第十九話
軟禁部屋に入れられた王太子はソファーに座ってうつむいているライエンも椅子に腰かけ室内を眺めていた。
「ライエン、何があった」
「完敗でした」
「お前ほどの者が実力で負けたのか?」
「はい」
「他はどうなったんだ」
「浮遊戦艦ですが氷漬けのままなら冷気耐性の無い兵士は全滅かと思われます」
「全滅か、空母は?」
「空母と地上部隊は無事でしょう、クレイと言うあの魔法戦士、我々を捕縛に来たのは奴一人のようでした」
「軍隊を相手に一人でか?その根拠は?」
「我々をこの国の門まで転移魔法で移動しました、仲間を置いて来たようには思えません」
「魔法戦士が転移魔法だと!戦艦二隻を捕縛し氷漬けにしたのはマジックアイテムでは無かったのか?」
「分かりません、ですが転移魔法を使える魔法戦士です不可能とは言い切れません、地上の壁も奴がやった可能性があります」
「信じられん」
「私も手に持っていた大剣をバラバラに切断された時は目を疑いました」
「ならば創造主に会ったと言うのも真実か、しかしそれ程の者がなぜ今になって現れたんだ?」
「分かりません」
「情報が少なすぎるな」
二人が少ない情報を整理している頃、帝国軍は撤退を始めていた、地上部隊の指揮官と空母の艦長が進軍不可能と判断したようだ。
氷漬けの戦艦二隻から脱出した者はおらず冷気が強すぎて火炎放射砲でも溶かせていない。
乗組員は全滅と判断されその場に放置されている。
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町を守る門の前でクレイ達はクルマに乗り込む、大きなジープで魔法石または運転手の魔力をエネルギーに変換する装置が搭載されている。
「じゃあ出発するぞ」
「行こう」
フォルトの運転で町を出ると西に向かい発車する町の外はモンスターも出没するのでクラリスとクリンが索敵を担当している。
遠くに壁が見えて来た。
「あの壁はなんだ?」
4日目の昼に到着した場所はクルマが通れないクレイが作り出した巨大な壁だった。
「僕が作った壁だ、意外と丈夫だねまだ壊れて無いや」
「これどうすんだ?越えられないぞ」
「今解除するよ」
クルマから降りると壁に手をかざし魔法を解除するキラキラと光が壁を包み消え去った。
「帝国軍はいないね」
「氷の山が二つあるけどな」
「これも解除するか」
クルマで氷の山に近寄りクレイが魔法を解除する、キラキラと氷の山を包み込むと一瞬で消え去った。
「ボロボロだな」
「鉄屑ですね」
「このままにしておくとアンデッドが湧くよね」
「アンデッド!」
「中は帝国兵の死体だらけか」
「たぶん生き残りはいないと思うよ」
「クレイ様は神聖魔法も使えますの?」
「使えるよ、浄化する?」
「それがよろしいかと思います」
クレイは両手を戦艦に向け魔力を集中する、ボロボロの戦艦を聖なる光が包み込む。
「ピュリファイ!」
眩しい光りのあと空に向かって光の柱が現れた幾つもの小さな光の玉が柱を登って行く、もう一隻も同じように浄化を済ませ帝国へとクルマを走らせる、戦場には二隻の大破した戦艦が残った。
「ふぅー、やっと出られたぜ、浄化までしやがって」
戦艦から一人の男が現れた、帝国兵の鎧を脱ぎ捨て大破した戦艦を振り返る。
「生き残ったのは俺だけか」
戦艦を降りると遠くに走り去るクルマの砂ぼこりを見つけ眺めている。
「人間とは思えない魔力だった、報告に帰るのが正解だな」
背中から赤い翼を生やし空を飛ぶと南へ去っていった。
「クレイ様どうしました?」
「あの戦艦に何かいたようだ」
「生き残りの帝国兵ですか?」
「う~ん、人じゃ無いような」
「アンデッド?」
「う~ん、分からない」
「引き返そうか?」
「いやいい、先を急ごう」
クルマを走らせ帝国の近くまで来ると町を囲む壁が見えた、高い壁の上にはミサイルやレーザー砲が備え付けてある、エアーバイクなどで侵入するのは難しそうだ。
「クレイどうする?」
「クルマはここまでだね、隠密薬で姿を消して門から入ろう」
マジックボックスから取り出し二人に渡すと一気に飲み干す。
「わりと不味くないな」
「そうですね」
「お互いも見えないから手を繋いで行くよ」
クレイが先頭でクラリスとフォルトが続き門を通過する、町の中までそのまま移動し隠密効果を魔法で解除した。
「うまく行きましたね」
「うん、クラリスもう手を放していいよ」
「もう少し」
「僕は宮殿の地下へ向かうあそこの宿で明日合流しよう」
「白猫亭だな俺が三人分チェックインしておくぜ」
「クレイ様お気をつけて」
「クラリスもね」
クレイは一人宮殿へ向かう帝国の町は綺麗に整備されているがあまり人通りは多くはない、宮殿の近くで路地に入り隠密魔法で姿を隠すと宮殿の正門へ向かう門番にも気付かれずそっと中に入って行った。
「クリン地図はあるか?」
「少々お待ち下さい」
帝国のシステムに入り必要な情報をダウンロードする。
「完了しました」
「案内を頼む」
「右奥の専用エレベーターです、入室許可はすでに処理しました」
「あそこだな」
宮殿一階フロアの右奥エレベータードアの前まで行くと自動でドアが開いた、中に入り地下へ移動するとドアが開く、出口近くの監視カメラにはクリンが細工しているのでクレイの姿は映らない、通路を進み幾つか自動ドアを開ける。
「研究施設みたいだな」
「この先です」
厳重なロックがかけてあるはずのドアをクリンが解除し中に入ると強化ガラスケースに入れられたマスクを発見した、魔力がマスクから溢れ出ている。
「呪いのアイテムか」
「マスクから魔力が溢れています」
「これは封印だな、それにしても何を封印すればこんな」
『出せ!』
「声!」
『出すのじゃ!』
「ご主人様どうされました?」
「クリンには声が聞こえてないのか、これと共に転移するシステムにはここにあるよう細工してくれ」
「承知しました、完了しました」
クレイはガラスケース内のマスクと一緒に帝都の外に隠したクルマのある場所へと転移した。




