59.広がる奇跡、広がる誤解
わたしはドワーフさんの街、ニサラキへやってきた。
ガンコジーさんの弟、キムズカジーさんと合流し、町の中へと入ってきたんだけども……
「これは……ひどいわ」
なかはひどい有様だった。
建物は壊れ放題、あちこちで怪我人が倒れ伏してる。
「むごいわ……一体どうしてこんなことに?」
「腐姫のせいだ。あやつめ、ドワーフのゴーレムを奪い、ゾンビイヌとともにあちこちで暴れておるでな」
建物は、ゴーレムが投擲した石や雪のせいで、壊されたそうだ。
直せないのは、直す暇がないとのこと。
「腐姫ひきいる不死の軍勢の、何が厄介かといえば、通常の攻撃が毒攻撃になっていることなんだ」
常に腐っている彼らには、体の中に猛毒を秘めてるらしい。
触れるだけ、その場に居合わせるだけで、人体に多大なる毒ダメージを受ける。
「肺をやられたものは病床にふし、腕や足を掴まれたものは、切断を余儀なくされてる」
「そんな……」
ドワーフさんたちにとって、腕を失うことは、わたしたち以上に辛いことだろう。
ガンコジーさんを見て、わたしは知ったのだ。
彼らはものづくりに命をかけている。
それができないことも、できなくなることも、一般人と比べて、何倍も何十倍も辛く悲しいことだろう。
「キリエ神様さん」
「呼び捨てでいいわ、キムズカジーさん」
「じゃあキリエの姐さん」
あねさんて……まあいいけど。
「さっきは本当にすまなかった!」
え、な、何に謝ってるかしら?
「姐さんは、おれらの命の恩人さ! あのままじゃじりひんで、腐姫の配下共にやられて、死ぬとこだった。ほんと、ありがとう! そしてすまん! 命の恩人に、敵だと疑って!」
ああそこを気にしてたのね。
「大丈夫、気にしないで。外から見知らぬ女が来たら、警戒して当然だもの」
「おお、なんと心優しい……」
「それに……まだ終わってないわ」
「と、いうと?」
キムズカジーさんに、わたしは言う。
「怪我人の治療、是非させてほしいわ」
「んなっ! い、いいんですかい、姐さん?」
「もちろん!」
天にまします我らがノアール神さまが、なぜわたしをここに送ったのか。
それは、神の力をもちいて、ドワーフ、そしてトロルたちを救えと、そうおっしゃりたかったのだ。
ならばわたしは、全力で、ノアール様の力を行使するのみ!
さすれば、きっとノアール様の素晴らしさを知って、キリエ神なんて呼ばれなくなることだろう。
「さっそく怪我人を集めてくるぜ!」
たっ、とキムズカジーさんが駆け出す。
「では、わたしは近くの怪我人を」
地面に寝転がされていた、手足を失ったドワーフさんのもとに、わたしは駆け寄る。
「がんばって、大丈夫。ノアール神の力で、すぐによくなるわ」
わたしは目を閉じて神にお祈りする。
「お、おお! なんと、神々しい! これが……神!」
この街の職人さんたちが、また元気に、ものづくりに専念できますように。
『うおー! 姉ちゃんの翼が! 今までにないくらい大きくなっていくよぉう!』『ぴゅいー! でっかーい!』『でけー』
神の力を、感じる。
やがてわたしは目を開ける……すると.……
「し、信じられん! 腕が、足が、元に戻ってる!?」
目の前のドワーフさんが歓喜のおたけびをあげる。
彼の言うとおり、手足は元通りになったわ。
ありがとうございます、神様。
「さて、残りの人たちも……って、ええ!?」
わたしはとんでもない光景を目の当たりにしていた。
「建物が直ってる!?」
「怪我人はどこいった?」
「え、うそ!? みんな治ってる!?」
え、ええと……さっきまでの、壊れた街なみ、倒れた街の人たちは、どこへやら。
みんな、一瞬で元に戻ってた!
「「「す、
すごいです! キリエ神様さま!」」」
「ええええええ!?」
ち、違う違う!
そうじゃない!
「み、皆さんみたでしょ? 神の力を」
「「「はい! キリエ神様の、お力を!」」」
またぁ!?
また勘違いされてる!
「おれたちを奇跡の力で、一瞬でなおしちまうなんて! さすがだぜ、姐さん! おれら一生あんたを信奉するぜー!」
キムズカジーさぁん、違うのぉ。
「こ、これはわたしの力じゃなくてね」
「はは! 神様はすごいだけじゃなく、謙虚なんだな!」
違うのにぃ。
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