42.鬼姉妹との出会い
連載再開しました!
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わたしの名前はキリエ・イノリ。
天導教会に所属する聖女……だった。
けれどある日、王太子から突然追放処分を喰らう。
その後、王太子の策略で、奈落の森と呼ばれる危険地帯に放り出された。
けれどそこで、わたしは魔物さんたちが、世間で言われてるよりも、わるい子らじゃないことを知る。
たくさんの魔物さんたちと出会い、そしてかつての森の長、エレソン様と出会った結果、わたしは新たなる森の長、聖魔王となる。
その後なんやかんやあって、わたしは王都を救い、仲間達とともに、奈落の森へと帰ってきたのだった……。
★
王都での騒動から二週間あまりが経過した、ある日のこと。
わたしはふと目を覚ます。
『んがー』『ぴゅいー』『すらー』
隣にはもふもふとした感触。胸には高級羽毛布団のような暖かさ。そして首元にはプディングのような柔らかさを感じる。
「ふぁああ……よく寝たわ」
体を起こすと、わたしの周りには、3匹の魔物さんたちがいるのがわかる。
『しちゅー……うめー……むにゃむにゃ……』
このちょっと小ぶりなくまは、くま吉くん。
この森にきて初めて知り合ったくまの魔物の息子さんだ。
『ぴゅう~……ぴゅりいい~……ぴゅう~……』
丸くなっている小さな鳥……のような魔物。
このこはグリフォンのぐーちゃん。
聖十二支の一匹、シンドゥーラさんの娘さんである。
聖十二支とは、初代聖魔王エレソン様が名前をつけた、強力な12体の魔物……なんですって。
『むにゃーすらー』
そして最後に、スライムのスラちゃん。何でも食べれるくいしんぼうな、スライムの赤ちゃん。
わたしは大体このメンツと一緒に居ることが多い。
この子らは他の魔物さんたちより、わたしによく甘えてくるのである。
ちっちゃい子供だからかしら?
わるい気はしない。かわいいなって思うわ。恐いとはまったく思わない。
大体毎日いっしょに寝てるわ。
「さて……朝のお祈り、しないとね」
わたしは服に着替えて部屋を出る。
古めかしい教会のなかを、わたしはひとり歩く。
ここはエレソン様が使っていたという、小さな教会。
部屋がいくつかあって、ここでエレソン様も暮らしていたのがわかる。
わたしは礼拝堂へと向かう。
そこには、ノアール神の像がある。
わたしが信じる神、ノアール様。
慈悲深く、聡明な神だとうかがっている。
地上に降り立ったノアール神は、その凄い魔法の腕で全てを解決してくれたそうだ。
その結果、飢えることも病むことも無い、地上の楽園ができたとか……。
ああ、素晴らしい。
やっぱりノアール神様は凄い。
っと、そうだ。お祈りだ。
「ノアール様。今日も一日どうか、平和であるように。見守っていてください」
と、そんな風に祈っていたそのときだ。
わたしの体に、何か強い力が流れ込んでくる。
この感覚を、わたしは知っている。
「ノアール神さま、どこかに、神の救いを求める子がいるのですね?」
神さまは常に地上にいる我らを見ている。
だが基本的に神は天にいて、地上に降りることはほとんどない(というかほぼ絶対ない)。
そこで、神の意志を聞いて、地上のいざこざを収める存在が必要となる。
それが、聖女。つまりはわたしだ。
わたしはノアール神のお告げを受けたのだ。
神を求める弱者を、救ってきなさい、と。
「ここは……?」
目を開けると、そこは森の中。
多分奈落の森のなかだろう。
そして近くには川が流れている。
大きな石に、誰かがもたれかかっていた。
「人……? いや、違う。あれは……ツノ?」
鎧? のようなものを着込んだ人が、石にもたれかかっている。
だがその額からは1本の立派なツノが生えていた。
「! 怪我してるわ! 大変!」
倒れてるツノの人は、片腕と片足が欠損していた。
残っている腕で、何かを大事そうに抱えている。
「もし! 大丈夫ですかあなたっ!?」
わたしがその人の肩を揺する。
赤い髪の、美しい人……人? いや、違う。
人間のような見た目だけど、頭からはツノが生えてる。
また、肌も少し赤銅色していて、人間じゃ無いことがわかった。
だから、なんだ。
わたしは誰であろうと、傷付いてるものを、見過ごせない。
神から強い力をもらった。
この力は、地上に住まう全ての命を救うため。
そのために、ノアール神様がわたしに与えてくださったのだと確信している。
だから、この子が人間だろうとそうでなかろうと、関係ない。
「神さま。どうかこの方を、お救いください」
わたしは目を閉じて強く祈る。
その祈りはすぐさま届けられた。
強い力の波動を感じる。
やがて、目を開けると……
「う……」
「大丈夫、あなたっ?」
「……ああ、かたじけない」
欠損してた部位は元通り、怪我も全回復したわ。
するとこの子、かなり美形であることがわかる。
切れ長の瞳に、綺麗な肌。
口から、尖った牙が除く。
「! そうだ! 妹! 妹を助けてあげてくれ! 拙者よりも妹のほうが重体で!」
大事そうに抱えていた包みを、わたしに突き出してくる。
けれど……。
「ふぁあ……あねうえ?」
「! 生きているっ? 生きてるのだなっ!」
あねうえ……ということは、この子は女の人なのかしら?
男の子っぽい、カッコいい見た目してるのだけど。
「うんっ。あれ、おかしいな? ぜんぜんむねがくるしくないよぅ!」
「本当か!?」
「うん! せきもでないや!」
包みの中にはまだほんと赤ん坊に見える、小さな子をかかえてる。
その子もまた、額から角が生えていた。
「よかった……! ああ、良かった……!」
「あねうえー?」
ぎゅーっ、と妹をこの子が抱きかかえる。
だが直ぐに……お姉さんの方は気を失ってしまった。
「! 大丈夫ですか!?」
ぐぅ~~~~~~~~~…………。
という、大きな腹の虫がないていた。
多分……お腹すいていたのだろう。
それに川に流されたのかしら。
力尽きて今に至る……みたいな。
『ねーちゃーん!』
どどどど! とくま吉くんが、こちらにかけつけてきた。
その頭の上には、ぐーちゃんとスラちゃんもいた。
『もう! 姉ちゃんすぐにいなくなるんだからっ。出かけるときは一言言ってくれなきゃ、おいら母ちゃんにぶっ殺されちゃうよ!』
ぷんすか怒ってるくま吉君。
申し訳ないな。
「ごめんね。でも、救いを求める声が聞こえてね」
『ふーん……そいつが?』
倒れているお姉さんを、鼻先で指して言う。
「そう。くま吉君、背中にこの子乗せてあげて」
『まーキリエ姉ちゃんが言うならいいけど……こいつ、鬼だよ?』
鬼……?
「なに鬼って?」
『樹木王が言っていた。こわーい、人食いの魔物だってさ』
人食い……?
そんなわるい子には見えなかったわ。
妹さんが助かって、泣いて喜んでたのよ……?
「ねえちゃんは、ひとくいじゃないやい! やさしいんだい!」
おくるみに包まれた、鬼妹ちゃんが、怒ったように言う。
わたしは妹ちゃんを持ち上げて、笑いかける。
「そうね。わるい人……ううん、わるい鬼には見えなかったわ」
「でしょー! お姉ちゃんの言うとおり!」
家族を大事にしようとするひとに、わるい人はいないと思う。
それは魔物だろうと、人間だろうと関係ない。
『むぅう……キリエ姉ちゃんがいうなら信じるけどさ』
くま吉くんが姉鬼さんの襟首をくわえて、自分の背中に乗っける。
わたしはその隣を、いっしょに歩いて行く。
『これからどうするの?』
「この子達を連れて帰るわ。まずは食事ね」
『チャトゥラ兄ちゃんと母ちゃん、許してくれるかなぁ?』
鬼が人食いとか思われてるから、気にするのかもね。
でも大丈夫。
「話せばわかってくれるわ」
『そうかなぁ~……ま、キリエ姉ちゃんがそういうんだったら、大丈夫か!』
こうしてわたしは鬼の姉妹と出会ったのだった。
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