第五十五話
クレイがクルマをアイテムボックスから取り出すとフォルトの運転で港町ルダートへ向け走り出した、三日後町に到着したクレイ達は船着き場へ向かう、クラリスはいつもにように受付へ行くが何故かすぐに戻ってきた。
「クレイ様、大変です」
「どうした?」
「港が封鎖されています」
「船に乗れないの?」
「はい、カンド王国が封鎖したようです」
「カンド王国か行って見るか?」
「しょうがないね」
「王都の場所は北の砂漠にあるオアシスです」
「よし、出発しよう」
ルダートの町から北へ向かう街道は途中から砂漠になった、フォルトが砂地にタイヤをはめないよう慎重に運転する、サンドワームやスコーピオンラージを相手に戦っているとデザートホークがクレイ達を見張るように空高く飛んでいたのでアイスジャベリンで貫き倒しておいた、ルダートの町を出て三日目。
「見えたぞ!」
「オアシスだね」
「こんな砂漠の中なのに大きい町ですね」
高い壁が町を囲んでいる上空を覆うようにシールド魔法が掛けられているようだ、昼過ぎに門へ近づくと兵士に端末を見せる。
「フリーのダンジョン探索者か、歓迎する」
「どうも」
クルマで町に入り駐車場の端に停めると、辺りに誰もいないことを確認しアイテムボックスに入れる。
「まずは宿だな」
「あそこですね」
「砂猫亭か、ここにしよう」
チェックインし情報収集に向かう、フォルトは酒場クラリスは王城周辺クレイは商店街へ向かった、夕方には宿に戻り集めた情報を共有する。
「港を封鎖している原因は魔法石の節約みたいだね」
「ダンジョン探索者が氷の城の調査に向かっているから魔法石が不足してるようだな」
「氷の城周辺で降雪量が増えたためオアシスの水が減っているそうです」
「この国では魔法石より水が大事なんだね」
「王城前の広場で調査員を募集していました、調査報告書を提出すれば報酬が支払われます」
「じゃあ僕達も応募してみようか」
「行くしかないか」
「儂は寒いの苦手なんじゃがな」
「クレイ様が縫ってくださったコートがあるから大丈夫ですよ」
「じゃあ決まりだね」
翌日、城へ向かうと広場で調査員の募集を行っていた、多くの探索者が並んでいる、クレイ達も順番に並び手続きをする。
「高レベルの探索者は大歓迎です、フォルトさんにクラリスさんそれにティアさん」
「僕も参加したいのですが」
「えーと、クレイさんですね参加は構いませんがそのレベルでは氷の城まで行けないかもしれませんよ」
「はい、大丈夫です」
「この頃は帰って来ない調査員が多いのです、途中で引き返しても報酬は出ませんよ」
「はい」
「では、参加者の登録します・・・はい終わりです、地図は端末にインストールしました頑張ってください」
北門から町の外に出ると砂漠の道を北へ走る、二日で砂漠が終わり雪がチラチラ降りだした、さらに半日進むとクルマで走れないほどの雪が積もっておりクレイ達より先に出発した調査員のクルマが停車している、奥の方はもっと前に出発した調査員のクルマが雪に埋まっていた。
「ここから歩きみたいだね」
「雪が深いです」
「気温差ありすぎて頭痛いぜ」
「帽子も編んだんだった」
クレイはアイテムボックスから魔法糸で編んだ帽子を渡す。
「ほんと器用だな」
「暖かいです!」
「ティアもポケットから出て来なよ」
「儂のことは気にするな」
雪を踏みしめ歩く、最初は道になっていたがだんだん分からなくなり吹雪で前も見えにくくなってきた。
「クレイ、このまま進むのか」
「困ったね、こんなことになってるとは思わなかったよ」
「俺達はコートがあるから耐えられるが他の調査員はどうしてるんだろうな」
「遭難する人もいそうですね」
「クレイよ、お主なら魔法で雪を溶かせるんじゃないか?」
「それしかないか」
クレイは前方上空に炎の玉を魔法で作る少しずつ大きくなってやがて巨大な玉となった、炎の玉が雪を溶かし水となり流れて行く、道の端の方に倒れている人を発見した。
「あれは人ですよね」
「凍死してたんだな」
「この寒さじゃ無理もない」
「それじゃ行こうか」
「それにしてもこの状態を維持しながら歩けるなんて信じられんわ」
「クレイ様にしか出来ません」
ゆっくり歩くだけで前方の雪が溶けて水になる氷の城へは緩やかな上り坂になっていた、調査員らしい探索者があちこちで倒れている。
「みんな死んでるよな」
「遺体の回収は出来ないし置いて行くしかない、またすぐ雪に埋まるよ」
「かわいそうじゃが仕方あるまい」
そのまましばらく歩くと氷の城が見えてきた王国の城よりだいぶ大きい、城門の辺りにも多くの調査員が倒れていた。
「ここまで来て入れなかったのかな」
さらに先へ進む炎の玉が城門のすぐ近くまで到達している。
「炎の玉で氷の城も溶けるんじゃないか?」
「それはまずいよね、この辺りで解除しとくか」
「雪が積もる前に城へ入りましょう」
城の入り口にある巨大な扉は凍りついており押しても開かなかったのでクレイが魔法で叩き壊す。
「ロックハンマー!」
ドーーンと響き渡る轟音とともに砕け散った城の扉をまたいで中に入ると調査員らしき人達が凍りついて倒れていた。
「みんな凍りついて死んでおる」
「中からも扉を開けられ無かったのか」
「そうみたいだね、まずはあれを倒そうか」
フロアの奥にアイスオーガ二体中央にアイスゴーレム三体がクレイ達に向かって走りだし襲ってきた。
「フレイムシュート!」
「ファイアストーム!」
「クロスブレイク!」
三人の攻撃がアイスゴーレム三体に直撃するが多少スピードが落ちた程度でダメージは少ない。
「いい攻撃だ、でもあまり効いてない」
クリンが現れ解析したモンスターのデータを読み上げる。
「氷の城がモンスターを強化しているようです」
「フレイムソード!トリプルスラッシュ!」
クレイがアイスオーガ二体を切り払うとバラバラと崩れ落ちた、アイスゴーレムの攻撃はクラリスが一人で防いでいるティアとフォルトが連続攻撃でアイスゴーレム二体を倒し最後の一体をクラリスが剣技で切り倒した、クレイはにこりと笑い合流する。
「地下もあるのか」
「分かれますか?」
「僕が地下へ行こう、みんなは上に」
「OK!」
「倒せないと思ったら」
「大丈夫じゃ、退路を確保しながら戦う」
「うん、行こう!」
クレイは階段を下りて行く、階段は螺旋状にどこまでも続いていた、モンスターは襲って来ないが気温がどんどん下がっている、こちらは調査員の死体は少ない。
「これは魔法陣か、アナライズ」
一番下は広い空間になっていた魔法陣は防衛手段としてモンスターを召喚するように仕組まれている、解除するには床全体を破壊するしかないがこの広さの床を破壊すると氷の城が衝撃で崩れる危険がある。
「まだ奥に何かあるのか、よし来いイフリート!」
炎の獣が現れた、クレイと戦った時の傷は既に回復している。
「召喚モンスターは頼むよ」
「承知した」
クレイが魔法陣に踏み込むと召喚されたのはグレーターフロストデビルだった、クレイに猛烈な打撃攻撃を繰り出す、だがクレイの防御シールドにはひび割れ一つ入らない、そのまま奥へ歩いて行く、モンスターが魔法を放つ寸前でイフリートが殴り飛ばしそのまま戦闘に入った、後ろを振り返らず奥の部屋に入ったクレイは扉の前で止まる。
「電子鍵が掛かってるな」
「パスワード解析しますか?」
「いや、切り払う方が早そうだ」
ロングソードに魔力を流し刀身が青く輝きだすと格子状に切り刻む、扉を蹴るとバラバラと崩れ落ちた。
「何だこの機械は?」
「冷気発生装置のようです」
「壊すと城が壊れるのか?」
「そのようですね、現在フルパワーで稼働中のようです」
「フルパワー、弱に調整できないか?」
「やってみます」
冷気発生装置はクリンに任せて左側の小部屋へ移動する、そこにも魔法陣が書かれていた。
「アナライズ」
魔法陣を解析すると転送用だと判明した物質以外は転送出来ないようだ、先程とは違い簡単に解除できそうだ。
「何を運ぶのか分からんがとりあえず消しておこう」
炎の魔法で魔法陣を焼くと魔法陣が綺麗さっぱり消え去った、部屋の奥にもう一つ小部屋がある中に入るとたくさんの鳥籠が置いてあり中には幽体モンスターが閉じ込めてあった。
「何だこれは、しまった!」
思わず近寄った瞬間トラップが発動し鳥籠が全て開いた、中に閉じ込めてあったモンスターが次々と飛び出し一つに集まるとクレイに襲いかかってきた、狭い部屋では身動きが取れない。
「ここじゃまずいな」
魔法陣の部屋に戻ると小部屋からモンスターが現れた半透明の白い幽霊。
「レイスの進化型か」
「人間、我を復活させたのはお前か?」
「話せるのか、何者だ?」
「この城の主、ロード・エルリック」
「エルリック、俺がその部屋に入ってトラップに引っ掛かったから復活しただけだ、復活させようとした訳ではないし誰なのかすら知らない」
「トラップを仕掛けた者は我が目の前にいる者を襲うと考えたのだろうな」
「俺を襲うのか?」
「話が通じ無ければ襲っていただろうな」
「話が分かるのはモンスターテイマーのスキルのせいだろう」
「うむ、では我をテイムするがいい」
「いいのか?」
「偶然とは言え復活させたのだ、礼をせねばな」
クレイがテイムするとエルリックの額にテイムした証が表れた。
「プニム出て来い」
鞄からスライムのプニムが姿を現す。
「俺がテイムしたのはプニムに次いで二体目だ」
「ほう 、マジックスライムか成長すれば我が憑依できるやも知れんな」
「モンスター同士だが憑依は可能なのか?」
「スライムなら可能だ、陽光の下を歩ける日が来るのを楽しみにしているぞ」
そう言い残し白い騎士の人形に変化した、携帯端末を確認する種族ダークロード名前エルリックと表示されている、クレイは人形を拾いプニムと一緒に鞄に入れると部屋を出た。
「クリンどうだ?」
「もう少しです」
イフリートとフロストデビルはまだ戦っていた、激しい戦闘で部屋はあちこちひび割れている。
「もう少しか、大丈夫そうだな」
フロストデビルはかなり弱っていた、イフリートが炎の玉を連続で吐きそれが直撃すると弱ったフロストデビルに燃え盛る拳を叩き込み止めを刺した。
「任務は完了した」
「ありがとうイフリート」
「ではまた」
イフリートが消えると部屋にアイスソードが落ちていたフロストデビルのドロップのようだ。




