09.聖女、魔物の治療しまくる
グリフォンのシンドゥーラさんから、赤ちゃんを取り上げて翌日。
『ぴゅいぴゅーい、ねーちゃ、すき~♡』
旧楽園にある教会、わたしの部屋にて。
膝の上には、ふわふわもふもふの、小さなグリフォンが載ってる。
ふふ、ありがとう、ぐーちゃん。
この子はシンドゥーラさんの娘。
取り上げたわたしに名前をつけて欲しいとのことで、グリフォンの【ぐーちゃん】と名付けたのだ。
『あ、ずるーい! おいらもお姉ちゃん好きなのに~!』
窓の外にはくま吉君がいて、不満そうにぶーぶーと文句をたれてる。
スライムのスラちゃんも『すらもー!』と、くま吉君の頭の上で不満そうにしていた。
みんな大好きですよ~。
『『『いやっふー! キリエ姉ちゃんだいすきー!』』』
とまあ、寝起きからそんなふうに、魔物の子供さんたちとたわむれたあと……
『キリエ様、いらっしゃいますか?』
教会の外から、シンドゥーラさんの声がした。
『まみーだ!』
どうしたのでしょう?
そう思って、わたしはぐーちゃんを抱きかかえた状態で教会の外へ出る……。
「ぎゃぎゃ!」「げげげ!」「ぎー! ぎー!」
……なんと、たくさんの魔物さんたちが、教会の前に居るではないか。
どうしたの、これ?
『わたくしと眷属たちが、森の民らに言って聞かせたのです。聖女さまが、素晴らしい人だと!』
まあ……宣伝してくれたのね。
ありがとう、シンドゥーラさん。
『ふふふ、これくらい、聖十二支なら、当然ですわ!』
聖十二支?
『聖魔王エレソン様が、御自ら名前をつけた名持ちたちのことですわ』
友達ってことかしら?
『守護者ってことですわね。12の強力な守護魔物。わたくしシンドゥーラもそうですが、チャトゥラもです』
まあ、チャトゥラさんもそうだったのね。
隣を見ると、白髪の美青年が微笑みながらうなずく。
「我ら聖十二支、二代目聖魔王さまをお支えしていく所存であります」
エレソン様の代わりが務まるかは不明だけど……。
やると、わたしは決めたんだ。
では、遠慮無く、力を貸してくださいね。
「『はい……!』」
さて……と。
まずはシンドゥーラさんが連れてきた、魔物さんたちを見る。
『みな、怪我してるのです。森の恵みがたりず、魔物同士で争ったり、人里に降りて返り討ちにあったりと』
だから、みんなどこか怪我してるのね。かわいそうに……。
よし、まずは集まっている民たちの、治療ね。
「キリエ様。椅子をお持ちしました」
ありがとう、チャトゥラさん。
『民よ聞きなさい! 今から聖魔王様が、皆様の怪我をなおしてくださりますわ!』
戸惑いながらも、やがて、角突きのウサギがこっちにやってくる。
「この子は、角ウサギです」
まあ……でも、角が折れてるわ。
おかわいそうに。
おいで……と手招きすると、向こうからジャンプして、わたしの膝の上に載る。
ぐーちゃんは、頭の上に乗っかっている。
直ぐに、痛いの直りますからね。
『! 頭の中に……声が! これが……ニンゲンさんの声?』
そうよ。
さ、直ぐ終わるからね。
……神さま。どうかわたしに、この傷付いた子たちを助ける、力をお貸しください。
祈りは直ぐに届き、角ウサギさんの額に、ぽわ……と聖なる光が照射される。
『すげえ! 新しい角が、にょきって生えた!』『はえたー』
くま吉君とスラちゃんが驚いている。
角ウサギさんも目を剥いていた。
『す、すげえ……! ニンゲンさんすげえ!』
元気になってなによりよ。
あと、わたしはキリエっていうわ。
『キリエ様、ありがとねー!』
角ウサギさんがわたしの膝から降りて、後ろで待っていた魔物さんたちに言う。
『みんな! キリエ様すごいよ! わたしの角ほら、こんなに綺麗になおしてくれたの!』
魔物さんたちが、角ウサギさんの周りに集まる。
ごぎゃごぎゃ、と何か話してる。
「民達はみな、キリエ様のお力に驚いてる様子です」
『改めてみると、やはりキリエ様の力は凄いですわ。折れた角をたちどころになおしてしまわれるなんて』
あれくらいの傷だったら、一瞬で治せるわ。
角ウサギさんの次に、灰色の狼さんが近づいてきた。
『灰狼ですわ』
こんにちは。
あら、あなたは右足を引きずってるわね。
骨が折れてるのかしら。
……神さま。
ぽわ……と光り輝くと、右足がたちどころに治る。
『す、すんげえ! 嬢ちゃん、まじですんげええよ!』
灰狼さんとも、おしゃべりできるようになったわ。
『おいやべえよ! この嬢ちゃんはんぱねーって! 折れた足がもう全然いたくねーんだわ!!!!』
ごぎゃごぎゃ! と魔物さん達がしゃべり、そしてうなずく。
一斉に押し寄せてきた……!
『熊ガード!』『がーどー』
くま吉君がわたしの前に立ち塞がり、壁になってくれる。
『ひとりずつだよ! 姉ちゃんはひとりしかいないんだから!』『だからー』
ふふ、ありがとうくま吉君。
かっこいいわ。
『でへ~♡ たくさん褒めてくれる、キリエ姉ちゃん好き~~~~~~~~~~~~~~~♡』『ちゅきー♡』
魔物さんたちは不満そうにしながらも、おとなしく、一匹ずつ前に来てくれる。
骨折、切り傷、頭から血を流してる……。
たくさんの怪我してる子たちを、わたしは治し続けた。
『き、キリエ様? そんなに力を使い続けて、大丈夫なのですの?』
シンドゥーラさんがわたしを心配してくれる。
ふふ、ありがとう。
でも大丈夫。
この力は、わたしの力じゃないので。
『どういうことですの?』
わたしはただ、神様に祈りを捧げているだけです。
力は、天より降り注いでいる物……。
ようするに、わたしの中に力があるわけじゃないので、いくら使っても、疲れないし、問題ないのです。
『……ちょっとチャトゥラ。どういうことですの?』
シンドゥーラさんがチャトゥラさんをつれて、ちょっと離れたところで会話する。
『……ど~みても、聖女さまのお力ですわよね? あの子の中にある力ですわ』
「……どうやら二代目聖魔王様は、とても信心深いお方らしく、御自らの力を、天の力だと思ってるらしいのです」
『……な、なるほど……それはそれですごいですわね。無尽蔵ですの、キリエ様の魔力は』
「……ええ、信じられない保有魔力量です。さすがキリエ様です」
ふたりが仲良く会話してる間にも、わたしは魔物さんたちを治しまくったのだった。