49.巨人と山小人《ドワーフ》
わたしは氷雪の国カイ・パゴスに召喚された。
呼んだのは、巨人族の娘、デッカーちゃん。
元々大きな姿だったデッカーちゃんは、神のご加護を受けて、人間サイズにまで縮んだ。
……すっぽんぽんな姿だったので、元着ていた布をちぎって、胸と腰に巻いてるようだ。
猛吹雪の中、わたしたち進んでいく。
「あの……! デッカーちゃん! どこへいくのっ? ガンコジーってひとのとこじゃなかったの?」
びょおびょおと吹きすさぶ氷の風のなかで、会話するわたしたち。
「ガンコジーは魔銀の洞窟にこもってるんだべ!」
「魔銀……」
たしか、とても高価な鉱石だと聞くわ。
でも……
「なんで洞窟のなかにっ?」
「ガンコジーは職人なんだべっ!」
職人さん……なるほど。
だから材料となる魔銀の鉱山に引きこもってるってこと……かな。
しかしデッカーちゃん、凄い速度ですすんでいく。
この吹雪をものともしてないわ。
さすが巨人族……っていうか、人間サイズになったのに、あんなパワフルなんてすごいわね。
ほどなくして、わたしたちは洞窟の入口までやってきた。
「ひゃー! こんな短時間でついちまったべ!」
「そうなの?」
「んだ! この吹雪だろう? 外であるくのにも一苦労だべ。多分、天使様がいたからだべな」
「わたし……? 天使じゃ無いけど」
「んだ。天使様と一緒に歩いてると、力が湧いてくるんだべ。それと、吹雪の勢いがかなりそがれてるべ」
……あの、しゃべるだけで一苦労な吹雪で、勢いが減ってるの……?
普段もっと酷いってことかしら。
「天使様は凄いおかただべ! きっとガンコジーも、元気になるべ!」
まあもう好きに呼べば良いと思うわ。
言っても直らないでしょうし。
その後、デッカーちゃんと一緒に洞窟の中を進んでいく。
魔銀の洞窟っていうわりに、普通の洞窟ね。
地面も土だし。
「魔銀は奥で取れるんだべ」
「ふぅん……ガンコジーさんって、あなたの友達ってことは、その人も巨人なの?」
「違うべ。ガンコジーは山小人だべ」
「山小人……?」
王都にもいたわ。
背が小さくて、ひげもじゃで、手先が器用な人たち……。
「ガンコジーは手先が器用でなぁ~、無愛想だけどなぁ~、ほんとはやさしいんだべ~♡ えへへへ~♡」
ほぅ……ほぅほぅ。
わたしの女子センサーが、びびっと来たわ。
「もしかして恋人……?」
「こ、こここ、恋人だなんてそんなっそんなっ。お、おらが勝手に……一方的に好きなだけだべ」
「あらあら~」
青春の香りがしますね。
ふふふ。
「告白しないの?」
「…………」
「デッカーちゃん?」
さっきまでの幸せそうな雰囲気から一転、彼女は沈んだ表情で言う。
「……無理だべ」
「あらどうして?」
「だって……おらは、巨人で、ガンコジーは山小人だべ」
「?」
それの何が問題なのだろうか……。
首をかしげているわたしに、デッカーちゃんが説明する。
「カイ・パゴスは、今二つの勢力に別れて、争ってるんだべ。山小人と、巨人族との間で」
「まあ……内紛ってこと?」
つまり、敵対する勢力同士だから、付き合えない。
そういうことなのね。
「かわいそう……」
「お、おらはいいんだべっ。べ、別に付き合えなくっても……ガンコジーの、そばにいられればそれでいいんだべ」
それは完全に本心とは言えないんじゃないかしら。
だって、デッカーちゃん凄く落ち込んでるんだもの。
きっと、ガンコジーさんと付き合いたいんだわ。
でも、国の情勢柄、付き合えないでいる……。
「大変ね。何とかしてあげたいわ」
「天使様にそこまでしてもらえる義理はねーべや! おらは、ガンコジーの病気を治してくれるなら、それだけで……十分だべ」
十分っていうわりに、彼女の表情は暗いものだった。
なんとかできればいいんだけど。
てゆーか、そもそもどうして争うのかしらね。
同じ国に住んでいるのに……。
「っと、ここだべ。ガンコジーの工房」
「……? 何も無いけど」
洞窟の行き止まり部分に来た。
工房っていうけど、どこにもそれらしいものは見当たらない。
するとデッカーちゃんが、迷宮の壁に触れる。
ずる……と中に吸い込まれていったわ!
「ぴゅい~! 消えた!」
驚くグーちゃん。
にゅっ、と壁の中からデッカーちゃんが顔を覗かせる。
「隠し扉だべ。ガンコジーが作ったんだべよ!」
「へえ……見た目ただの壁が、入口になってるのね。すごい技術……」
「そうだべ! ガンコジーは世界一の職人になる……はずなのだべ」
デッカーちゃんが歯切れ悪く言う。
どうしたんだろうか……。
いえ、会えばわかるわきっと。
わたしは壁の中にえいやっと入る。
……そこは、すごい鍛冶場とでもいうのか、たくさんの道具にあふれていた。
かーんかーんかーん……! とどこかで硬いものを、ハンマーで叩く音がした。
「ガンコジー! 寝てなきゃだめだべや!」
青い顔をして、デッカーちゃんが奥へと駆けていく。
この音を、ガンコジーさんがたてているのだとしたら、おかしいわ。
だって病気だって言ってたし……。
とにかく、わたしはデッカーちゃんの後に続く。
かーんかーんかーんかーん……!
大きな炉の前で、ハンマーを握る、【年若い】山小人がいた。
あれがガンコジーさんかしら?
でも……
「腕が……足も……」
右腕、そして右足が、極端に痩せ細っていた。
翻って、ハンマーを持つ左手は樹木のようにぶっとい。
黒い髪に、浅黒い肌という、健康そうな見た目に反して、右半身だけが、なんだか頼りない。
「ガハッ……! げほげほっ!」
「もうやめて! ガンコジー! 死んじゃうべ!」
振り上げたハンマーを、デッカーちゃんが取り上げる。
「ゲホッ……! だ、だれじゃ貴様……!」
「おらだべ! ガンコジー!」
「おら……? おま……もしかして……桃髪……!?」
見た目が変わっているせいか、ガンコジーさんはデッカーちゃんに気づかなかったみたい。
「うぐ……ぐぅうう……!」
「ガンコジー! 天使様! どうか彼を!」
わたしはうなずいて、彼に駆け寄る。
血を吐いて倒れた彼の元へ向かう。
……歳は、どれくらいかしら。
髭とか生やしてないので、若いとは思うけど。
でも目の下には隈があって、ぜえぜえと息苦しそうに呼吸を繰り返している。
こんな状態で、ハンマーを握っているだなんて……。
よっぽど、鍛冶職人としての仕事に、プライドを持っているのね。
「わ、わしは……まだ……死にたくない……わしは……神器を完成させてない……げほげほ!」
どうやら何か目標がある様子だわ。
……神さま、どうかこの子、そして、この子のことを想う少女の願いを、どうかお聞き届けください……。
目を閉じてわたしが祈ると……。
「天使様の羽が! 凄い光ってるべ!」
「ぴゅいい! まぶしー!」
……やがて、わたしが目を開けると、年若い山小人の、ガンコジーさんが体を起こす。
「信じられん……体が、凄く軽くなっておる……」
「ガンコジー!!!!」
がばっ! とデッカーちゃんが彼を抱きしめる。
ぎゅうう!
「げほっ! おいやめろ! 死ぬわい!」
「あ、ご、ごめぇん……」
ふぅ、とガンコジーさんが息をついて、わたしを見る。
彼は深々と、頭を下げてきた。
「ありがとう、嬢ちゃん。苦しいのが治った」
「ありがとー! 天使……ううん、女神さま!」
天使から女神にランクアップしてる……まあいいけども。
とにかく、ガンコジーさんが治ってよかったわ。
ありがとうございます、神さま。
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