7.偽の聖女は、司祭から叱られる
《ハスレアSide》
聖女キリエが奈落の森の長となる決意を固めた、一方その頃
聖女ハスレアは、寝室で目を覚ます。
桃色髪の、いかにも男受けしそうな体型の聖女だ。
「はぁん、清々しい朝だわ! あの目障りなブス女がいなくなったからね!」
王太子の前では猫をかぶってるハスレアだが、しかし今彼女は本性をあらわにしてる。
「あんなしゃべれない、欠陥品のクズのくせに、あたしより可愛くないくせに、人気があるのがムカついてたのよ!」
ハスレアは赤ん坊の時に、神の啓示を受けた。
幼い頃から聖女の力が使えたことで、周りからチヤホヤされまくって育った。
その結果、性格がゆがんでしまったのだ。
天導教会の総本山、神聖皇国からここ王都へと派遣されてきたとき……。
当然、自分が王都でもチヤホヤされると思った。
だが違った。
すでにこの王都では、一番人気の聖女がいたのだ。
それが……聖女キリエ・イノリ。
彼女は誰に対しても慈悲深く、そして優しいため、王都の平民、貴族、いろんな人たちから好かれていた。
大神殿を訪れる人たちは、みな聖女キリエが目当てだった。
誰も、自分をチヤホヤしてくれない。
それがムカついていた。
「だから王太子に頼んで、追い出してもらったのよ! ふふ……しかもあの危険な奈落の森に捨てられたっていうし~? もうあのブスは死んだでしょうけどね! ふふふ! 清々するわ!」
そのときだった。
こんこん、とドアがノックされる。
ドアを開けると、そこには天導教会所属のシスターがいた。
「た、大変ですわハスレア様! たくさんの人たちが、抗議しにきてます!」
「抗議……?」
なぜ抗議が起きてるのか?
いやそもそも……
「なんでアタシに報告するのよ。司祭様にでも言いなさいよ」
司祭とは、王都の大神殿をとりまとめるリーダーのことで、聖女、シスターの上司に当たる存在だ。
「い、いえ……その、民はハスレア様を出せと」
「あたしを……?」
なにか抗議されるようなことしただろうか……?
しかし。
「めんどいからパス」
「なっ!? ぱ、パスぅ……!?」
「あたしはね、聖女のおつとめがあるの。忙しいの」
「で、でも……」
「ああもう、うるさいわね。さっさと追い返してちょうだい。それがあんたらの仕事でしょ?」
野犬を追い払うように、しっし、とハスレアは手を振る。
シスターはぎゅっ、と下唇を噛んだあと、出て行く。
「ふーやれやれ。ったく、なんであたしが抗議されなきゃいけないんだっつーの。めんどくさ」
しかし……。
「聖女ハスレア!」
ばんっ! と扉が開いて、中に入ってきたのは……。
「し、司祭イオン様!」
司祭イオン。
若干25歳という若さで、司教にまで上り詰めたエリートだ。
若く、美しいかんばせ。
蒼穹を彷彿とさせる艶やかで長い髪。
背は高く、痩せ型で、いつも穏やかに微笑んでいる様から、シスターや聖女たちの間で、とても人気の高い男である。
現に、ハスレアもイオンに対して好意を抱いてた。
……そのことをモーモック王太子は知らない。
彼は、利用されただけに過ぎないのだ。
「い、イオン様……ごきげんよう。どうしたのですか、こんな朝早くから? あ! あたしに会いに来てくれたんですかぁ~?」
だが……イオンは柳眉を逆立てて、声を張り上げる。
「今すぐ外に出なさい!」
「え? な、なんで……?」
「あなたのせいで、民が怒っているのです!」
……さっきのシスターが、司教イオンの後ろに立っていた。
多分つげ口をしたのだろう。
あのアマ……! と内心で憤る。
「聖女ハスレア、どうして民があなたを出せと怒ってるのですか?」
「え? さ、さぁ……?」
本気でわからない……というか関心がない。
「何かしたのですか?」
「別に……ただ、王太子に頼んで、あの女を追い出しただけですけど?」
「あの女……?」
イオンは、直ぐに何かに思い至った様子。
「もしかして……今朝から聖女キリエの姿が見えないのですが」
「あ、そうです。追い出しました」
「なっ!? 何を馬鹿なことを……!!!!」
司祭イオンは、出張に行ってたので、知らなかったのだ。
キリエが出て行ったことを。
「あなた……とんでもないことをしてくださりましたね!!!!」
「ひっ……! な、なんで……そんな怒ることないでしょう? あんな欠陥品……」
信じられない……とばかりに絶句する司祭イオン。
「なんと愚かなことを! 聖女キリエが欠陥品? とんでもない!」
「え? だ、だって……しゃべれないんですよね? なら欠陥品じゃないですか? それより、あたしのほうがしゃべれますし、愛嬌もありますしい? なんといっても聖女としての力も上ですからぁ? ね、イオン様。あたしが居れば十分でしょお~?」
……と猫なで声で言うも、イオンは珍しく、怒鳴りつける。
「ふざけるな!」
「ひっ……!」
いつも穏やかな司祭が、本気で怒っていた。
「ああ……なんてこと……なんてことを……この王都はもうおしまいです……」
「え? え? ど、どういう……」
「聖女キリエがいたから、この王都の平和は守られていたのです!」
は?
キリエが……王都の平和を守っていた……?
「な、なに馬鹿なこといってるんですか……」
「馬鹿なことをしたのはあなたです! とにかく……王の下へ報告にいきますよ。その前に、民に頭を下げなさい、ハスレア」
「はぁ!? な、なんであたしが!」
「当然です! あなたのせいで、この街の平和の象徴が失われたのですから!」
平和の象徴……だって?
なんでこんな、イオンはキリエをべた褒めしてるのか。
ムカついた。
なんでだよ。あたしのほうが、綺麗だし、有能じゃ無いか。
好きな人が、自分以外の女を褒めてるのが、ムカついた。
民からチヤホヤされないのもむかつくけど、好きな人から承認されないのも腹が立つ。
「問題ないです!」
「……問題ない?」
「はい! あんな女がいなくても! アタシで十分、代わりが務まります!」
本気で、そう思っていた。
あんな女よりも自分の方が優れていると。
……司祭イオンはため息をついたあと。
「あなた程度では、無理です」
はっきり無理、と断じられてしまった。
「む、無理じゃないもん!」
「……とにかく王に報告にいってきます。あなたは余計なことしないように」
「ちょ、ちょっと待ってくださいイオン様!」
だがイオンはこちらに一瞥くれることもなく、部屋を出て行った。
あとにはハスレアだけが残される。
「な、なによ! イオン様のばか! アタシだって、あんな女の代わりくらいできるもん!!!!!」
上司であり思い人であるイオンから、要らない子扱いされたのが、ムカついてしょうがなかった。
「こうなったら、できるってこと証明してやるんだから!!! あんな女がいなくても、大丈夫だって!!!!」
……余計なことをするなと、言われたばかりなのに。
ハスレアは、暴走し出すのだった。
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