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第三十五話

遠くから何かの音が聞こえてきた。


「何の音だ?」

「もう少しで滝に出ます鉱山は滝の向こうですが獣が滝壺付近にいるのです」


音に向かって歩き続けると滝が見えてきた、滝壺の近くに真っ白でとても大きい丸い体の獣が見える。


「あれですね」

「そうだ俺はここで待つ」

「うん、フォルトとクラリスも待ってて」

「クレイ様お一人で行かれるのですか」

「大丈夫だから」

「お気をつけください」

「うん」


河原に出て獣の方へ向かいゆっくりと歩く、モンスターテイマーのスキルが効果あるのか不安だったが杞憂に終わった。


「人間か」

「クレイと言います」

「なんと!話せるとは!」

「名前を聞いてもいいですか?」

「ハリオンだが」

「ハリオンさん、ここで何をしているんですか?」

「住んでいた森の湖に突然邪悪なるドラゴンが飛来して襲われた」

「それで逃げたんですか」

「そうだ」

「仲間はいないのですか?」

「いない、もう何百年もこの辺りの山にいるが同じ種族に会ったことも無い」

「ドラゴンを退治すれば森に帰ってくれますか?」

「人間にドラゴン退治などできるものか!退治した証拠でも持ってきたならば帰ってやってもよいがな!」

「分かりました、約束ですよ」

「本当に退治できたらだぞ!」


クレイはターナーの元に戻って獣と話した内容を伝えた。


「本当に行くのですか?」

「ドラゴンを退治すれば帰ってくれると約束しましたから」

「ここからそれほど遠くはありませんが本当にドラゴンがいるのですか?仮にいたとして倒せるものなのですか?」

「問題ありません、ダンジョンボスのドラゴンは倒せましたから」

「仕方ありません、では参りましょう」


聖獣の森へ歩き出すと徐々に木が太く高くなり二日後には直径五メートル以上の巨木が並ぶ森となった、森の奥に湖がある普段は透き通る美しい湖だそうだが今は黒く染まりつつある、原因は湖の岸にいる真っ黒なドラゴンだ、辺りには食い散らかした湖に生息する巨大魚の残骸が転がっている。


「あれはイビルドラゴンか」

「ティア知っているのか?」

「魔大陸の奥に生息しておるドラゴンじゃ、だがどうしてこんな場所におるんじゃ?」

「湖の周囲にシールド魔法が張られてるね」

「クレイ様どうしますか?」

「僕一人で行ってくるよ」

「ちょっと待て!本気か?本物のドラゴンだぞ!」

「シールドを解除せず中に入るにはその方が楽なんですよ」


そう言い残しクレイはシールド魔法の近くまで進むと手を当てる。


「こじ開けるか」


シールドに当てた手に魔力を集め強引に手をシールド内に入れると穴を開け頭から体をねじ込む。


「よいしょっと!何とか通れた」

「無理矢理過ぎるぞ」

「ティア!ポケットにいたのか」

「このシールド魔法は湖の主が使った魔法に違いなかろう」

「知り合いか?」

「昔馴染みじゃ」

「なら急いだ方がいいな」


魔力を手に集中させるとイビルドラゴンに向け光属性の魔法を放つ。


「スターライトアロー!」


大きな光の矢がイビルドラゴンの腹に突き刺さる。


「グアーーー!」


突然攻撃を受け咆哮するとダークブレスを吐いて反撃してきた、クレイはフライの魔法で飛行するとブレスを避け一気に間合いを詰める。


「ホーリーソード!」


イビルドラゴンにロングソードを振り下ろすと前足の爪で迎撃してきた、ドラゴンの爪を弾くとそのまま切り下ろす。


「グワーーー」


青い血を腕から流しながら空に舞い上がり上空から炎の球を吐く、クレイはまともに当たるがそれでも飛行スキルで前進し首を切りつける。


「パワースラッシュ!」


手応えがあり与えたダメージは大きい、地上に落下して行くイビルドラゴンに追い討ちをかけた、ロングソードに込めた魔力で刀身が青く光る。


「サンライトスラッシュ!」


青い光がイビルドラゴンの首を通り抜け切り落とした、キラキラと消えて行くイビルドラゴンの体、その場所に黒い牙が二本落ちていた。


「これ証拠になるかな」

「湖の主よ、無事か?」


クレイから離れたティアが湖に向かって大きな声で叫んでいる、黒く染まりかけていた水が少しずつ浄化され綺麗になると湖から空に向かって一筋の光が放たれた。


「その声はティア?ティアなの?」


光が消えると目の前に現れたのは水の精霊ウンディーネだった。


「久しいの」

「本当に」

「イビルドラゴンはクレイが始末したぞ」

「まあ、ありがとう、シールド魔法で閉じ込めて弱らせてから湖に引きずり込んでやろうと思ってたのだけれど早く片付いて助かったわ」

「ウンディーネ、ハリオンと言う獣は知っているか?」

「え!、あなた私の言葉が分かるの?人間の精霊魔法師なんていつぶりかしらね」

「クレイは特別なのじゃよ」

「ハリオンは私のペットよ、ドラゴンに驚いて逃げちゃったの、元はおおネズミだったんだけどね私がエサをあげてるうちにあんなになっちゃったの、帰ってくるように伝えてくれるかしら?」

「いいですよ」

「ではこれを持っていって」


ウンディーネから輝く種を渡された。


「あの子の大好物なの、それとあなたとの契約も済ませたわ、水関係で困ったらいつでも召喚してね」

「契約?ウンディーネを呼び出せるようになったのか?」

「そうよ、助けてくれたお礼ね」

「そんなあっさり契約してもいいのか?」

「イビルドラゴンを倒せる実力があるなら何の問題もないわ」

「ウンディーネと契約できる人間なぞ滅多におらんのじゃぞ、凄いことじゃ」

「それもそうだな、ありがとうウンディーネ」

「それじゃハリオンに早く帰るように伝えて、ティアまたね」

「またな」


ウンディーネが湖の中に消えると同時にシールド魔法も解除された、ターナー達が待つ湖の対岸へと移動する。

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