第六十話
砂猫亭で宿泊手続きを済ませると食堂へ移動する、夕食には少し早い時間だったが、以前より客が多いように感じた、テーブル席に座るとメニューを開く。
「いらっしゃい、何にします?」
「サンドビーフの焼き肉と冷たいエールを頼む」
「儂は焼き鳥とエールじゃ!」
「クレイ様はハンバーグですか?」
「そうだね」
「私もハンバーグ、それとマスカットエール」
「かしこまりました」
注文を伝えに従業員がカウンターの方へ急ぎ足で歩いて行く、とても忙しそうだ。
「前より賑わってるな」
「そうだね」
料理が来るまで周囲の客の様子を伺っていると、氷の城での問題が解決した話しやオアシスの水位が回復している話しが聞こえてきた、多くの調査員が亡くなった事実も国から発表されたようだ。
「お待たせしました」
「少し景気よくなったようだね」
「そうですね、やっぱりオアシスの水位が回復したのが大きいですね」
「これで安心だな」
「はい、ではごゆっくり」
店員が他の客に呼ばれテーブルへ急いで向かった、団体のお客さんが入ってきているようだ。
「明日にでも広場に行ってみるか」
「そうだな」
焼き鳥を頬張りティアがにこにこしている、この食堂の焼き鳥はとてもおいしい、特産品の塩が肉の味を引き出している。
「やっぱり焼き鳥はうまいのう」
「ハンバーグも美味しいですね」
「うん」
綺麗に食事を食べ終えると少し早いが部屋に戻りゆっくりと休む、翌日の朝、広場に向かうと調査員の募集をしていた兵士詰所へ入る、受付の兵士に話し掛けた。
「すみません」
「あ、お待ちしていました、こちらへどうぞ」
カウンターに移動すると担当者が説明を始める、どうやらクレイ達を待っていたようだ。
「調査員の報酬と招待状です」
「招待状?」
「王様からも褒美が頂けるそうですよ」
「お城へ行くの?」
「はい、こちらから先に連絡しておきますので今から向かってください」
「分かりました」
報酬と招待状を受け取り詰所を出て城へ向かう、城門の兵士に招待状を見せると城の中へ通され案内役の兵士に謁見の間まで連れて行かれた、その部屋でしばらく待っていると王様が奥の扉から入って来た。
「頭を上げてください」
目の前にある玉座には若く美しい女王が座っていた、アンチエイジングが可能なこの世界では見た目と実年齢は一致しないがどう見ても二十歳前後にしか見えない、アンチエイジングでそこまで若返る人は珍しい大半が二十代半ばから三十代前後だ、クレイが女王に見とれているとクラリスの悲しそうな視線に気が付いた
「クレイ様、私は第二夫人でも構いませんから」
「え、いや、違うから」
女王はにっこり微笑み静かにしかしよく通る声で話し始める。
「氷の城での調査及びモンスターの排除について大変ありがたく感謝申し上げます、オアシスの水位も順調に回復していると報告が届いています、この功績に対し褒美を与えようと思います何か希望はありますか?」
フォルトやクラリスはクレイに任せると頷くが特に希望は思い当たらない。
「港の封鎖を解いてくだされば他には何もありません」
「そうですか、港の封鎖はすでに解かれていますがこれを褒美とは言えません、そうですね、ではこの国でも貴重な太陽の石を差し上げましょう」
「太陽の石?」
「探索者なら多くのモンスターと戦うのでしょうからマジックアイテムは役に立つでしょう」
「ありがとうございます」
運ばれて来た太陽の石はオレンジ色で少し小さい卵のような形の石だった、アナライズの魔法で調べてみると魔力を消費せずサンライトボールを使えるようだ。
「城にはいつでも入れるよう名誉国民に登録しておきます、またいつでもいらしてください」
「ありがとうございます」
「本当はもっと報酬を差し上げねばならないのですが、今は他に何もないとのことですので今後何か我が国に協力できることがあればいつでも何なりと申してください」
携帯端末にカンド王国名誉国民の情報が表示された、褒美を受け取り女王が退出するのを見届け謁見の間から退出する。
「お疲れさまでした、これは王国兵士からですお受け取りください」
案内役の兵士からお金の入った袋を渡された、かなりの金貨が入っている。
「多くの兵士が氷の城で命を落としました、我々では無駄に命を落とすだけだったと思います国を救っていただいたこと忘れません」
「解決できてよかったです」
いつの間にか集まっていた多くの兵士に見送られ金貨の入った袋を受け取り城を出る、そのまま町の門を出ると港町ルダートへ出発した、砂漠を南下しモンスターと戦いながら移動する、新しい武器リーパーの鎌や投げナイフを実戦で使い効果を確かめた、太陽の石はティアが使っているストームブレスと組み合わせたサンライトストームでモンスターをなぎ倒す、なかなかの威力だった、サンドスォームやナイトウルフを簡単に倒せるようになり数日後に港町ルダートに戻ってきた。
「先に封印の遺跡へ行こうか」
「なら港町ワロンへ向かうんだな」
「乗船手続きに行ってきます」
クラリスが手続きしている間に不要品と魔法石を売却する魔法石はいつもより高値で売れた、船乗り場でクラリスを待ち合流する。
「クレイ様、一時間後に出港だそうです」
「ありがとう、乗ろうか」
「あの船です行きましょう」
クラリスに続いて船に乗り一時間後出港する、今回もウンディーネのおかげでモンスターが襲って来ない安全な船旅を終え封印の遺跡へ向かった、遺跡に入りクリンを呼び出す。
「クリン、浮遊石はどこに設置すればいい?」
「こちらです」
クリンの案内で使えなくなった浮遊石を見に行く、かなり整備も進んでいて歩きやすくなっているだがここでシルフィーにもらった浮遊石より設置されている浮遊石がだいぶ小さいと判明した。
「これどうしよう」
「ギリギリ収まる大きさですね」
「そう?設置してみるか」
使えない浮遊石を取り外しマジックボックスに入れシルフィーにもらった浮遊石を設置する、最大まで固定位置を広げるとなんとかギリギリ設置できた。
「では稼働してみます」
「よろしく」
クリンがスイッチを入れると魔力エネルギーが浮遊石に流込む、だが少し光っただけだった。
「これで終わりか?」
「浮遊しませんね」
「失敗か?」
「浮遊石が大き過ぎるようです、出力が足りません、ブースターが必要ですね」
「ブースター?」
「高度な科学技術を持つノイマン王国なら目的のブースターが手に入るでしょう」
「ノイマン王国か中央大陸の東にある国だな」
「シルフィーに会いに行くついでに行けますね」
「じゃあ行くか、クリン調整しておいてくれ」
「かしこまりました、必要なブースターの情報は携帯端末に入れておきます」
「じゃあ出発!」
封印の遺跡から港町ワロンへ移動する、今回は問題なく船に乗り込めた、港町ルッツに到着すると南の大草原へ向かうためベヒモスの背中に乗りシルフィーを探す、今回は向こうから見つけてくれすぐに現れた。
「ようやく戻ってきたわね」
「風の腕輪を持ってきたよ」
風の腕輪をシルフィーに渡すと左手に持ち替え右の腕に通した、腕輪の模様が淡い緑に光りだす。
「確かに受け取りました、では契約しましょう」
そう言うと精霊召喚の契約を結んだ、携帯端末で契約完了を確認する。
「これからのどこに行くの?」
「浮遊石に魔力を注入するんだけどブースターが必要らしいからノイマン王国に探しに行く」
「そう、私の力が必要な時はいつでも呼び出してね」
「そうさせてもらうよ」
「じゃあね」
そう言うと何かまだ言いたそうだったが言わずに消えてしまった、ノイマン王国の近くまでベヒモスに乗って移動する、誰かに見つからないよう途中の町にも寄らず遠く離れた草原を移動した。
「あれがノイマン王国の王都だ、ではまたな」
「またな」
すっかり乗り物扱いに慣れたベヒモスが地面に消えて行く、クレイ達はクルマに乗り込み王都へと走らせた。




