございます」
「輸血パックのお礼だから」
鎖による締め付けがなくなったグプト王は嬉しそうに腕をぐるぐる回している、魔力が戻れば元通りになるだろう、ウンディーネも満足そうにうんうんと頷いている。
「じゃあ私達そろそろ帰るわね、グプト王」
「うむ、ゆっくりしていってもらいたいところだが急ぎの用事があるのだな、ウンディーネ様、クレイまたいつでも来るがよいぞ、次に来る時は歓迎の宴を用意しよう、地上に帰りたくなくなるほどの宴をな」
グプト王に仕える多くの兵士達や人魚達の大勢に見送られ地上へ出発した。




