90.みんなで国作り(看板に偽りあり)
わたしたちがいるのは、奈落の森と呼ばれる大きな森のなか。
その端っこにある、旧楽園っていう、何もない草原地帯。
かつてここには、先代聖魔王エレソン様が築き上げた、魔物と人とが暮らす小さなコミュニティがあった。
でもそれは滅びてしまい、今では廃墟と、そして草原だけが広がっている……。
『あ! 姉ちゃんおはよー!』
「くま吉君! おはよう」
わたしが寝泊まりしている廃教会を出ると、友達の赤い熊、くま吉君がやってきた。
グリフォン子供のぐーちゃん、スライムのすらちゃん、そして鬼のひいろちゃんと……。
年少組がやってきて、抱きついてくる。
「お姉ちゃーん!」『ぴゅい~しゅき~♡』『すきー』
みんなにもみくちゃにされるわたし。
みんなもふもふで大好きだわ。
ただ……。
「おい貴様ら、ワタシのキリエに近づくな……」
ちっちゃい蛇の姿になった、メドゥーサちゃんがそういう。
はて、とくま吉くんが首をかしげた。
『なあ姉ちゃん、なぁにこの蛇』
「メドゥーサちゃんよ。仲良くしてあげて」
『へー、なんかちっこくなったなぁ。よろしくー!』
手を上げるくま吉君に続いて、みんなが手を上げる。
メドゥーサちゃんはぷいっと無視した。よくないなぁ。仲良くしてほしいのに。
まあすぐには難しいか。
こないだまで敵同士だったものね。少しずつ心を開いて行けたらなっておもう。
みんな仲良く、が一番だと思うし。
『姉ちゃん、なんかガンコジーさんとかーちゃんが呼んでたぜ?』
「くま子さんたちが? なにかしら……」
わたしたちはぞろぞろと、くま吉君のお母さんたちのもとへむかう……。
廃教会のそばには掘っ立て小屋が建っていた……!
「い、いつの間に小屋が……」
「あ! キリエ! おはよう」
「くま子さん! おはよう」
赤髪の美人が、こっちにやってくる。
彼女はくま子さん、元々、赤熊っていう魔物だったけど、存在進化し、人になれるようになったのよね。
「キリエの嬢ちゃん、おはよう」
「はい、おはようガンコジーさん」
背が低くて、ずんぐりむっくりなこのドワーフさんが、ガンコジーさん。
こないだ氷の国カイ・パゴスで知り合って、その後うちに移り住むことになったのだ。
「この立派な小屋いつの間に建てたの?」
「昨日徹夜で作ったのじゃ。わしらの住処じゃな」
「すみか……なるほど」
つい数日前に、わたしたちはこの奈落の森の旧楽園へと帰ってきた。
ドワーフさん達はテントを張っていたけど……。
「そうよね、いつまでもテントで暮らしてるわけにもいかないものね……すみません……考えるべきでした」
「いや、キリエ。あんたの仕事じゃないさ。そういうのは、現場指揮官がやるべき仕事」
「そのとおりです!」
チャトゥラさんがうなずく。
「キリエ様は悪くない! 悪いのは現場指揮官です! 誰だそいつは!」
「あんただよ、あんた……!」
ぴしゃり、とくま子さんが叱りつける。
くま子さん、とても気が強くて、言いたいことをはっきり言うの。
とても頼りになるわ。
「森の魔物たちをまとめるのが、あんたの仕事でしょうが! チャトゥラ!」
「きゃううん……」
先代の聖魔王、エレソン様から森の統治を任されていた、チャトゥラさん。
でも最近その役割は、くま子さんに移行しつつある……。
「くま子に頼み、魔物たちに協力してもらって、森の木々を採ってきたのじゃ」
「んで、ドワーフ連中がこの仮の拠点を作ったって次第さね」
「まあそうだったの……ご苦労様です」
ぺこ、とわたしは頭を下げる。
それにしても、立派な小屋だわ。
さすがドワーフ。
「そうよね、ここに新しく人が住むことになったのだから、環境を整えないと」
「ああそうさ。街作りに際して、具体的な方針をキリエに聞こうと思ってね」
方針……。
「そんなの決まってるわ。人も、魔物も、みんなが楽しく、幸せに暮らせる。そんな素敵な街を作ってほしいな」
通常、魔物は人と言葉でコミュニケーションとれない。
でも、ノアール神様にお祈りした結果、わたしの周りでは、言葉の壁が取り払われた。
わたしたちは話し合える。
なら、みんな仲間だ。
誰一人差別することなく、みんなが幸せになれる。
そんな街にしたい。
「うぉおおお! ご立派な考えです! さすがキリエ様! 私は感動いたしました……!」
「キリエ……♡ すき……♡ かっこいい……♡ しゅき……♡」
子犬状態のチャトゥラさんと、蛇状態のメドゥーサちゃんがくっついてくる。
「了解さ。つまり、建物を作るなら、魔物も使えるような感じってことさね」
「そういうこと」
魔物って体が大きな子らが結構いる。
人のサイズ準拠だと、入れないことが多いのよね。廃教会しかり。
「よし! 方針は決まったのじゃ! 野郎ども! わしらドワーフの仕事の時間じゃ! まずは、我らがリーダーの住処を、綺麗にするぞい!」
「おらも手伝うー!」
ドワーフ、そしてトロルさんたちが、協力して作業に当たってくれるようだ。
ありがとう、みんな。
「そうだわ。みんなが作業中、怪我しないように、お祈りしないとね」
わたしは目を閉じて、ノアール神さまに祈りを捧げる。
神様どうか、ドワーフさん達が怪我しないように、お力を貸してください……。
「「えええええええええええええええ!?」」
『『『神きたーーーーーーーーーーーーーーーーー!』』』
え、なに……?
うっすらと目を開けると……。
「な、なにこれ……!? 壊れた教会が……一瞬で直ってる!?」
なんと、さっきまでわたしが使っていた、壊れてたはずの廃教会が……。
『すげえ! なんか一〇倍くらいでっかくなってるし、立派になってるぜー!』
くま吉君が驚きの声を上げる……。
え、ええ……。
「が、ガンコジーさん……仕事速すぎじゃない……?」
「い、いやわしらまだ何もしとらん……というか、したのは嬢ちゃん、あんたじゃろうが……」
呆れた調子のガンコジーさん。
え、えええ……?
「わたしもなにもしてないのだけど……」
するとくま子さんが呆れた調子で言う。
「あんたが祈った瞬間、そこのボロ教会が光って、あの立派な建物が一瞬で完成したのさ」
「まあ……! それは……」
「そうさね。あんたの……」
「ノアール神様の、おかげね……!」
「なんでそうなるんだい!?」
いや、ね。
だって……ほら。
「祈ったら、立派な小屋ができたのですもの。ああ、やっぱりノアール神様はすごいわ。なるほど、たしかに小屋を神の力で直せば、ドワーフさん達が怪我しなくて済む……! なんて深いお考え……! ねえみんな、そう思うでしょ?」
『いや、姉ちゃんがすごい』『ぴゅい! おねえちゃんしゅごい!』『ぴかーってなった』
「さすがキリエ神さま!」「キリエ様の奇跡パワーで直してしまうなんて!」
えええええええええええええええ!?
「あ、いやだから……わたしじゃなくて……」
『『『さすがです、キリエ神さま!』』』
「だからちがうってばああああああああああ!」
もうっ、どうしてこうなっちゃうの!
「しかしこれ……キリエがいれば、街作り楽勝なんじゃないかね?」
「うむ……わしらイラン子のような気がしてきたのじゃ……」
【★新作の短編、投稿しました!】
タイトルは――
『田舎ぐらしの幻獣配信者~ブラック企業をクビになった俺、実家の山でドラゴンを拾ったのでペット配信したら大バズりし、超人気YouTuberとなる。今更会社に戻って広告塔やれと言われてもお断りです』
ページ下部↓にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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