47.聖十二支《デーバ》、会議
《くま子Side》
奈落の森に、屍魔王、腐姫が攻めてきた。
その日の夜。
樹木王の前に、聖十二支たちが集まっていた。
「で、なんであたいも参加することになったんだい……?」
チャトゥラ、シンドゥーラ、アニラ。
彼らは初代聖魔王エレソンが力と名前を与えた、上位の魔物達だ。
一方でくま子は単なる赤熊。
どう見てもこのメンツと比べると、ワンランク下がる魔物……だが。
『いや、キリエが名前を与えた、しかも最初の魔物。ゆえに、他の魔物よりも、強い力を持つのじゃよ、ぬしは』
「はあ……そうなのかい?」
『うむ、人化がその証拠。そもそも人の姿になれる魔物という時点で、チャトゥラたちと同格なのじゃよ、ぬしは』
「ふぅん……」
どうやら自分は特別な存在らしい。
あまりその自覚はないけれど。
くま子はリーダー的存在である、チャトゥラに尋ねる。
「んで、これは何の集まりで?」
「これからの方針を話し合おうと思いまして」
「方針?」
「ええ……ほかの魔王への、対策会議です!」
ほかの魔王……?
すると空の警護を担当してる、グリフォンのシンドゥーラが情報を共有する。
「先日、我が魔王国ケラヴノスティア上空に……」
「ちょ、なんだいその、魔王国……ケラヴノスティアって?」
「キリエ様をトップとした、我ら魔物たちの王国の名前ですわ」
「聞いてないんだけどそんなこと……」
いや、とくま子は思い出す。
そういえば先日、王都がゾンビであふれた時、チャトゥラが勝手にそんなことを宣言していたような……。
「でもあれって、キリエは承認した訳じゃないんだろう?」
「いいえ! キリエ様はおっしゃいました。みんなで仲良くできる、国を作ると!」
「そんなこと言ったかねえ……」
言っていない。
ただ仲良くしようとはいつも言ってる。
……つまり。
「あんた……勝手に暴走してないかい? チャトゥラ?」
「失礼な! 私こそが、キリエ様を一番よく理解しているのです……!」
「どうだか……んで?」
シンドゥーラが先日あったことを話す。
「なるほど……つまり、ほかの魔王がキリエにちょっかいかけてきたと?」
「ええ、キリエ様に刃向かうなど、万死に値する! 報復をせねば!」
「つっても、あのキリエだよ? 暴力を許すとは、どうにも思えないけどね」
ううん……と乱暴者のアニラすらも、くま子の言葉には納得してしまった。
「それに、こういうのってキリエの意見なしで決めて良いもんなのかい?」
「しかし……キリエ様に負担が」
「勝手に暴走して、国民が傷つく方が嫌がるんじゃないかい?」
ううん……とチャトゥラが黙りこくる。
「しかしよぉ、攻めねえと、またやってくるぜ、ああいう手合いはよぉ」
「まあ……それはそうかもしれないね」
アニラの言うことには一理ある。
所詮この世は弱肉強食だ。
キリエがいかに平和主義を謳っていようと、力を持った強者は、必ず弱者を食い物にしてくる。
野生に身を置くくま子……いや、魔物だからこそ、そこは理解できる部分だった。
「守ってるだけじゃ駄目だね。敵はこっちを標的にしたようだし」
「その通りです! キリエ様のために、こちらから攻める!」
「でも当てはあるのかい?」
チャトゥラに尋ねると、シンドゥーラがうなずいて答える。
「わたくしたち空の民が、敵の位置を今、割り出してる最中ですわ」
「じゃあ……わかり次第、まずは敵の数の把握。戦力を整えて、勝てそうなら攻める。駄目そうならキリエに伺いを立てる。そんな感じかね」
「「「はい!」」
……くま子は内心で首をかしげる。
フェンリル、グリフォン、魔王種の古竜。
そうそうたるメンツのなかで、どうしてただのクマの魔物が、仕切っているんだろうか……と。
『やはりぬしをよんで良かったのじゃ。どうにもそこの駄犬では、視野が狭くなりがちでな』
「こういうのあたいに向いてないんだけどね……」
そのときだった。
鳥の魔物がシンドゥーラの上空で、ぎゃあぎゃあと鳴き声を上げる。
シンドゥーラは険しい表情になると、みんなに告げる。
「キリエ様が消えたそうです!」
「「「なぁにい!?」」」
そこへ……どどどお! となにかが近づいてくる。
『かーちゃんかーちゃん大変だよおぅ!』
「くま吉!」
いつもキリエと一緒に居る、魔物の子供たちが、会議の場へとやってきた。
「どうしたんだい?」
『キリエ姉ちゃんが消えちまったんだ! いつもみたいに!』
「またかいあの子はもぉおおおおおお!」
一見おしとやかなキリエだが、高い確率で、勝手にふらっと出て行ってしまうのだ。
「行き先は……わからんね?」
『うん、いつもみたいに、ぱぁ! と光って消えちまった』
「はぁもお! 幼児かよあの子はもぉお!」
子供を育てたことのあるくま子からみれば、ふらっとどこかへ行ってしまうキリエは、赤ん坊のようなものに見えるのだった。
「どうするチャトゥラ?」
「あばばばば……キリエ様……あばばばば」
「居なくなった途端これだ……」
聖十二支のリーダーが聞いてあきれる始末だ。
『どうするんじゃくま子?』
じっ、と聖十二支をふくめ、魔物たちの視線がくま子に集まる。
……だから、なんでこんなただのクマに判断を任せるのだろうか。
まあ、キリエがいなくなって、困るのはくま子もなのだが。
「シンドゥーラ、空の民に命令して。キリエを全力で探すんだ」
「かしこまりましたわ!」
グリフォンの姿になると、シンドゥーラが飛び去っていく。
「アニラ。あんたも飛べるんだろ? 捜索隊に加わりな」
「なんでおれさまが他人の命令に従わねば……」
「キリエがいなくなったらいやだろう」
「ちっ!」
竜の姿になると、飛び去っていく。
「残りのメンツは待機だよ。魔物はあんまり外をうろつけないんだ。逃げる手段がないやつらは残ること」
「あばばば……」
「チャトゥラ、あんたはキリエの残り香をたどって探せないのかい?」
「あばば……」
「駄犬!」
「ぎゃん!」
くま子がチャトゥラの尻を蹴飛ばす。
「さっさと探す!」
「は、はい……!」
チャトゥラはフェンリル姿になって飛び出す。
残されたくま子は大きくため息をつく。
「消えるたびに探すんじゃ、面倒この上ないよ……」
『魔道具でもつけるかの?』
「まどうぐ?」
『うむ。人間たちが作る特別な道具のことじゃ。様々な力を発揮する』
「でもそれって誰が作れるんだい?」
『遠く離れたドワーフの国の連中ならば、可能じゃな』
樹木王は説明する。
奈落の森を擁した、ゲータ・ニィガ王国。
そこから南東にずっと行った先に、いつも氷に包まれたドワーフの国が存在するという。
ドワーフたちは手先が器用で、魔道具の作成は朝飯前とのこと。
「頼みたいけど、ツテなんてないしねえ」
『うむ……そもそもドワーフは頑固一徹。あまり他人を信用しない。ましてや魔物の頼みなんて聞くわけがない』
「なにかきっかけがあればいいんだけどね」
『うむ……』
数時間後。
シンドゥーラが血相を変えて戻ってきた。
「大変ですわ!」
「どうした、キリエの居場所がわかったのかい?」
「ええ! 空の民を総動員し、わかったことがあります! キリエ様は……今海外におります!」
「か、海外だって……!?」
シンドゥーラが神妙な顔つきで言う。
「行き先はドワーフ国、カイ・パゴス! キリエ様は単身で、氷雪に包まれし、ドワーフの国へ行かれてしまわれたのですわ!」
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