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44.鬼姉妹、キャラと力



 奈落の森に、新しい仲間が加わった。

 姉鬼の美緋羅みひらさんと、妹の緋色ちゃんだ。


 樹木王トレント・キングさんの前に、森の民たちが集まっている。


「キリエ、一体何だってんだい? この集まりは」


 くま吉君のお母さん、くま子さん(人間の姿)が、民達を見渡していう。


「新しい仲間ができたので、その紹介をと思ってね」

「ほぅ……キリエよ。おれさまという女がありながら、それにあきたらず、他の女を作ったのか? んんぅ?」


 くま子さんの隣には、露出が若干多い、ナイスバディなお姉さん(ドラゴン)、アニラさんが不機嫌そうに立っている。


「キリエはおれさまの女だというのにな!」

「ふざけるなトカゲ!」


 アニラさんにかみつくのは、チャトゥラさん。

 この二人はとても仲が良いので、しょっちゅうケンカしてしまうの。


「誰が貴様のキリエ様だ! キリエ様はこの森の象徴! 断じて貴様のものではない!」

「あーうざ。犬がなにかほざいている」

「なんですとー!」


 ふたりとも仲が良いのはいいんだけど、ケンカしていると話が進まないわ……どうしよう……。

 するとくま子さんがふたり近づいて……。


 ごんっ! ごんっ!


「「いっつぅ~……」」

「キリエの話の邪魔すんじゃあないわよ。ったく」


 くま子さんが拳をにぎりしめながらいう。

 彼女のげんこつが、ふたりの脳天に直撃したのだ。


『うわわあ……いったそー。母ちゃんのパンチは、岩も砕くからよぉ』


 がくがく、とくま吉くんが怯えていた。

「くま子さん、ありがとう。でも、暴力はいけないわ」


 そうでもしないと、この二人のおしゃべりが終わらなかったこと、それにくま子さんが手加減したことは、十分わかってるのだけど。


 それでも、暴力は……嫌いだ。


「いえ、我々もおしゃべりが過ぎました」

「す、すまんなキリエ……怒らないでくれっ!」


 しゅん、と反省するチャトゥラさんとアニラさん。


「怒ってないわ。でも、みんな仲良くね」

『『『はーい!』』』


 さて。

 やっと紹介ができるわ。


「じゃあまず……美緋羅みひらさん」

「うむ。拙者でござるな!」


『拙者?』『ござる?』『ぶしー?』


 くま吉君たちが、美緋羅みひらさんに視線を向ける。

 長い黒髪は美しく、赤い瞳はルビーのよう。


 すらりと背が高く、かおつきは中性的

、どちらかといえばやや男性かしら。

 でも、その大きな胸をみれば、女性であることが一発でわかる。


 そして、額には1本のツノが生えている。

 バッ……! と美緋羅みひらさんは頭を深々と下げる。


「拙者、このたび森の仲間に加えてもらった、美緋羅みひらと申すもの。一番下っ端でござるゆえ、なんなりと雑事をお申し付けくだされ」


『しゃべり方ぶしっぽくてかっけー!』『ぴゅいい! ぐーちゃんしってる、ぶしって刀振るうやつ!』

『かたなー』


 武士も刀も、たしか極東っていう、東の果てにある島国で見られるものだわ。


「拙者の得物は剣でござる。先代ミヒラ殿より、手ほどきを受けた【虎神一刀流こしんいっとうりゅう】を使うでござる」


 虎神一刀流こしんいっとうりゅう

 すると樹木王トレント・キングさんが説明する。


「かつてこの地に存在した、その当時最高の剣術使いが使った剣じゃな」

「へえ! そんな凄い剣術を使えるなんて、すごいわ!」


 いやはや、と美緋羅みひらさんが照れたように頭をかく。


「といっても、拙者は先代と比べるとたいしたことないでござる」

『ねーねー美緋羅みひらの姉ちゃんっ。その剣術みせておくれよっ』


 そういって、くま吉君が、近くに置いていた木の棒を、美緋羅みひらさんに渡す。


「あい、わかり申した。それでは……未熟ながら……」


 すぅ……はぁ……と美緋羅みひらさんが深呼吸する。


虎神一刀流こしんいっとうりゅう……【あぎと】!」


 美緋羅みひらさんは木の棒を素早く横一閃させる。

 すると……。


 ずばばばばぁああああああああああああああああああああん!


『『『うわーー!』』』

「森の木々が粉々に砕け散っていく! さながら、巨大な獣が木をかみ砕きながら進むかのごとくじゃ!」


 森の木々が一直線に消滅していく。

 その先にある……山すらも、その中腹をくりぬかれてしまった。


「…………」


 ぺたん、とわたしはその場に尻餅をつく。

 あ、あわわ……な、なにこれ……?


「おお! 拙者の剣が! 先代に追いついてるでござるー!」


 ドン引きする森の民たちをよそに、美緋羅みひらさんは無邪気に喜んでいた。


「な、なんじゃ今のはっ?」


 樹木王トレント・キングさんが尋ねると、美緋羅みひらさんが答える。

「え? 何と申されても、単なる虎神一刀流こしんいっとうりゅうの奥義でござるが?」

「あんな山を砕くほどの威力の、剣術などあるわけなかろうが!」

「? しかし、虎神一刀流こしんいっとうりゅう開祖、白猫はくびょう殿は、これくらいできたと伝承がありますぞ?」


 え……こわい……なにそれ……あわわ……。


「拙者は未熟故、開祖のような剣が使えなかった。しかし! キリエ殿に仕えたおかげで、ぱわーあっぷしたのでござる! 虎神一刀流こしんいっとうりゅうの、本来の力を使えるようになったのでござるー!」 

「へ、へえ……」


 あれが本来の力……。

 その、開祖の白猫はくびょうってひと、相当な剣術使いだったのね……。


「キリエ殿に名前をもらい、進化したおかげで、開祖の剣をそのまま再現できるようになったでござる」

「はぁ……」

「年々衰退する、虎神一刀流こしんいっとうりゅうの門下生たちを、先代ミヒラ殿は嘆いておられたのでござる……だから、うれしいでござる!」


 う、ううーん……。

 ま、まあ……ノアール神様が、こうなるべきだって思って、力をお与えしたのだったら、わたしが口を挟む余地はないけども。


「あねうえ、すっげー!」


 緋色ちゃんが無邪気に笑いながら、お姉ちゃんである美緋羅みひらさんに抱きつく。

 ふたりはとっても仲良しさんなのね。


 ……ん?


「どうしたの、アニラさん?」


 さっきからアニラさんが、鬼姉妹をじっと見つめて黙っていた。

 アニラさんは強い人がいると、すぐに腕試ししたがるのに……。


「あやつ……やりおるなと思ってな」

「ああ、美緋羅みひらさん? そうですね、あんなに強いとは思って……」

「そっちじゃあない」


 ふるふる、とアニラさんが首を振る。

 そっちじゃ、ない?


「どういうこと?」

「姉鬼はたいしたことない。問題は……妹鬼のほうだ」

「妹……緋色ちゃん?」


 こくん、とアニラさんがうなずいて言う。


「緋色とかいうガキは……おれさま、そしてキリエ、おまえと同類だ」

「同類……って、まさか?」


 アニラさんが険しい表情のまま、緋色ちゃんを見据えながら言う。


「あの妹鬼は……魔王種だ」

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