第六十一話
この国の王都は平地にあり北側に港がある、かなり高い城壁が町を囲んでおりその上に砲台もいくつか見える、門兵に携帯端末を見せ検問を済ませると門を通り町に入った、町の案内掲示板に大まかな地図がありみんなで見ている。
「工房は町の東側に集まってるな」
「まず宿を取りますか?」
「そうだね、きっと時間掛かるだろうし」
町の西側が居住区でクレイ達が入って来た西門の前から中央に向かってホテルが並んでいる、その中であまり値段の高くない宿を探す。
「赤猫亭ここにしましょう」
「普通の宿が一番だな」
「そうだね」
「儂もここでいいぞ」
チェックインを済ませ町の東側の地図を確認する、科学技術がこの世界で一番発達している国だけあり宿の設備も充実している、携帯端末からブースターの情報をコンピューターに入力し関連のある工房を検索する。
「軍事関係の工房が多いな」
「軍事関係はあまり深入りしたく無いですね」
「クルマの工房があるよ」
「エアバイクの工房みたいだな」
「手分けしてブースターを作ってもらえる工房を探しましょう」
「じゃあ夕方この宿に集合でいいかな」
「はい」
宿を出て町の東側に向かうとバスターミナルがあり、バスが停まっていたので行き先を確認し乗り込んだ、大きなバスで大勢の人が乗っている。
「交通機関も整備されてるな」
「聖王国や帝国もバスはあるけど道路がもっと複雑だったよね」
「あ、お城です、大きいですね」
「クルマで門を入って行くぞ」
「軍用車じゃな、軍事国家は相変わらずか」
バスは城を迂回し東側に進むと停留所に到着した、ここからは別れて工房を探す、クレイは南側へ歩いて行く。
「ここから入ってみるか」
入り口のドアを開け受付に進み話しかける。
「すみません 」
「はい」
「この工房で浮遊石にエネルギーを充填するブースターを作ってるとあったんですが」
「面会のご予約はありますか?」
「いいえ」
「少々お待ち下さい」
受付の人が電話で連絡をしてくれる、事前に予約をする必要があったようだ、しばらく待っていると受付の人が話しかけてきた。
「お客様、準備が出来ましたこちらへ」
「ありがとうございます」
案内された場所で椅子に座り待っていると担当者がやって来た、スーツ姿の小柄な女性だった。
「お忙しいところ時間を作ってくださりありがとうございます」
「次からは予約してください、私は商品宣伝部のエリナです」
「クレイです、フリーの探索者をやっています」
「それで、ブースターが必要なのですね」
「はい、これなんですが」
クレイは端末の情報を見せる、エリナは熱心に端末を見て驚いた表情を見せる。
「浮遊石へエネルギーを充填するのにこの性能が必要なのですか?」
「はい、新しく入手した浮遊石が大きかったので」
「この性能だと浮遊戦艦用ですよね?どこの国の所属ですか?」
「エステリア帝国です」
「分かりました技術者に聞いて来ますので少々お待ち下さい」
携帯端末でフロイス宰相に連絡する、保留にしていた報酬で封印の遺跡で発見した浮遊戦艦をクレイの物とし、改修に必要なブースターの取得に協力してもらうよう頼んだところ快く了解してもらえた、これで辻褄は合う。
「お待たせしました」
「技術師長のエノモトだ」
「クレイです」
「この設計はどこの誰が書いたんだ?」
「クリン」
呼び出すと目の前にクリンが現れた、エノモトとエリナが驚いている。
「このAIに書かせました、さらに詳しい情報が必要なら直接聞いてもらっても構いません」
「いや、それには及ばない、すでに詳しく書かれているからな、ただうちの工房では作成が難しいな」
「そうなんですか」
「主に小型の乗り物を作っているからな、小型の戦艦や空母が限界だ」
「どこか紹介してもらえないでしょうか?」
「大型戦艦は軍事機密があって国同士の契約をしなければならんのだ、クレイ殿はエステリア帝国の代表では無いのだろ?」
「はい、戦艦の所属はエステリア帝国なのですが個人所有に近いです」
「個人所有の戦艦だと!信じられん、だがここまで詳細なデータを見せられると信じる他ないか」
「紹介は難しいですかね?」
「引き受ける可能性は低いがゲンと言う技術者を訪ねてみるがいい、工業区南東の一角に工房がある、つぎはぎだらけの建物だから行けばすぐに分かるはずだ」
「ありがとうございます、行ってみます」
「あまり期待はするなよ」
「はい」
工房を出て南東に歩いて行くと、つぎはぎだらけの建物はすぐに見つかり玄関のインターフォンを押してみる。
「すみません」
少し待っても返事が無いのでもう一度押してみる。
「すみませーん」
留守かと思ったがしばらくして返事があった。
「誰だ?」
「クレイと申します、仕事を依頼したくて来ました」
「話を聞こう入ってくれ」
「ありがとうございます」
扉を開けて中に入りしばらくすると白衣にボサボサ髪の男が現れた、丸い眼鏡をかけ直し手招きする。
「こっちへ」
招かれたテーブルへ移動し椅子に座る。
「それで仕事の依頼とは?」
「これを作ってもらいたいんです」
携帯端末にブースターの情報を表示し見せると興味を持ったようで時間をかけじっくり読み込み質問を始めた。
「材料費は先払いでもらいたい、ここに入金してくれるか?」
「かまいません、引き受けてもらえませんか?」
「やりがいのある仕事だがこの性能を実現するには技術者が足りない」
「あいにく技術者の知り合いはいないんです」
「そうだろう、この国の港から船で北東へ行った場所にサンと言う町があるその町にいるギエモンを連れて来てくれ」
「ギエモンさんですね分かりました」
「ちょっと待っていてくれ」
そう言うと手紙を書き始めた、それを白い封筒に入れクレイに渡す。
「先に進められる作業はやっておく、出来るだけ急いでくれ」
「分かりました、お金はこれで足りますか?」
クレイは端末から金貨千枚を先払いでゲンの指定した講座に支払う。
「十分過ぎる、余ったら返金させてもらおう」
「では一度仲間と合流してからギエモンさんを訪ねに行ってきます」
「期待しているぞ」
工房を出るとバスに乗り赤猫亭に戻る、フォルト達は一足先に帰っていたのでクレイの部屋に集まり情報交換を始めた。
「俺の訪ねた工房では作れないと断られた」
「私も同じです」
「僕は南東の工房を紹介されてギエモンと言う技師を連れてくるように言われたよ」
「ひょっとしてゲンと言う技術者の工房か?」
「うん」
「はみ出し者のゲンと言われているらしいです」
「相当変わり者らしいが大丈夫か?」
「他に作れる技術者がいないからしょうがないよ」
「では明日にでも出発しますか」
「うん、港からサンの町へ行くよう言われてる」
「ではその前にまずは夕飯じゃな」
「そうですね、食事にしましょう」
部屋を出て宿の食堂へ移動する、魚介類のいい匂いが通路まで届いていた。




