第五十四話
クレイ達は港町ギサンに来ていた、ここから船に乗り南にある港町ルッツへと向かう、浮遊戦艦を修理していたクリンの複製から連絡があり、浮遊戦艦を動かすには魔力炉から浮遊石にエネルギーを流し浮上させる必要がある、だが肝心の浮遊石が経年劣化で使えなくなっているそうで、新しい大きな浮遊石を入手するため中央大陸にある大草原を目指すこととなった。
「乗船手続きに行って来ます」
「じゃあ待ってるね」
待合室で待っている間、ホルンの町からずっとつけて来ている何者かの気配があった、特に何もしてこないので放置しているが、船にも乗船するつもりなのだろうか。
「クレイ様、チケットが取れました」
「今から乗れるの?」
「はい、もうすぐ出港だそうです」
「行こう」
船に乗り込み客室へ移動する、今回もいつもの通り安全な船旅となった、追跡者も乗り込んだようだが特に何か仕掛けてくることもなく港町ルッツへと到着した、とても大きな港町で輸送船や定期船以外に漁船も数多く停泊していた、海路の重要な町だけあり警備の兵士もあちらこちらで見かける。
「すぐ出発するのか?」
「そうしよう、宿もいっぱいみたいだしね」
町を出るとクルマで東へ移動する、追跡者は追って来ない、クルマで移動したからかそれともこれ以上は必要ないからなのかは不明だ、あまり気にせずクルマを走らせる、大草原は街道の南に位置しており地平線が見えるほど広かった、襲って来たビックホーンゴートの群れやウイングタイガーを倒しながら進む、上空を旋回していたグラスヘビーバードもアイスジャベリンで仕留めておいた。
「これだけ広いとどこに行けばいいかわからんな」
「目印でもあればいいのですが」
「精霊に聞いて見ようか」
水筒にウンディーネを呼び出す、水さえあれば呼び出せるので案内してもらうには丁度いい。
「ウンディーネ、どこへ行けばいい?」
「私が近づけば分かるわ、ベヒモスに乗って移動しながら探しましょうよ」
「分かった、出でよベヒモス!」
「風の精霊を探す乗せてくれ」
「承知した」
ベヒモスの背に乗り西から東へ移動する、端まで行くと南に移動し今度は西へ、そうやって広大な大草原を探し回りついに風の精霊を発見した。
「シルフィー!」
「ウンディーネ!久し振りね」
「久し振り、元気そうね」
「この辺りはいい風が吹くからね」
「実はちょっとお願いがあるんだけど」
「なーに?」
「今このクレイと契約しててね、クレイが大きい浮遊石が必要なんだって、分けてくれない」
「儂からも頼む!」
「まあ!ティアも一緒なの!楽しそうね、浮遊石がいるのね、いいわよ、はい」
地面に大きな浮遊石が現れた薄い青色の宝石みたいな綺麗な石だった。
「この石にエネルギーを込めれば浮くわよー」
「ありがとー、クレイどうぞ」
「ありがとう」
大きな浮遊石を迷うことなくアイテムボックスに入れるとシルフィーがウンウンと頷いた。
「これがアイテムボックスに入るのか、ウンディーネが契約するのも分かるわー」
「じゃあ私達帰るわね」
「ちょっと待って!ただで浮遊石をあげたんだからちょっとしたお使い頼めないかしら?」
「お使いですか」
「そう、実はイフリートに風の腕輪を貸してるんだけど、返してもらってくれないかしら?」
「どう?クレイ」
「ああ、いいよ」
「ありがとー、じゃあ持って来てくれたらあなたと契約するわ!よろしくね、ティアまたね」
「またな」
「じゃあ行こうか」
「港町の近くまで送ってやろう」
「頼むよ」
港町ルッツまでもう少しのところでベヒモスと別れウンディーネとも別れた。
「では私はいつも通り船の安全を守るわ」
「そうか船旅がいつも安全なのはウンディーネが守ってくれてたからか!」
「そうよ、水の精霊だからね、じゃあ」
町に入りそのまま乗船場へ向かうと多くの人が船を降りて来た、今入港した船があるようだ。
「ところでイフリートはどこにいるんだ?」
「西の大陸にあるフレベス火山じゃ」
「先にフレベス火山へ向かいますか?」
「そうしようと思う」
「では港町ルダート行きを手続きしてきます」
「この町から行けるの?」
「はい行けます、ではお待ち下さい」
乗船すると追跡者の気配を感じた、この町で待っていたのだろうか、船は西へ進む五日目の夕方に港町ルダートへ到着した、中規模の港町で石造りの家が並んでいる。
「宿を探しますか?」
「うん、ちょっと疲れたしね」
「久し振りに宿で泊まれるんじゃな」
「食事付きの宿にしようぜ」
「あそこがよろしいかと」
看板には大きな猫の絵が書いてある、追跡者の気配を感じながら宿屋黄猫亭に入った。
「チェックインして来ました」
「じゃあ食堂へ行くか」
「うん、そうしよう」
食堂は賑わっていた、この町の名物料理は海鮮パエリアだそうで大きなお皿にエビやイカそれに貝類がたっぷり入っていた。
「フレベス火山はここから西に行くんだね」
「地図によるとだいぶ西だな」
ティアはイカを頬張りながらエビの殻を剥いている、大きな海老でなかなか難しそうだ。
「火山は噴火しておるか?」
「噴火してますね」
「火口まで行けるといいんじゃがのう」
ティアが手こずっていたエビの殻を剥いてやると美味しそうにガツガツ食べ始める。
「火口まで行くのか!」
「火の精霊イフリートの棲みかじゃからの」
「ホワイトドラゴンのコートが使えるね」
「準備万端じゃの」
「噴火している火山の火口へ行くとはな」
「クレイ様がいれば大丈夫です」
お皿のパエリアを食べ終えると部屋に戻って明日の準備をする、追跡者の気配はまだあるが相変わらず何もしてこない、念のため部屋にシールド魔法を使い安全を確保すると眠りについた。
「おはようフォルト」
「おう、飯行くか」
「うん」
食堂でトーストと目玉焼きの朝食を食べているとティアとクラリスが遅れてやって来た。
「もう食べておるのか」
「ティアは朝苦手だな」
「早くしないと置いてくよ」
「では食べるか」
ティアはサンドイッチを頬張りオレンジジュースを飲みバナナヨーグルトまで食べ出発した。
「待ってくれ」
「食べ過ぎだろ」
「育ち盛りじゃからな」
「そうなのか?」
「フォルト騙されちゃダメだ、ただの大食いだから」
町の西門から外に出るとフレベス火山を目指し小石が多い道をクルマで走る、岩ネズミや火炎リザードを倒しながら進み、空高くにファイアイーグルが飛んでいたのでアイスジャベリンでついでに倒しておいた、三日間クルマで走るとフレベス火山の麓に到着した、ここからは坂道を登って行くが大きな石が道を塞いでいた。
「ここからは歩きだな」
「ホワイトドラゴンのコートを着といてね」
「はい」
「儂のはちょっと大きいぞ」
「サイズが小さすぎて難しいんだよ」
「まあ、これはこれでよいぞ」
硫黄の臭いが漂うフレベス火山の岩場を登る、火トカゲや岩ゴブリンを倒しながら二日進むと溶岩の川が行く手を遮る、熱の耐性が無ければ近づくのも危険な高温の場所だった。
「これは越えられないぞ」
「他に道は無いか」
ティアが空高く飛ぶと辺りを確認し戻って来た。
「無さそうじゃな」
「どうしますか?」
「この川凍らせるか」
「溶岩の川だぞ出来るのか?」
「問題無い、ブリザード!」
溶岩の川が急速に冷やされ凍りついて行く。
「よし行こう」
「信じられぬ、どうして上流から流れてこんのじゃ」
「相当上まで凍らせたんだな」
「凍った溶岩は滑るから注意してね」
溶岩の川を凍らせ歩いて渡ると先へ進む、だんだん勾配がキツくなるがクレイとティアはどんどん先へ進む、後にフォルトその後ろにクラリスが続いている、クレイは魔法で防御シールドを展開していた、もちろんフォルトとクラリスもシールド内に入っている。
「もう少しだ」
「火口が見えて来たぞ!」
「キツいな」
「あと、もう、少し、頑張り、ます」
火山ガスで視界が悪く足元も火山岩がゴロゴロしておりかなり、ペースが遅くなったが何とか火口まで到着した、クレイの防御シールドが無ければ火山性ガス中毒になっていただろう。
「火口はマグマで真っ赤だな」
「呼んで見たらどうじゃ」
「火の精霊イフリート!出て来てくれ!」
火口のマグマがボコボコと吹き上がり身体中から炎が吹き出している獣が現れた、空中に浮いておりクレイ達が見上げる。
「何者かと思えば人間か、何の用だ」
「風の精霊からの依頼です、風の腕輪を返してください」
「そうか、では受け取れ」
風の腕輪が現れクレイの方へゆっくり下りて来た、ポケットからティアが飛び出す。
「イフリート、久しいの!」
「フェアリー、その姿は見覚えがある確かティアと言う名だったな、お前が連れて来たのか?」
「そうではない、儂が前に来た時は噴火しとらんかったじゃろ?」
「そうだったか」
「噴火している火口へ近づくなぞ自殺行為じゃ」
風の腕輪がクレイの前に浮いている、手を伸ばし受けとるとアイテムボックスに入れる。
「確かに受け取りました、それでは帰ります」
「待て、風の精霊と契約するのか?」
「これを持って帰れば契約するそうです」
「ならば俺も契約してやろう」
「いいの?」
「確かめさせてくれ、俺と契約するに相応しい強さがお主にあるかを!」
「そうなるか、来い俺の力を見せてやる!」
ティアはあわててクラリスの肩まで飛んでつかまるとフォルトはクラリスに後方の大きな岩に避難するよう手招きする、クレイはロングソードに魔力を流しフロストソードにする。
「弱点を突かせてもらうよ、アイススラッシュ!」
「フレイムアタック!」
炎と冷気がぶつかり轟音が響き渡る、激しく交錯する爪と剣。
「アイスバレット八連」
「ファイアウォール!」
「アイスロック!」
一瞬凍りつくイフリートだがすぐに炎が体を包み魔法を解除する。
「マグマストライク!」
「アイスウォール!」
「フレイムトルネード!」
クレイの体が螺旋状に炎に包まれた、だがクレイの魔法が炎を打ち消す。
「ブリザード!」
クレイの体から炎が消えイフリートに強烈な冷気が浴びせられる、周囲の空気も足元の溶岩石も凍りついた、クレイはさらに魔法を追加する。
「ブリザードクロス!」
「ヌグウウ」
「トリプルブリザード!」
フレベス火山の上半分、火口から見えていた真っ赤に煮えたぎるマグマさえも凍りつく冷気にイフリートが限界を感じる
「参った!降参だ!」
魔法を解除すると凍りついたイフリートの体がボロボロと崩れた。
「見事だ!お主と契約する」
「ボロボロだけど大丈夫?」
「一週間で元に戻るだろう」
「そう、じゃあ帰るね」
「ああ、そうしてくれ」
クレイはフォルト達のいる岩影まで歩いて行き転移魔法で山裾まで移動した。
「転移魔法か、全力には程遠いか、恐ろしい人間がいるものだな」
イフリートはそうつぶやくと冷気が解除され再び真っ赤になったマグマの中に消えて行った。




