62.進化する神
わたしは次なる目的地として、トロルさんのいるマナカ湖を目指すことにした。
「トロルはドワーフたちとちがって、一カ所で暮らしてるんだべ」
トロルのデッカーちゃんが、大灰狼の背中に乗りながら言う。
「ドワーフさんたちはそうじゃないの?」
「ああ、わしらドワーフは街を作り、おのおので暮らしておるのじゃ」
「じゃあ、マナカ湖に向かう道すがら、ドワーフさんたちも助けましょう」
「いいのか?」
「もちろん、この国の人たちは、みんな平等に助けるわ」
神様がわたしをここに呼んだのは、きっとそれをさせたいからだわ。
ならばわたしは神のご意志に従って、全力で力を行使するのみ。
『姐さん姐さん』
「どうしたの、わんこちゃん」
大灰狼たちの群れの長、雷狼のわんこちゃんが、近づいてくる。
『仲間連中が、街を見つけやした。どうしましょう』
「当然、助けるわ。くま吉君、GOよ」
こくんとくま吉君がうなずくと、わんこちゃんの先導で街へと向かう。
近づいてくると、ドワーフさんの街が見えてきた。
「ふぅむ……周りに不死の軍勢がおらんの」
「ガンコジー弟の街はやつらが取り囲んでいたんだべ? ならこの街も……」
ガンコジーさんたちの言う通りだわ。
いないのは、ちょっと不自然ね。
『あっしらが先行して街の中の様子を探ってきましょうかい?』
わんこちゃんの提案。ううん……でも大灰狼さんたちって、怖がられちゃわないかしら……。
事情を知ってるわたしたちとちがって、街の人たちは、敵襲だって思われそうだし。
『ぴゅるりぃ! ぐーちゃん行ってくりゅ!』『すらーもー』
「そうね、空を飛べるぐーちゃんなら。それに、スラちゃんがいれば、もし反撃を受けても、吸収できるものね」
ということで、二人に任せることにした。
ぐーちゃんがスラちゃんを掴んで、ぱたぱたと飛んでいく。
「あたちも飛ぶー!」
妹鬼、ひいろちゃんが手を上げて主張する。
『おいおいひいろぉ、飛ぶってどーすんだよ。ぐーちゃんみたいに翼はないんだぞ』
「とぶったらとぶー! ぐぬぬぬん……」
念じるひいろちゃん。
飛ぶきまんまんらしいわ。でも、上手くいかないらしくて、じわ……と涙をためる。
「ぐーちゃん友達だもん……心配なんだもん……」
「なるほど……神様にお願いしてみるね」
「ほんとー! おねえちゃんっ!」
ノアール神さまなら、どんな願いも叶えてくれるはずだわ。
わたしは目を閉じて、祈りを捧げる。
「神様、どうか……」
「なんかとべたー!」
「はやっ!」
目を開けると、背中に光の翼をはやした、ひいろちゃんがいた。
手のひらサイズのちっこい、デフォルメされた翼を背中に付けている。
「か、神様……仕事が早い……」
「ねーちゃがんが祈ったら力がぐぐんって湧いてきたの! あたちいってくりゅ!」
ぎゅーん、とひいろちゃんも飛んでいってしまう。
大丈夫かしら……心配だなぁ……。
『しんぱいだー』
『って、あれ!? スラちゃん!? なんで!?』
くま吉君が驚いた声を上げる。
たしかに、飛んでったはずのスラちゃんが、わたしの手のひらの上に乗っているわ!
「どうなってるの……?」
『ぶんちんのじゅつー』
「ぶんちん……? 分身?」
『そーともひゅー』
ひゅーって、軽いなぁ。
スライムって分身なんてできるのかしら?
『すらーちゃんジャンプ』
ぴょん、とスラちゃんがわたしの頭の上に乗る。
その瞬間、わたしの頭の中に映像が流れてきた。
「これは……上空? あの町?」
わたしの脳内には、鳥のように上から見下ろす映像が映っている。
『きりえのこえするー』
『ぴゅい? そうなの?』
……どうやら、分身すらちゃんを使って、五感情報を共有できるみたいだわ。
「すごいわスラちゃん、いつの間にそんなことできるようになったの?」
『わからぬー』
みんなどんどんいろんなことができるようになるわね。
これもノアール神さまのお力かしら。
『ねーちゃんほんといろんなことできるようになってるなー、すげえなぁ』
「え、ええ……わたしじゃないわよ……みんながノアール神さまの力を使って、強くなってるの」
『姉ちゃんって時々とんでもなくバカっぽくなるよね」
「えええ!? そんな! バカかなぁ……」
なんかショックだわ……。
そんなこんなあって、わたしの視界に、スラちゃんの映像が見える。
街のなかには、大量のゴーレムたちが待ち構えていた。しかも、みんな武装してる。
「罠が張ってあるわ」
「やっぱりか! キリエ嬢ちゃん、どうする……?」
「そうねえ……」
すると、通信先で、鬼のひいろちゃんが言う。
『あたちがやる! ふんぬぅう……のばちゅとらいくー!』
「のばちゅとらいく……? なにそれ……え、ひいろちゃん? いったい何を……?」
両手を構えて、ひいろちゃんが何かをしようとしてる。
『うーん、でにゃーい』
「なにしてるの?」
『まほー! とれんときんぐから、教えてもらった! 極大魔法!』
そんな魔法まで習ってるなんて……でも発動できないのはどうしてかしら?
……待てよ、魔法には魔力が必要よね。でも、ひいろちゃんはまだ子供だから、魔力量が足りないんだわ。
『すらー経由で、魔力、おくれるよー』
「スラちゃんそんなことまでできるのっ?」
『きりえー、まりょくおくってー』
わたしはうなずいて、神様から魔力を借りて、ひいろちゃんに渡す。
ずずず……とスラちゃんの体が光り輝き、その光が点へと伸びていく。
『きたわー! のばちゅとらいくー!』
その瞬間……。
どっがぁあああああああああああああああああああああん! という激しい音とともに……街から爆炎があがる。
「あわ、わわわ……や、やり過ぎよ」
『だいじょーぶ! みねうちだー!』
魔法に峰打ちもなにもないでしょー!
もー!
「中の人が怪我したら……下手したら死んでるかも! どうするのっ?」
『そんときは姉ちゃんが治せばいいんじゃね?』
「あ、それもそうね」
『でしょー』
そんな俺らの様子を見ながら、ガンコジーさんがつぶやく。
「キリエの嬢ちゃんは、配下の力まで底上げする力まで持ち合わせているのか……しかもあの尋常じゃない魔力量……やはり、恐ろしいお人じゃ……」
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