第十二話
朝食を食べながら食堂のモニターで昨夜の情報を確認していると逃亡者のニュースが流れていた。
「無事逃げられたみたいですね」
「怪我を治して奴隷契約も解除したんなら捕まえるのは難しいだろうな」
「病気も治しといたからね」
「病気も魔法で治せるのか?」
「高レベルの回復魔法なら治せますよ」
少し驚いた表情を見せるがクレイの回復魔法を直接見ているのでそうなんだろう納得したようで話を続ける。
「持病があるとは噂で聞いてたがかなり悪かったのか?」
「そうですね、あの感じだと動くのも辛かったんじゃないですかね」
「もう反乱軍と合流したかもな、それで俺達はこれからどうする?」
「この国の統治者はどこにいるんですか?」
「元共和国の政府庁舎じゃないかな」
「なら正面から行きます」
「いきなりか、大胆だな」
「フォルトさんは反乱軍を探してください」
「分かった、無理するなよ」
「カムフラージュの魔法で顔を隠して危なくなったら転移魔法で逃げます」
「転移魔法なんて使えるのか!魔法戦士が使えるレベルの魔法じゃないぜ」
「何度か使いましたから問題ありませんよ、任せて下さい!」
「俺も覚悟を決めるか、行こう」
町に出ると帝国の兵士が捜索を続けているのか昨日より多く見られた、フォルトと別れ政府庁舎へ向かう町の中央にある巨大なビルは以前と変わらずそこにあった、門番が二人レーザー銃を持ち警備している。
「お前、なんだ?」
「ちょっと用事で」
携帯端末でクレイのステータスを調べレベルの低さに安心したのか高圧的な対応をして来た。
「帰れ!帰れ!」
「帰らなければ牢屋行きだぞ!」
「スリープウインド!」
門番を眠らせると武具を破壊し拘束する、入り口のドアを門番の持っていたカードキーで開け建物の中に入る。
「ご主人様、左のエレベーターです」
「結構人がいるな」
クレイは広範囲に魔法を使う。
「スリープウインド」
風がフロアを吹き抜ける多くの人がその場で倒れ眠り込んだ。
「警備の兵士はどこだ?」
「右の奥に詰所があるようです」
警備兵士の詰所前へ移動し扉が開かないよう魔法を使う。
「ロックウォール!」
石の壁を扉の前に作り出し塞ぐとエレベーター前に移動する。
「左だな」
「はい」
エレベーターに乗ると最上階のボタンを押す、途中で停止する階では扉が開くと同時に魔法でフロア全体に効果があるようスリープウインドの魔法を使った、そうして最上階に到着する共和国時代に最高議会が開かれていた会議場へこっそり入ると中では帝国の占領軍幹部達が集まっていた。
「まだ見つからんのか!」
「すでに反乱軍に合流したのではないか?」
「だから殺しておけばよかったんだ」
「あんな状態でどうやって逃げたんだ?まともに歩けなかっただろう?」
「回復したらしいと兵士からの報告があった」
「どうやって回復したんだ?」
「反乱軍にそんな魔法師はいないぞ」
「契約魔法まで破棄されているなんて」
幹部達の話を聞いているとクラリスは帝国軍にとって相当重要な人物なのだと分かった、その時奥の部屋から男が入って来た、側近を二人連れている。
「反乱軍の拠点を叩く、インペリアルガードのガルガンを向かわせろ!」
「ただちに!」
どうやらこれから反乱軍の殲滅戦を始めるらしい、クレイの入ってきた扉に向かい動く兵士と目があった。
「お前は誰だ?所属と用件を話せ」
「スリープウインド!」
会議場にいた人が次々と倒れ眠りに落ちた効果がなかったのは五人、後から入ってきた三人と鎧を身につけていた二人だ。
「反乱軍の刺客か!」
「鎧の効果か、状態異常の耐性があるみたいだな」
「死ね!」
大剣を振りかぶり上段から振り下ろすが上手く盾で防ぎロングソードで横に切り払う、もっと手応えがあると思っていたが鎧ごとまっぷたつに切り裂いた。
「撃て!」
側近二人がレーザー銃を撃って来る、だがこれも盾で防ぎ魔法で反撃する。
「ウインドカッター!」
魔法の威力を抑えていたが盾と鎧を切り裂き側近一人を倒した。
「レーザー銃を防いだだと!」
「アイスジェイル!」
クレイは魔法で会議場を封鎖するとゆっくりと近寄る。
「伯爵お退がりください」
兵士がレーザーブレードを上段に構えクレイの前に出る、ボディガードだけあり剣の実力は高そうだ。
「鎧ごと切り裂いてやる」
一気に間合いを詰めると切り下ろす普通の防具ならまっぷたつに切断していただろうレーザーブレードだがクレイは盾で防ぐ。
「焼き切ってやる!」
兵士がカチカチと出力を上げるとレーザーブレードの威力が上がる盾から火花が散り兵士はニヤリと笑った、このまま盾を焼き切れると思ったのかも知れない、だがクレイはロングソードで袈裟斬りに切り払うと驚きの表情のまま崩れ落ちた、レーザーブレードを防いでいる盾を片手で支えているとは思っていなかったのだろう。
「逃げられないなら戦うしかないようだな」
伯爵と呼ばれていた人物が戦闘を始める側近に持たせていたレーザー砲をクレイに向け発射した、高威力のレーザー砲は普通の防具ならその熱で溶け落ち大ダメージを与えられる、だがクレイはこれも盾で受け止めた。
「これも効かぬか」
レーザー砲を捨て大剣を握ると身体強化の魔法を使う、体が魔力で強化され赤いオーラを発している。
「ブルクラッシュ!」
「アッパースウィング!」
「クロススマッシュ!」
どれも強力な技でしかも流れるような連続攻撃は伯爵の実力の高さを証明している、だが盾で余裕を持って防いだクレイは魔法で反撃する。
「フレイムバースト!」
強力な炎弾が直撃し鎧が熱せられた。
「ウォーターガン」
水の弾を撃ち込むと当たった鎧がひび割れる続けてもう一度交互に撃つと遂に鎧が割れ落ちた首に紋様は無い。
「終わりだ、降伏するか?」
「断る!」
「ならば死ね」
ウインドカッターが飛ぶ側近が前に出て盾で受けるが薄緑の刃は盾を切り裂き側近を両断すると後ろにいた伯爵にも致命傷を与えた、クレイは近寄り瀕死の伯爵に話しかける。
「帝国軍を撤退させるなら生かしてやろうどうだ?」
「生かすだと!この傷を治せるのか、そうか奴を回復したのはお前だな!だが断る、まだガルガンがいる」
「そうか、あまり多くの人を殺したくないんだがな」
「戦争に一人で勝てると思うなよ」
「勝てるさ、帝国の上層部を殲滅させれば勝ちだろ?次は皇帝だ」
大きく目を開きクレイを見つめると口から血を吐きそのまま動かなくなった。
「インペリアルガードと思われる将軍が南に移動中です」
「反乱軍の拠点は南か」
クレイは転移魔法で入り口まで移動し南へ向かう。