第四十六話
王宮の家に帰るとメルサとアンリが帰りを待っていた、アンリの雰囲気が少し変わった気がする。
「クレイ様、完成しました!」
「アンリ!」
クレイを見て大喜びで駆け寄ってくるアンリとメルサ。
「クレイ、早く見てやっておくれよ」
「うん」
客間に案内し、お茶を出すと早速アンリが完成した剣をくるんでいた布をほどきテーブルに置いた、鞘から抜いて刀身に刻まれたルーンを見せる。
「十二文字か凄いじゃない」
「そう思うわね、普通は」
「うん」
アンリが剣を裏返すと反対側の刀身にもルーンが刻まれている。
「全部で二十四文字です」
「二十四文字!そんなに刻めたの!」
「今までの最高は十文字でした、唯一呪いの無いその剣を王宮に献上した功績でこの国に住まわせてもらってたんです」
「そうなんだ、ドワーフの村で売ってたのは五文字が最高だったよ」
クレイはアイテムボックスから五文字のルーンが刻まれたナイフを取り出す。
「そりゃそうよ!六文字より多い武具は王宮が買い上げるからね」
メルサがそう説明するとお茶を一口飲んでアンリが続ける。
「それ以降もより多くのルーンを刻む研究をして来ましたが私が呪われたせいで成果が出ませんでした」
アンリの輝いた目がクレイをまっすぐ見つめる。
「呪いが消えた今、これまで書き留めた研究資料を実際に試しようやく全てのルーンを刻めたんです」
「全てのルーンを刻んだ瞬間アンリの体が光り出したのには驚いたね」
「もしかして進化したの?」
「エルダードワーフになりました」
「それで前と雰囲気が違ったのか」
「この剣を受け取ってください」
「ありがとう、今後は全てこれと同じ数のルーンが刻まれるの?」
「いいえ、ルーンは武具の素材と完成度によって刻める数が決まるんです」
「素材と完成度か」
「少なくとも今までよりはいい武具が作れるわよ」
クレイがアイテムボックスからいつも使っているロングソードを取り出して見せる。
「これはどうかな?」
受け取ったアンリの表情が驚きに変わる、角度を変え見つめる鋭い目付きがやがてクレイを見つめる。
「クレイ様、申し訳ありませんがこの剣にルーンは刻めません」
「素材は竜鱗だし完成度も高いと思うんだけど」
「ルーンは素材の力を引き出すために刻むのですが、この剣はこれ以上素材の力を引き出せない完成度で作られています」
「そうなの!」
「私もこんな凄い剣が作れるように頑張らないと」
アンリの新たな目標が出来てしまったようだ、二人が帰った後で魔法師長に会いアンリの話をした、完成したフランベルジュを見せるとすぐに注文するよう部下に指示していた、アンリの工房もメルサの店もこれから忙しくなるだろう。
それから三日後、次の目的地について話し合うためリビングに集まった。
「次はどこ行くんだ?」
「法王国が気になるんだけど」
「あの国に入るには一級魔法師の資格が必要です」
「ティアは魔法師でしょ?資格持って無いの?」
「残念ながら二級じゃ、一級を受ける時間がなかったからの」
「試験はどこで受けられるの?」
「魔法国家ホルンです」
「じゃあそこ行こうか」
魔法国家ホルンには港町リンドまで戻り船で港町ギサンまで行きさらにクルマでホルンまで移動する、転移魔法で港町リンドへ移動するには遠すぎるので来た道を戻ろうかと考えていたがポワラ山をどうにか越えられないかと思い植木鉢に土を入れベヒモスを呼び出してみた。
「いでよベヒモス!」
植木鉢にちょこんと座った小さな獣が現れた。
「なんだこの獣」
「小さくて可愛いです」
「お主もしかしてベヒモスか?」
「そう言うお前は誰だ?」
「フェアリーのティアじゃよ」
「ティア!生きてたのか」
「それにしてもこれじゃあ何の威厳も無いの」
「クレイ様、少しティアと話してもよいか?」
「昔馴染みなんだな、いいよ」
クレイが席を外すと二人でなにやらこそこそ話し始めた。
「ティアちょっと」
「なんじゃ?」
「アレは本当に人間か?大地の精霊である俺が丸焼きにされるところだったんだぞ!」
「信じられんじゃろうが種族的には人間じゃ」
「上級悪魔が人間に化けてる可能性は?」
「それは無いの」
「ウンディーネが先に契約していたから契約したがそうか、人間ならまあいいか」
「少なくとも我らの敵ではない、心配するな」
話が一段落したようなのでクレイが声をかける。
「そろそろいいか?」
「あ、はい何なりと」
「この四人をポワラ山の反対側まで運んで欲しいんだが可能か?」
「背中に乗ってくれればポワラ山をまっすぐ貫通して向こう側に出られます」
「ポワラ山を貫通?まあじゃあそれで行こう」
「クレイこの獣みたいなの精霊なのか?」
「ポワラ山に住んでる大地の精霊だ」
「へー、クレイとティアは会話できるのか」
フォルトが植木鉢を覗き込み観察しているとクラリスが話しかける。
「クレイ様、質問があるのですが一級魔法師はティアが受験するのですか?」
「えーと、もしかして魔法戦士の僕は受けられないのかな」
「それは無理かと」
リビングで話し込んでいるとドアをノックし魔法師長が入ってきた。
「それなら私が推薦状を書きましょう」
「聞いてたの?それで推薦状があれば魔法戦士でも受けられるんですか?」
「はい、私は魔法師協会の理事もしていますから、クラリス殿とフォルト殿にも書きましょう」
「私達は合格できそうにありませんけど」
「聖騎士とマジックレンジャーになられたのですから三級から受験されたらどうですか?」
「え!そうなの!」
クラリスは少し恥ずかしそうに頷く。
「はい」
「俺も魔法使えた方がいいだろ?」
「ティアも上級職になったの?」
「大魔導師じゃ」
「決まりですな、推薦状の準備をしますので出発は明日にしてください」
「魔法師長は何か用事があったんじゃ?」
「アンリの工房から試作品の武具が届いたのですが、素晴らしい性能の武具です、彼女の呪いを解いたのはクレイ殿だと伺いました」
「正確にはこの植木鉢に座っている獣ですけどね」
「この獣ですか?」
「大地の精霊ベヒモスです」
「なんと!ポワラ山に住んでいるとの言い伝えは本当だったのですか」
フォルトと同じように植木鉢を覗き込んでいる。
「じゃあ明日よろしくお願いします」
「では失礼します」
魔法師長が帰った後でアンリにルーンを刻んでもらったフランベルジュをクラリスに渡す。
「クラリスこれ使って」
「いいのですか?」
「聖騎士なら剣も必要でしょ」
「ありがとうございます」
「うん」
翌日、魔法師長や副団長のエンジュそれにメイド達に見送られ王都を出発した、西へクルマで1日走りポワラ山へ移動する森の入り口で夜営すると翌日は森の中へ歩いて進む、少し登りになったところでベヒモスを呼び出した。
「いでよベヒモス!」
大地から巨大な獣が現れるとフォルトやクラリスはその巨体に驚き思わず声をあげる。
「でかいな」
「こんなに大きかったの!」
「背中に乗るといい」
「これでいいのか」
「振り落とされるないように」
大地を自在に操つる力でトンネルの中を進むように山の中に突入し疾走する、風の抵抗も受けず真っ暗な中を西へ。
「どこを走ってるのか全く分からんな」
「でも意外と乗り心地はいいですね」
三時間ほどで視界が開け森の木が見えるどうやら反対側に出たようだ、そのまま街道の近くまで移動しようやく地面に降りた。
「こんなに早く到着するなんてな」
「地上を急ぐ時は頼りになりますね」
「法王国にも南の山を貫通すれば行けるんじゃないか?」
「国境は越えられるだろうけど町に入れないでしょ」
「それはそうだな」
「町にも入りたいですよね」
「消耗品の補充も必要だからな」
「あのー、そろそろよろしいでしょうか?」
「ありがとう、また頼むよ」
「では失礼する」




