表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/196

49.巨人と山小人《ドワーフ》



 わたしは氷雪の国カイ・パゴスに召喚された。

 呼んだのは、巨人族の娘、デッカーちゃん。


 元々大きな姿だったデッカーちゃんは、神のご加護を受けて、人間サイズにまで縮んだ。

 ……すっぽんぽんな姿だったので、元着ていた布をちぎって、胸と腰に巻いてるようだ。


 猛吹雪の中、わたしたち進んでいく。


「あの……! デッカーちゃん! どこへいくのっ? ガンコジーってひとのとこじゃなかったの?」


 びょおびょおと吹きすさぶ氷の風のなかで、会話するわたしたち。


「ガンコジーは魔銀ミスリルの洞窟にこもってるんだべ!」

魔銀ミスリル……」


 たしか、とても高価な鉱石だと聞くわ。

 でも……


「なんで洞窟のなかにっ?」

「ガンコジーは職人なんだべっ!」


 職人さん……なるほど。

 だから材料となる魔銀ミスリルの鉱山に引きこもってるってこと……かな。

 しかしデッカーちゃん、凄い速度ですすんでいく。

 この吹雪をものともしてないわ。


 さすが巨人族……っていうか、人間サイズになったのに、あんなパワフルなんてすごいわね。

 ほどなくして、わたしたちは洞窟の入口までやってきた。


「ひゃー! こんな短時間でついちまったべ!」

「そうなの?」

「んだ! この吹雪だろう? 外であるくのにも一苦労だべ。多分、天使様がいたからだべな」

「わたし……? 天使じゃ無いけど」

「んだ。天使様と一緒に歩いてると、力が湧いてくるんだべ。それと、吹雪の勢いがかなりそがれてるべ」


 ……あの、しゃべるだけで一苦労な吹雪で、勢いが減ってるの……?

 普段もっと酷いってことかしら。


「天使様は凄いおかただべ! きっとガンコジーも、元気になるべ!」


 まあもう好きに呼べば良いと思うわ。

 言っても直らないでしょうし。


 その後、デッカーちゃんと一緒に洞窟の中を進んでいく。

 魔銀ミスリルの洞窟っていうわりに、普通の洞窟ね。

 地面も土だし。


魔銀ミスリルは奥で取れるんだべ」

「ふぅん……ガンコジーさんって、あなたの友達ってことは、その人も巨人なの?」

「違うべ。ガンコジーは山小人ドワーフだべ」

山小人ドワーフ……?」


 王都にもいたわ。

 背が小さくて、ひげもじゃで、手先が器用な人たち……。


「ガンコジーは手先が器用でなぁ~、無愛想だけどなぁ~、ほんとはやさしいんだべ~♡ えへへへ~♡」


 ほぅ……ほぅほぅ。

 わたしの女子センサーが、びびっと来たわ。


「もしかして恋人……?」

「こ、こここ、恋人だなんてそんなっそんなっ。お、おらが勝手に……一方的に好きなだけだべ」

「あらあら~」


 青春の香りがしますね。

 ふふふ。


「告白しないの?」

「…………」

「デッカーちゃん?」


 さっきまでの幸せそうな雰囲気から一転、彼女は沈んだ表情で言う。


「……無理だべ」

「あらどうして?」

「だって……おらは、巨人で、ガンコジーは山小人ドワーフだべ」

「?」


 それの何が問題なのだろうか……。

 首をかしげているわたしに、デッカーちゃんが説明する。


「カイ・パゴスは、今二つの勢力に別れて、争ってるんだべ。山小人ドワーフと、巨人族との間で」

「まあ……内紛ってこと?」


 つまり、敵対する勢力同士だから、付き合えない。

 そういうことなのね。


「かわいそう……」

「お、おらはいいんだべっ。べ、別に付き合えなくっても……ガンコジーの、そばにいられればそれでいいんだべ」


 それは完全に本心とは言えないんじゃないかしら。

 だって、デッカーちゃん凄く落ち込んでるんだもの。


 きっと、ガンコジーさんと付き合いたいんだわ。

 でも、国の情勢柄、付き合えないでいる……。


「大変ね。何とかしてあげたいわ」

「天使様にそこまでしてもらえる義理はねーべや! おらは、ガンコジーの病気を治してくれるなら、それだけで……十分だべ」


 十分っていうわりに、彼女の表情は暗いものだった。

 なんとかできればいいんだけど。


 てゆーか、そもそもどうして争うのかしらね。

 同じ国に住んでいるのに……。


「っと、ここだべ。ガンコジーの工房アトリエ

「……? 何も無いけど」


 洞窟の行き止まり部分に来た。

 工房っていうけど、どこにもそれらしいものは見当たらない。


 するとデッカーちゃんが、迷宮の壁に触れる。

 ずる……と中に吸い込まれていったわ!


「ぴゅい~! 消えた!」


 驚くグーちゃん。

 にゅっ、と壁の中からデッカーちゃんが顔を覗かせる。


「隠し扉だべ。ガンコジーが作ったんだべよ!」

「へえ……見た目ただの壁が、入口になってるのね。すごい技術……」

「そうだべ! ガンコジーは世界一の職人になる……はずなのだべ」


 デッカーちゃんが歯切れ悪く言う。

 どうしたんだろうか……。


 いえ、会えばわかるわきっと。

 わたしは壁の中にえいやっと入る。


 ……そこは、すごい鍛冶場とでもいうのか、たくさんの道具にあふれていた。


 かーんかーんかーん……! とどこかで硬いものを、ハンマーで叩く音がした。

「ガンコジー! 寝てなきゃだめだべや!」


 青い顔をして、デッカーちゃんが奥へと駆けていく。

 この音を、ガンコジーさんがたてているのだとしたら、おかしいわ。


 だって病気だって言ってたし……。

 とにかく、わたしはデッカーちゃんの後に続く。


 かーんかーんかーんかーん……!


 大きな炉の前で、ハンマーを握る、【年若い】山小人ドワーフがいた。

 あれがガンコジーさんかしら?


 でも……


「腕が……足も……」


 右腕、そして右足が、極端に痩せ細っていた。

 翻って、ハンマーを持つ左手は樹木のようにぶっとい。


 黒い髪に、浅黒い肌という、健康そうな見た目に反して、右半身だけが、なんだか頼りない。


「ガハッ……! げほげほっ!」

「もうやめて! ガンコジー! 死んじゃうべ!」


 振り上げたハンマーを、デッカーちゃんが取り上げる。


「ゲホッ……! だ、だれじゃ貴様……!」

「おらだべ! ガンコジー!」

「おら……? おま……もしかして……桃髪……!?」


 見た目が変わっているせいか、ガンコジーさんはデッカーちゃんに気づかなかったみたい。


「うぐ……ぐぅうう……!」

「ガンコジー! 天使様! どうか彼を!」


 わたしはうなずいて、彼に駆け寄る。

 血を吐いて倒れた彼の元へ向かう。


 ……歳は、どれくらいかしら。

 髭とか生やしてないので、若いとは思うけど。


 でも目の下には隈があって、ぜえぜえと息苦しそうに呼吸を繰り返している。

 こんな状態で、ハンマーを握っているだなんて……。


 よっぽど、鍛冶職人としての仕事に、プライドを持っているのね。


「わ、わしは……まだ……死にたくない……わしは……神器じんぎを完成させてない……げほげほ!」


 どうやら何か目標がある様子だわ。

 ……神さま、どうかこの子、そして、この子のことを想う少女の願いを、どうかお聞き届けください……。


 目を閉じてわたしが祈ると……。


「天使様の羽が! 凄い光ってるべ!」

「ぴゅいい! まぶしー!」


 ……やがて、わたしが目を開けると、年若い山小人ドワーフの、ガンコジーさんが体を起こす。


「信じられん……体が、凄く軽くなっておる……」

「ガンコジー!!!!」


 がばっ! とデッカーちゃんが彼を抱きしめる。

 ぎゅうう!


「げほっ! おいやめろ! 死ぬわい!」

「あ、ご、ごめぇん……」


 ふぅ、とガンコジーさんが息をついて、わたしを見る。

 彼は深々と、頭を下げてきた。


「ありがとう、嬢ちゃん。苦しいのが治った」

「ありがとー! 天使……ううん、女神さま!」


 天使から女神にランクアップしてる……まあいいけども。

 とにかく、ガンコジーさんが治ってよかったわ。


 ありがとうございます、神さま。

【★読者の皆様へ お願いがあります】


ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります!


現時点でも構いませんので、

ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!


お好きな★を入れてください!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ