序章
「魔王軍が正々堂々と我国を闊歩するとは・・な。舐められたものだ」
・・・私はファミール王国の男爵、スタローン・アップルフィールドだ。
我が領土に、魔王軍が大挙してやってきた。
王都からの援軍は来ない。
私、1人で解決しろとのお達しだ。
お前の領土だから自分で何とかしろ。
はあ、これが魔族でなくザイツ帝国やノース王国、蛮族だったら援軍は来たのか?と考えても仕方ない。
もう、王国は終わったな。
「旦那様、如何されますか?」
「我が方は、農民兵100に、騎士10・・・魔王軍は1000人を超えている。ただの1000人ではない。あれはドラゴンか?いや、空を飛ぶ魔道具だろう。空に滞空している・・・それに、鉄の地竜に、全員に、雷の魔法杖が装備されている・・・取るべき手段は一つだ。相手の要望を飲むしかないだろう。やって来たな」
「おう、アップルフィールドの旦那、腹は決めたか?」
「「「グシシシシシィ、良い返事を聞かせてもらおう」」」
「ああ、お前達の要求は飲む。あの荒れ地をやろう」
・・・例え、荒れ地であっても領土を手放すことは国家として重大な意味を持つ。
屈辱だ。
しかし、私にはこの戦いは玉砕する場だとは思えない。
妻が命と引き換えに娘を産んだ。ローズマリーと命名した。どのような屈辱にまみれても、育てなければならない!
「おお、決断してくれたか?おお~~い、金貨を持って来い」
「・・いらん」
・・・あの荒れ地に山のような金貨・・大型馬無し車三台分だと?意味が分からない。
この国の全ての土地を買える金貨だ。
「いや、そうゆうワケにはいかなくてな。我等も現地人から、無理矢理土地を奪うのは禁止されているのだ」
・・・どの口が言う。大軍で来ておいて・・・
「じゃあ、金貨の代わりに、一揆を起こす生意気な領民を懲らしめる道具はどうだ?致死率5%の〇〇〇剤だ。教育パック付きだ。だから、全滅・・」
「いらん!一揆は起きないわ!」
「じゃあ、領地争いに役立つ兵器は?」
「いらんわ!!」
・・・おかしい。どうしても、対価を受取らせようとする。
交渉は続き。遂に、観念し、スタローンは承諾する。
「じゃあ、株ならどうだ?」
「・・・分かった。どうしてもと言うのなら、それを受け取ろう」
・・・これなら、いいだろう。荒れ地で取れるカブの数%の収益。受取人は・・・娘でいいか。
「スタローンの旦那は交渉上手だ。おい、契約書持って来い」
・・・
「受け取り人は娘さんか?スタローンの旦那!娘がいるのか?相続税を節約できるな」
「ああ、カブなら、物騒ではないからな」
「スタローンの旦那、契約をしよう。配当は、娘さんが貴族学園に入る15歳になる年って?まあ、その年頃は何かと金がかかるからな」
かくして、契約書は2通作成され、それぞれ、持つことになる。
「魔族語の原本に翻訳付きか・・・」
・・・人に知られてはならない。翻訳の方は捨てよう。
こうして、一部誤解が生じながらも、アップルフィールド領の隣に平和的な?話合により魔族領が誕生することになった。
しかし、この大陸に初めて現われた魔族に対して、毅然とした対応をしたスタローンは評判になり、各国のカゲたちが、交渉の内容を探ろうと躍起になった。
ビリビリに破れた翻訳語の契約書を執念で見つけたカゲの報告に各国の王は驚愕する。
「これは・・・魔族から永続的に金貨がもらえる内容では?」
「商人のスポンサーの地位に近い」
「しかも、相続出来るから、永続的だ」
「やつら、他の大陸を席巻するほどの技術力と資金がある」
「ローズマリー嬢・・・か、男爵の娘を他国の王族の妻にするには、いささか、かなり不自然だ」
「留学した王族と恋に堕ちて、結婚、この線でいくしかないだろう。我が王室には同じ学年の子はいないな。よし、養子をとろうぞ」
協議の結果。
ローズマリーが貴族学園に入学するまでは抜け駆け禁止の協定を結ばれたが、
思わぬ伏兵が現われた。
男爵の国の王である。
魔族が来ても全く関心を示さなかったが、
男爵に褒美をやるのが、おしくなり。
一つ年上の第2王子ジャームズとローズマリーを婚約させる王命を出した。
男爵から伯爵に陞爵されたが、領地の加増は無し。
紙切れ一枚の報賞である。
「どこまでも、馬鹿にして!」
「ギャアアアアア」
「あ~申し訳ない。君に怒っているのではない。あ~ヨシヨシ」
しばらくは、貧しいが、平和な生活を堪能することになる。