第五十一話
三毛猫亭で待っているとフォルトとクラリスが帰ってきた、二人とも三級に合格したそうで合格のお祝いを食堂ですることになった。
「クレイ様合格おめでとうございます」
「魔法戦士が一級とはさすがだな」
「ありがとう、二人も合格おめでとう」
「俺らはそんなに大したことないけどな」
「儂も合格したんじゃが?」
「ティアもおめでとう」
「まあよい、それよりかなり目立ってしまったぞ」
「そうだな、お偉いさんには目をつけられちまったんだろ?早く出た方がいいな」
「次は法王国に行くんですよね」
「その前にここのダンジョンに入ろうと思う」
「承知しました!」
「今この町にいるからか?」
「それもだけど次この町に入れる保証は無いからね」
「魔法師系の職業以外は一級に相応しくない、そう言う風潮があると言っておったが町の人はどう思っておるのかのう?」
「ダンジョンに入っちまえば関係無いだろ」
「フォルトの言う通りだ明日の朝出発しよう」
翌日、宿を出るとそのままダンジョンへ移動した、ダンジョンには多くの探索者が出入りしており、魔法師以外の職業も多く特にクレイ達が目立つようなことも無かった、入り口から入るとクリンに地図と階段までの最短ルートを調べてもらい下層へ進む、このダンジョンには魔法を使うモンスターが多く出没した、ゴブリンやオークの群れに必ず魔法使い系が混じっており下層へ進むにつれ上位の魔法を使うモンスターが増えて行った、六十階まではボスを討伐済みなのでそれまでは探索者にも時々すれ違うが会釈するとちゃんと返してくれた。
「クレイ様、プニムの食糧にしますか?」
「オーク肉かそうしよう」
「換金に帰らないならどんどん食べさせようぜ」
「アリガト、ゴザイマス」
「進化の秘石も捨てずに持って行きますね」
「うん」
三十階からネクロマジシャンやゾンビウィッチなどの食べられない物しか落とさないモンスターも増えてきた、要らない物は拾わずどんどん先へ進んだ。
「マジックスパイダーの足は食べられるのか?」
「食べるみたい」
「スペルキャタピラーの肉はどうですか?」
「食べてるね」
「意外と何でも食べるんだな」
五十階を越えるとモンスターの強さが一段上がる、キャッスルアーマーやカーズソードなどの魔法生物も現れるようになったこいつらを倒してもやはり食べ物はドロップしない。
「イビルパインだ」
「こっちはデスメロンです」
「魔法に気を付けてね」
「おう」
「ボーンスラッシュ!」
「アイスアロー!」
「ストームカッター!」
仲間達の新しい技や魔法を見ながらドロップを見つけプニムに食べさせていると進化のレベルまで到達したようで進化の秘石を与える。
「プニム、強く、なりました」
「話しも少し聞き取りやすくなったよ」
「もう少しで七十階ですね」
「だいぶ探索者も減ったな」
「これより深い階にはもういないんじゃないかな」
そんな話をしながら探索を続けていると七十階のボスと戦っている探索者と出会ってしまった。
「初めてのパターンだよ」
「見守るか?」
「負けそうですよ」
「あ、ヤバイぞ戦士の腕が千切れ飛んだ」
「早く回復してやらんと!何しておるんじゃ!」
「盾役の騎士も足をやられた」
「助太刀しよう」
「しゃーねーな」
「行きます!」
フォルトとクラリスが駆け出すとクレイは恐怖で涙を流し座り込んだ魔法師と瀕死の戦士を扉の近くまで引きずり魔法で回復させる。
「ここで見てて」
「う、う、うわーん」
「頼む!アリーシャを助けてくれ!」
「盾の人なら仲間が」
「違う!奥のスナイパー、エルフだ」
ボスはオーガウィザードでクラリスとフォルトが戦っている、ティアは盾役の騎士に回復魔法を使っていた、回復した騎士が戦いに復帰する。
「あそこか」
ボスの後ろに血まみれのエルフが横たわっている、すでに片手と片足が千切れていて動かない。
「生きてるのか?」
「頼む!」
クレイはくるりと回り込みエルフに近寄る傷がかなり深いがまだ息はある。
「死んでる?いやギリギリか」
エルフを抱き上げると転位魔法で扉近くに移動し仲間の前に寝かせる。
「あ、アリーシャ!くそー!」
「こんなの、い、いやーー!」
瀕死のエルフを見て泣き叫ぶ魔法師の前で回復魔法を使う。
「フルリカバー!」
胸と腹の傷口が塞がり小さく呼吸しているのが胸の上下で分かる。
「生きてるのか!」
「アリーシャ、よかったー、うわーん」
そうしているうちにクラリスとフォルトがコンビネーションで攻撃を繰り返しティアが魔法でサポート、盾役の騎士も攻撃を防ぎ有利に戦いを進めていた、クラリスの剣技はかなり威力があるようで一撃与える度にボスの動きが悪くなって行く、少し時間は掛かったが無事討伐に成功しクレイの方へ歩いてきた。
「助太刀、感謝する」
「危なかったですね」
「俺がリーダーのゼン、戦士のウオグ、魔法師のナジャ、スナイパーのアリーシャだ」
それぞれ頭を下げている、ナジャはアリーシャにしがみつき泣いている。
「僕はクレイ、マジックレンジャーのフォルト、聖騎士のクラリス、大魔導師のティアです」
「こんなはずじゃ無かったんだ、みんな済まない」
ウオグは右手を失いアリーシャは左手と右足を失った。
「地上まで戻れますか?戻れたら再生魔法を使ってもらってください」
「厳しいが何とかするさ、再生魔法はこの町でも最上級の魔法師しか使えん魔法だ、俺達なんかには使ってくれない」
「魔法師協会に助けを求めてもダメなんですか?」
「この町は魔法師が上流階級なんだ、町の人々や俺達のような探索者は中流以下さ、助けてくれる上級魔法師なんていない」
戦力的に見てこの状態で町まで戻るのは難しいだろう、まして戻ってもこのままじゃ希望も無い助けた意味もなくなると感じたクレイは再生魔法を使う。
「ウオグさんじっとしててください、リジェネレーション!」
ウオグの右腕が徐々に再生されて行く、それを見た仲間達から驚きの声が上がる。
「まさか、再生魔法を」
ウオグが再生された腕を動かし違和感が無いか確かめる。
「ありがたい、まだ戦士を続けられそうだ」
「アリーシャにもお願い!」
「リジェネレーション!」
エルフの失った手足が再生されるとうっすら目を開けた。
「ありがとう」
「気が付きましたね」
「こんな、本当にすまない、この礼は必ず」
ゼンが深く頭を下げる仲間達も同じように頭を下げた、ナジャはアリーシャにしがみつき涙で腫らした目を押さえている。
「実は僕、この前の魔法師一級試験に合格したんです」
クレイは一級のリングをみせるナジャは信じられない表情で見つめている。
「ナジャ本物か」
「はい、師匠のを見てます間違いありません」
「再生魔法が使えるほどの実力者なら一級もうなずけるな」
「僕は見ての通り魔法戦士ですから一級になったことで魔法師協会からかなり煙たがられてまして、町の人や探索者達に歓迎してもらえるような話をしてもらえませんか?」
「もちろんだ、探索者達は大歓迎するだろうし酒場やレストランで君達が歓迎されるよう噂を流しておく、君達はもっと下層へ行くのか?」
「最下層まで行くつもりです、そうだこの杖どうぞ、この部屋のボスを倒した証になるでしょうから」
「最下層!そうか、それ程の実力者なんだな、それよりいいのかもらっても」
「ティアはもっといい杖を使ってますからね、それじゃあここでゆっくり休憩して町に戻って下さい」
ボスがドロップした大地の杖を渡すとクレイ達は奥へ進み下層への階段を下りて行った。
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無事に地上へ戻ったゼン達はクレイ達の噂を流した、魔法師協会から一級合格者の発表もあったが普段は町の人々も探索者達もあまり興味がない、ただ今回はゼン達の噂を裏付ける証拠となり探索者達はもちろん町の人々の多くが知ることとなった。
実はこの町でゼン達はかなり名の知られた上級探索者であり一目置かれる存在であった、彼らの噂は信用度が高く多くの人々に受け入れられて行った、クレイの知らない間に町の人々のクレイに対する評価が徐々に上がって行くのだった。
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