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43.鬼姉妹も仲間入り、そして名付け参加



 わたしは河原で、怪我してる鬼の姉妹を発見。

 ノアール神様のお力で、事なきを得るのだった。


 お腹がすいて気絶してしまった、姉鬼さんのため、わたしはご飯をあげようと、旧楽園デッドエンドへ向かう……。


樹木王トレント・キングさん、こんにちは」


 森の奥深く、1本の立派な大樹が佇立してる。

 この方は、樹木王トレント・キング


 ここ、奈落の森のことを古くからよく知ってる方だ。

 そして、旧楽園デッドエンドの番人でもある。


『うむ……む! き、キリエよ……くま吉の背に載せておるのは、よもや鬼では……?』

「あたしもいるぜっ!」


 わたしの胸の中にすっぽりと収まっている、妹鬼ちゃんが主張する。

 小柄で、赤ちゃんみたいで可愛いわ。


 でもこんなはっきりしゃべるのに、こんな小さいのね。


『なんと……鬼……キリエよ。それはまずい。今すぐ森から追い出したほうがよい』

「…………そんな」


 どうして、そんな悲しいことを言うのだろうか。

 でも、待って。


 樹木王トレント・キングさんは長生きしている。

 多分、鬼について色々知っているのだろう。


 わたしは彼女たちのこと何も知らないわ。

 そのうえで、樹木王トレント・キングさんを否定するのはよくない。


「どういうこと?」


 そのときだった。


「キリエ様……!」


 上空から、銀髪の犬耳男子、チャトゥラさんが降ってきた。


 彼は聖十二支デーバという、先代聖魔王エレソン様から力と名前をもらった、強い魔物だ。

 ……しかしどうしてか、彼は警戒心を強めていた。


 わたしの前にチャトゥラさんが立つと、牙を剥いて、姉鬼さんをにらみつける。


「キリエ様、この鬼に酷いことされておりませんですか……?」

「え、ええ……」


 怒りのあまりか、彼の髪の毛と尻尾が逆立ってる。

 わたしの返答を聞いて安堵の息をつくも、その瞳は鋭く細められ、油断なく姉鬼さんを見ていた。


 樹木王トレント・キングといい、チャトゥラさんといい、どうしてそこまで警戒するのかしら……?


「手負いのようです。今なら倒せます!」

「倒す!? 冗談じゃないわ! 駄目よチャトゥラさん!」


 わたしは姉鬼さん(正確には彼女を乗せている、くま吉君の前)に立って手を広げる。


「この鬼さんは、とても衰弱している! すぐにご飯を恵んであげたいの!」

「しかし……! こいつは人食いの鬼ですよ!?」


 くま吉君も、樹木王トレント・キングさんもそう言っていた。でも……。


「なりません。お腹をすかせ、弱っている方を討つなんて、神も、そしてわたしも許しません」

「ですが……!」


 ああもう、全然食い下がってくれないわ。

 わたしの身を案じてくれているのは凄く、凄く伝わってくる。


 それでも……。


「いいから、『お座り』!」

「きゃううん!」


 とっさに、チャトゥラに向かってそう言ってしまった。

 知り合いの犬をペットとして飼っている子から教えてもらったの。


 チャトゥラさんは、わたしが命じたとおり、ぺたんとその場にしゃがみ込んだ。

「う、動けない……! 樹木王トレント・キング、これはどういうことですか!?」


 動けない……?

 チャトゥラさんは確かに、ぐぐぐ、と体に力を入れようとしてる。


 でも、それができないでいるようだわ。

『ううむ……おそらく、キリエの力じゃろう。相手の動きを阻害する、なんらかの呪術的な力が働いていると思われる……フェンリルの動きを阻害するとは、さすがはキリエ』

「何を感心しているのですか!? キリエ様の危機なのですよ! ぐぬ……ぐぬぬうぅう!」


 どうやら、ノアール神様がわたしに力を貸してくれているらしい。

 やっぱりね。


「大丈夫です、チャトゥラさん。わたしと、そして神を信じて」

「キリエ様……」

「神の力があなたが蛮行に及ぶのを止めているのよ。姉鬼さんはきっと良い子なのよ。だから、チャトゥラさんが傷つけないようにって、引き留めてるんだわ」


 きっとそうに違いないわ。


『いやキリエ、おぬしの力なんじゃが……』

「責任はわたしが取ります。だからこのこたちに食事を」


 わたしが、森の運営担当(片腕)である、チャトゥラさんにお願いをする。

 彼はとても嫌がったあとに……小さく息をついた。


「……わかりました。キリエ様が、そうおっしゃるのでしたら」


 よかった。話し合いで決着がついて。

 ケンカ、暴力は本当によくないものだから。


 ややあって。


「かたじけない、キリエ殿。なんとお礼を申してよいか……」


 場所は変わって、旧楽園デッドエンド内にある教会。

 その食堂にはわたし、チャトゥラさん、樹木王トレント・キングさん(精霊の姿)、そしてくま吉君たち。


『鬼の姉ちゃんも妹ちゃんも、よく食うね。スラちゃんが保管してた、食べ物木の実、もう全部なくなっちまったよ』


 食べ物木の実とは、蓋を開けると中にシチューなどの、ご飯が入ってる特別な木の実だ。

 わたしが祈ることで、ノアール神さまが、森の子らのために作ってくださる。


「森の食料がなくなったら、貴様らのせいだからな、鬼どもめ」

「まあまあ。祈れば直ぐに木の実はできるから」


 チャトゥラさんはまだ警戒心を解いていない様子。

 一方で……。


「へえ、あんたくま吉っていうの? 男の子なのに、可愛い名前だねっ」

『おん? なんだおまえ、おいらをからかってるのか?』

「お? なんだやんのかー?」

『ふんっ。赤ちゃんをいじめるほど、このくま吉、落ちぶれてないやいっ』

「赤ちゃんじゃないもんっ」


 とくま吉君と妹鬼ちゃんは、仲良くやっている様子。

 ふふふ。


「妹が他者になつくなんて……キリエ殿のおかげでしょう」

「わたし?」

「はい。キリエ殿という慈悲深く、素晴らしい御仁の配下の熊。それゆえ、妹も安心しておられるのでしょう」

「おねえちゃーん!」


 妹鬼ちゃんがハイハイしながら近づいてきて、わたしの足下へとやってきた。

 彼女を抱きかかえると、甘えるように、すりすりしてくる。


 なんと愛おしく、かわいらしい命だろう。

 とても人食いの化け物には見えないわ。

「腹が膨れたのでしょう。さっさと出て行きなさい」


 チャトゥラさんはどうしても、鬼を追い出したいようだわ。


「駄目よ。ちゃんと話聞いてあげなさい。何か事情があるんだと思うし」

「きゃううん……」


 チャトゥラさんもわるい子じゃないんだけどね。

 ちょっと警戒心に欠けるわたしの代わりに、外敵へ目を光らせてくれているのはわかってるから。


「ありがとうございます、キリエ殿のおっしゃるとおりでございます」


 そう言って、姉鬼さんは事情を語り出す。


「我ら鬼族はご存じの通り、人食いの化け物として、いにしえより人、魔物たちからも忌み嫌われておりました」


 でもそれは、昔の話だそうだ。

 今の鬼は昔ほど気性が荒くないんだって。


「鬼族の長に、【ミヒラ】殿が就任してから、鬼たちは人を襲わなくなりました」

「ミヒラですって……!」


 がたたん、とチャトゥラさんが慌てて立ち上がる。

 ミヒラ……?


「だれ?」

聖十二支デーバの一人でございます」

「まあ……じゃあ、鬼族の長さんも、エレソン様の仲間だったと」


 聖十二支デーバは12体いる。

 わたしが知っているのは、チャトゥラさんシンドゥーラさん、そしてアニラさん


「ミヒラ族長は聖十二支デーバがひとり、寅神将と言っておりました」

「寅……?」


 どうして鬼で寅なのかしら……?

 まあそれはおいといて。


「ミヒラさんは今どこに?」

「……殺されました。他の、魔王に」


 ……魔王。

 それはかつて存在した、邪悪の王の名前……ではない。


 魔王種、という、最上位の魔物の総称らしい。

 この世界にはかなりの数の、魔王が存在するとのこと。


 聖魔王わたし、そして竜魔王アニラさんもそうだ。


「魔王って……他の魔物を襲ったりするものなの?」


 こくん、と樹木王トレント・キングさんがうなずく。


「うむ。皆がキリエのように、穏やかで平和的なやつらではない。むしろ、凶暴な連中の方がおおいほどじゃ」

「どうして……魔王は力を持っているのに、他人を傷つけるのかしら……」


 強い力があるのなら、それを弱い人たちのために使ってあげる。

 そういうものじゃないの……?


「キリエ。それはおぬしが特別に優しいからじゃ」

「そのとおりでございます! キリエ様は素晴らしい! 魔王はキリエ様ただひとりでモガモガ……」


 くま吉君が後ろから、チャトゥラさんの口を押さえる。


『話進まねーから』

「もがー」


 わたしは姉鬼さんを見やる。


「……ミヒラさんはその後どうなったの?」

「魔王に襲われ、里が壊滅しかけたとき、我ら鬼の子たちを逃がしてくださりました。一人残り戦ったので、おそらくは……」


 死んでいる、か。

 そんな……かわいそう過ぎるわ。


「仲間達は散り散りになり、残ったのはわたしと妹だけ。敵から逃れるために川に飛びこみ……」

「そして今に至る……と」

「はい。拙者と妹が助かったのは、キリエ殿のおかげです。感謝しても仕切れません。本当にありがとうございました」


 姉鬼さんは膝をついて、わたしの前で土下座する。

 そ、そんなっ。


「土下座なんてしなくていいわ。わたしはただ、神の御意志に従っただけ。あなたが助かったのは、あなたの普段の行いがよくて、神さまに評価されたからよ」


 そうでなければ、わたしが姉鬼さんのもとへ飛べなかった。


「ああ、なんと心清らかなお方でしょう……! 人食いの鬼を怖がらず、平等な命として接してくれるどころか、命さえも助けてくれるなんて……!」


 神に仕える女として、当然のことをしただけ。

 それなのに、やたらと姉鬼さんは褒めてくる。


「それで……貴様はこれからどうするというのです?」


 じろり、とチャトゥラさんが姉鬼さんをにらみつけながら尋ねる。


「人食いの鬼である貴様を、キリエ様の元へ置いとくわけにはいかないですぞ?」

「……承知しております」


 追い出すって言うの……そんなの、駄目よ。駄目に決まってるわ!


「姉鬼さん、妹さんとともに、うちにこない?」

「! キリエ殿のおそばに仕えてもよろしいということですか?」

「ええ、もちろん」


 だってかわいそうだわ。

 帰る場所も、寝る場所も、食べるものすらないなんて。


「ああ……なんとお優しい方……」

「キリエ様! 私は反対です! 人食いの鬼を入れるのは許せません! キリエ様の身に危険が及んだら……!」


 ううん、チャトゥラさんは反対してるようね……。

 どうすればいいかしら……。


 そうだわ!


「姉鬼さん、あなたに、名前をつけてあげる」

「名前でござるか? よいのですか?」

「ええ。あなたには、美緋羅みひらの名前をつけてあげます」


 なるほど……と樹木王トレント・キングさんがうなずく。


「名付けによる主従関係を結ぶことで、主であるキリエに危害を及ばせぬようにしているのだな?」

「なる……ほど、先ほど私が、キリエ様の命令に強制されたように、ですね」


 ……何を言ってるのかしら、樹木王トレント・キングさんとチャトゥラさんは。


「ミヒラさんは、聖十二支デーバだったのでしょう? つまり仲間。なら、美緋羅みひらさんも仲間。でしょう?」

「「…………」」


 なぜだか知らなけど、複雑そうな顔をしているチャトゥラさんたち。


「ねーねー! あたしはー! あたしもお名前ほしーのー!」


 美緋羅みひらさんの妹さんがそう主張する。


「じゃあ……緋色ちゃんはどう?」

「ひーろ! かっけー! きにいりました!」


 そのときだった。

 カッ……! と鬼姉妹の体が光り輝くと……。


 そこには、黒髪の、イケメン風な見た目の美女。

 そして、黒髪に赤毛のメッシュの入った、活発な見た目の10歳くらいの女の子が立っていた。


「こ、これは……! キリエの力で、鬼が存在進化し、上位種である大鬼へなったのじゃ!」


 樹木王トレント・キングさんは鑑定スキルを持っているため、ステータスを確認できる。

 美緋羅みひらさんたちが、進化したようだ。


「ありがとうございます、キリエ様! 我らを仲間に加えてくれただけでなく、名付け、進化までさせていただけるなんて……!」


 黒髪の美女、美緋羅みひらさんは涙を流しながら、わたしの前で膝をついて頭を下げる。


「この美緋羅みひら! キリエ殿のため、身を粉にして働く所存でございます!」


 ううん、別に身を粉にしなくてもいいんだけど……。

 チャトゥラさんは実に嫌そうな顔をしながらも、


「まあ……聖十二支デーバが増えるのは、良いこと。対魔王のカードは、多い方が……いいですね……」


 と渋い顔をしながらも、二人を受け入れてくれるようだった。

 こうして、新たに鬼の美緋羅みひらさんと、緋色ちゃんが仲間になったのだった。 

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