51.物作りスキルと、神のスキル
氷の国にて、山小人のガンコジーさんの願いを聞き届けた。
神のご加護があらんことをと祈った。
すると彼が望む、黄金の手というスキルが発現した。
「黄金の手って、具体的に何ができるの?」
場所は洞窟の中にある、ガンコジーさんの工房。
ガンコジーさんは自分の手の甲を見ながら説明してくれる。
「黄金の手にはそれぞれ、固有の物作りスキルが宿っているのだ」
「それぞれ? 違う場合もあるの?」
「そうじゃ。先代は付与という、ものに力を付与するスキルが、黄金の手に宿っていた」
同じ黄金の手ででも、宿っているスキルは違うのね。
宝箱は同じでも、中身が違う的な。
「ガンコジーのはどんなスキルなんだべや?」
「ふぅむ……検証してみんことにはわからんな……」
あ、そうだわ。
わたしは祈祷書を手に取って、スキルを発動させる。
「【鑑定】……ふんふん、ランクSの超錬成ってスキルが宿ってる……みたい……よ?」
ガンコジーさんがポカンとしている。 あ、あれ……? わたし何かおかしなこと言ったかしら?
「か、鑑定……? キリエ神は……」
「神はやめて……。あと様もいいから」
「キリエ嬢ちゃんは、ランクを見抜く鑑定スキルまで持っているのか?」
「ええ。わたしの知り合いの魔物さんが、持ってるスキルをコピーさせてもらったの」
樹木王さんのことね。
祈祷書を持っていれば、仲間になった魔物のスキルを、こうして再現できるの。
「……ランクまで正確に見抜く鑑定スキルとなると、最上級のスキルじゃ。それを所有するだけでもすごいのに、コピーし再現するなんて……」
「キリエ様はすごいべー!」
いやいや。
「すごいのは、ご加護をお与えくださった神さまよ。わたしはただの神の使徒でしかないわ」
「う、うむ……」
どうにも不服そうなガンコジーさん。
神さまがすごいのに。
「ガンコジー! 超錬成ってやってみて! どんなことできるんだべ!」
「見抜いた情報を、紙に映し出してみるわね」
わたしはポシェットからメモ帳を取り出して、スキルで読み取った情報を書く。
さらさらさらっと。
それを読み上げて、ガンコジーさんはうなずいたあと、近くの銀塊を手に取る。
「これは魔銀じゃ」
「へえ……この青みがかった銀の塊が」
「うむ。魔銀の加工には、とても時間がかかる。とても繊細な鉱石ゆえな」
魔銀をわたしに見せながら言う。
「手のひらサイズの銀塊を加工するだけでも、丸一日かかる」
「丸一日! そんなに……」
「うむ……だが……はぁ!」
ガンコジーさんが気合いを入れると、右手の紋章が輝きだす。
すると手のひらサイズの銀塊が、1本の、それはもう美しい剣へ早変わりしたのだ。
「す、すごいんだべ! 一日かかる加工を、一瞬でできるようになるなんて!」
「ああ、これが超錬成の力らしい。万物の形を瞬時に変える。訓練次第では、もっと応用をきかせられるじゃろう」
物作りのことよくわからないけど、それでガンコジーさんの作業が、楽になるならそれでいいなって思った。
それと、彼に望む力をお与えくださった神さまに、深く深く、感謝を捧げる。
「うぐ……ぐすう……うう……」
「ど、どうしたのガンコジーさん?」
男泣きしてるわ。
ど、どうしんたの……?
「す、すまんキリエの嬢ちゃん……。こんな、凄い力をもらえたことがうれしくてな……」
「まあ、それはよかったわ」
「ああ……ありがとう、嬢ちゃん」
「いいのいいの。これはわたしのおかげじゃ無いから」
ほえ、とデッカーちゃんが首をかしげる。
「どういうことだべ?」
「黄金の手は神さまが、ガンコジーさんに与えたくださった恩恵。でもそれは、ガンコジーさんが頑張ったから、その頑張りに対するプレゼントなのよ」
神さまはいつだって、頑張っている人を見ている。
そして、祝福を授ける。
「ゆえに、その力はガンコジーさんが頑張った集積なの。わたしはなにもしてないわ。あなたはあなたの努力を、もっとほこっていい」
それと、神さまに感謝をわすれないように、と付け加えた。
ガンコジーさんは深々と頭を下げる。
「神さまの像を造り、これからは毎日、祈りを捧げることとするのじゃ」
うんうん、それがいいわ。
ノアール神さまも、きっと喜ぶはず。
彼の像を建ててくれるなんて、むしろうれしいくらいだわ。
いったいどんな像になるのでしょう、楽しみ!
「ノアール様、かっこよく作ってあげてね」
「う……む?」
え、なんで首をかしげるのかしら……。
と、そのときだった。
ぐぅう~…………。
「ぴゅいぃい……おなかすいたぁ」
胸に抱いている、ぐーちゃんが、空腹を訴えてきたのだ。
よしよし、と頭をなでる。
「おらが料理作るべ! 外でなにか適当な獣でも狩ってくる!」
「ああ、大丈夫よデッカーちゃん。こんな寒い中外に出る必要はないわ」
「へ? でも……狩りをしないとご飯は食べれないだべ?」
「大丈夫、神に祈れば」
「祈る……?」
わたしは目を閉じてお祈りをする。
ノアール神様、どうか我らに食べ物をお恵みください……。
「わぁ! 洞窟の壁から急に植物が生えたべ!?」
「こんな寒冷地に植物!? しかも……なんじゃこの見たことない木の実は!」
目を開けると、アトリエの壁から、無数の植物の蔦が生えていた。
その先には、大ぶりの木の実がなっている。
「食べ物の実がなってるわ」
「「は……?」」
わたしは木の実を一個手に取って、蓋をぱっかんとあける。
「なんじゃとおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「木の実のなかに、ビーフシチューが入ってるべええええええええええ!?」
何を驚いてるのかしら?
あ、この辺じゃ珍しいのかもしれないわね、神様の果実。
「ぴゅいー! ぐーちゃんしてゅーすきー!」
はぐっはぐっ、とぐーちゃんが木の実のなかに顔を突っ込んで食べていく。
「どうしたの、二人とも? 好きなのもぎって食べたら?」
「え、ええー……これ、なんだべ?」
「? ご飯よ」
「ご飯!? この不思議な食べ物が!? どうやって生やしたべ!?」
「だから、神に祈っただけよ」
「それだけでゼロから料理が作れるってまじでいってるべや!?」
「? 大マジだけど……」
ガンコジーさんが愕然とした表情でつぶやく。
「……おこがましいにもほどがあった。わしの手に入れた超錬成スキル、万物の形を瞬時に変える、まさに神のスキルじゃと……。だが、本物は違った。まさか、無から有を一瞬で、ノーリスクでつくりだすなんて……」
「しょうがねえべガンコジー! 相手は神さまやもん! 負けてもしゃーないべ!」
「デッカー……うう、そうじゃな。比較対象が間違っておったな」
「そうだべ!」
ノアール神様の素晴らしさを、ふたりも思い知ったのだろう。
ふふふ、こうしてまたノアール信者さまが増えましたよ、神さま? ほめてくれるかなっ?
「決めたぞ。わしは、この超錬成スキルを使い、生涯技術を錬磨していくことを! そして、最終的に神の武器……神器を、神に献上できるくらいにまで、腕を磨く!」
「ガンコジー! 素敵だべ! がんばるべー!」
なんだか盛り上がってるわねー、ふたりとも。
わたしがグラタンを食べていると、ガンコジーさんが前までやってきていう。
「ありがとう、キリエ嬢ちゃん。あなた様のおかげで、奢ること無く、高みを目指せそうだ!」
「そ、そう……よかったね」
「ああ! これもキリエ神様のおかげだ!」
ううん……だから、神さまの名前は、ノアール様なんだってばぁ。
どうしてみんな、わたしを神にしたがるのかしら……。
ノアール神様、ごめんなさい。
【★読者の皆様へ お願いがあります】
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります!
現時点でも構いませんので、
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください!
よろしくお願いします!