第十一話
表通りに向かう途中で風俗の客引きに捕まった強引に女の子の写真を見せて来る。
「どうです?かわいい子いますでしょ?特殊な性癖にもお答えできますよ!」
「クレイ行くぞ」
「フォルトさん先行っといてください」
「クレイお前、まあいいかじゃあ表の喫茶店で待ってるからな」
クレイが頷くと客引きはクレイの腕を引っ張り店に連れ込んだ。
「どの子にします、オススメは獣人族のアニスか貴族の娘リジーですが」
「クラリス・トト・ラングリットこの女性にします」
「これですか!正直あまりオススメではないのですが、顔も火傷で左半分がひどい状態ですし右手がありませんよ」
「提示料金の倍をお支払いします」
ニヤニヤした顔で揉み手をしながら頷く。
「そうですか!ありがとうございます、特殊な性癖も対応可能ですのでゆっくりとお楽しみください、25番用意しろ!」
料金を支払い部屋に入る、薄暗い部屋で足枷を付けられた女が部屋の中央で座っていた。
「お前が客か、こんな私を指名するとはな」
クレイは女に近ずき目の前にしゃがむと焼けただれた顔に手を当てる、女は怖がる様子もないアナライズの魔法で状態を調べる、クラリス・トト・ラングリットこの女で間違いない。
「醜いだろ、こんな醜い女を抱けるのか?」
「かなり高レベルの探索者、いえ騎士ですね」
クラリスは一瞬知り合いかと思い大きく目を見開くが視力の落ちた目でははっきりと見えない、だが聞き覚えのない声にすぐ思い直す。
「鑑定スキルかアナライズの魔法だな」
「今から火傷を治しますが大声を出したり暴れたりしないでください」
「火傷を治すだと!醜く過ぎて抱く気が失せたか、だが治せはしないさ、出来るもんならやってみろ」
クレイはクラリスの火傷を治す魔法は再生魔法しかないと判断し両手に魔力を集中する、再生魔法なら右手の欠損や損傷している両膝の骨も再生出来るだろう。
クラリスはこれだけの火傷を治すには最高レベルの回復魔法が必要だ、そんな魔法を使える魔法師がこんな場所に来るはずがない、特に私のような者の前に現れるなどありえない、そう確信していたが目の前の男が魔法を使う。
「リジェネレーション!」
クレイの魔法で顔の焼けただれた細胞が再生し綺麗になった、失われた右手も再生するといびつに曲がった膝の骨も元通りに。
「え、嘘でしょ!右手も、あなたいったい・・」
「静かに」
人差し指を唇に当てると今度は首に印された魔法の紋様に手をかざす。
「アンチカーズ!」
契約魔法が破棄され紋様が消え去った、次は胸の辺りに手をかざす、アナライズの魔法で病気も発見していたのでこちらも回復させる予定だ。
「左手に痺れがありますね?」
「持病の魔力石化症だ、魔法を使う度に徐々に進行する、この病のせいでもう騎士としては・・」
「フルリカバー!」
薄い緑の優しい風がクラリスの体を包み込むと体から淡い光が溢れた、体内で進行する病気により傷ついた内臓、筋肉、神経を回復させる、痺れていた左手が感覚を取り戻した。
「病気も回復しました、再発の恐れもありません体力までは回復しませんがあなたにはこれで十分でしょう、ここから逃げるのは夕方以降に、ではさらば!」
女が何か言う前に転移魔法で裏通りの入り口へ移動しフォルトの待つ喫茶店へと入った。
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「いったい何者だったんだ?」
鏡を見ながら火傷が治った美しい顔に失ったはずの右手を当てる、枯れ果てたと思っていた涙が頬を濡らした。
「奴隷契約の魔法まで消えている」
首の辺りを痺れが取れた左手で触れ確認する。
「左手の痺れもない、医療カプセルでも進行を抑える事しか出来なかったのに」
足枷を外し外出可能な服装に着替えると回復した足で走れるか確認する、筋肉は衰えているが走れそうだ武器も防具もないが怪我も病気も回復し奴隷契約さえも破棄された今なら何の問題もなく脱出可能だろう。
「夕方以降か、もう一度会えないだろうか」
そうつぶやきながら時間が過ぎるのを待つのであった。
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「フォルト早かったな」
「高レベルの女騎士がいたから魔法で治して来ました」
「女騎士?なんだそうか、それでその女騎士の名前は?」
「クラリス・トト・ラングリット」
「そりゃこの国で最後まで戦った騎士団長の名だな」
「なら反乱軍との繋がりもありますか?」
「おおありだ、反乱軍に合流すれば勢いを取り戻すだろうな、今日は戻ろう、ごたつきそうだ」
「そうですね」
会社の寮に戻りフォルトの矢筒を改良する、宝珠にはクレイが魔力を注ぎ込み矢が作成されるのを確認する準備完了だ、夜になり眠りにつく頃外でサイレンが鳴り始めた、いつまでも鳴り響くサイレンの音を魔法で遮り眠りについた。