41.一章エピローグ
《キリエSide》
王都でのゴタゴタを、わたしは終わらせた。
「さて、皆さん、帰りますよ」
『『『はーい!』』』
森の民たちとともに、帰ろうとしたそのときだった。
「お待ちくだされ! キリエ様……!!!!!!」
騎士を数名引き連れて、なんだか偉そうな、見たことある顔が近づいてきた……。
って。
「確か、国王陛下……?」
この国の王様だわ。
なんどか見かけたことがある。
彼は私の前に跪くと、深々と頭を下げて来たのだ。
え、ええっ? な、なに……?
「キリエ神さま、我々をお助けくださり、誠にありがとうございます!」
「は、はぁ……」
またキリエ神って言われてるわ。
神様の名前は、ノアール様なのに……。
「わたしは何もしていません。全部が解決したのは、王都の民、そして森の民たちが、神に一生懸命、平和を祈ったからだと思いますよ」
今回の大規模な奇跡はわたし一人では起こすことが決してできなかった。
すべては神の思し召しである。
「キリエ神さま、どうか、どうか王都へ戻ってきてはくれませんか?」
「戻る……」
「はい! 今後もこの国の繁栄のため、どうか! どうかこの国にとどまってくだされ! 仕事は何もしなくて良いです。あなた様のために神殿も設けましょう! 手伝いもよこします、永久国賓として、あなた様を迎えましょう!」
「え、えっと……じゃあわたしは何をすれば……?」
「何もしなくて良い! ただ、平和の象徴として、この国にいてくだされば!」
ちら、とわたしは森の民たちを振り返る。
彼らはそわそわしていた。
……大丈夫よ。わたしの答えは、もう決まってるから。
「残念ですが、それはできません」
「なっ!? ど、どうしてですか!?」
「わたしにも、守るべき民がいるからです」
ここを追放された当時とは違って、今のわたしは、たくさんのものを背負っている。
チャトゥラさんたち魔物。
そして……彼らを率いていた、初代聖魔王エレソン様の遺志。
「もう……あの森が第二のふるさとなのです。森を離れることはできません」
「し、しかし……」
わたしの前に、三人の美男美女が並び立つ。
それぞれ、チャトゥラさん、シンドゥーラさん、そしてアニラさんだ。
「主のご意思を聞いたでしょう?」
「キリエ様は我ら森の民にとって必要不可欠な存在」
「てめえらんとこに渡すわけにゃ、いかねーな」
ぎんっ、と三人がにらみつけると、国王はおびえた表情で尻餅をつく。
「三人とも……お座り」
「「「きゅうん……」」」
わたしを思ってくれるのは嬉しいけど、争いはよくないわ。
「し、しかしキリエ様……この国の守りはどうすれば良いでしょう。街を守る結界をどう維持していけば……」
そのときである。
「それは問題ありませんよ、陛下」
「イオン司祭様……」
元上司の司祭様が、微笑みながら近づいてきた。
「どういうことだ……? イオン司祭?」
「ご覧ください。王都を包み込む、あの、美しい結界を」
……ん?
あれはわたしが、皆さんの力を借りて作った、神聖結界。
「調べた結果、あの結界は永久不滅。つまり、今後は、キリエ神様の張ってくださった結界が、王都の民をずっと守ってくださるのです」
「な、なんとぉ!? 永久不滅の結界とは!? そんなこと……可能なのか……?」
「不可能です。結界は魔法の一種、魔力がつきれば摩耗し、やがて消滅します。永久不滅の結界など、おとぎ話のような存在……いえ、奇跡のような代物といえましょう」
しかし、その結界は実在してる……らしい。
「やはりキリエ神様は、素晴らしいお方です。前代未聞の、すさまじき結界を張って、われら王都の民が、末永く平和でいられるように、慈悲をかけてくださったのですから」
……え、ええっと……。
イオン司祭様?
なんでそんな、熱烈な視線をわたしに向けてくるのでしょう。
そして、さっきから様様様……って。
「まるで、わたしが神様みたいじゃないですか」
「? 違うのですか?」
「違いますよ!」
わたしは神に仕える身であって、神自身じゃないの!
けれどイオン司祭様は微笑みながら言う。
「私は天導を抜けることにしました」
「は? え、天導教会を……? どうして……」
「これからは、新しい神をあがめることにしたのです」
……へえ、新しい神。
そうなんだ……って、なんでわたしをじーっと見つめてるんだろう。
ものすっごく嫌な予感が……。
「そ、そう……じゃ、じゃあわたしはこれで! 帰るわよ、みんなっ」
「あ! キリエ神様! お待ちくだされ!」
イオン司祭様がわたしを呼び止めようとする。
けど、わたしは振り返らず、森の民たちと駆け出す。
「ありがとうキリエ神さまー!」「これからはキリエ神さまに毎日お祈りします~!」「キリエ神さまばんざーい!」
わたしたち森の民は王都の入り口まで来て、振り返って、言う。
「わたし……神様じゃありません!」
堂々と、胸を張って、わたしは宣言する。
「森の民をまとめた、聖魔王エレソン様の意志を継ぐ……新たなる魔王。二代目聖魔王・キリエ・イノリ、です!」
その瞬間だ。
わたしの背中から……。
「な、なにこれぇ……!?」
突如として、巨大な翼が生えたのである。
しかも……二対も!
え、ええ!?
なんで翼!?
『おー、キリエねえちゃんの翼が増えた!』『ぴゅいー! うつくしー!』『きれー』
くま吉くん、ぐーちゃん、すらちゃんが褒めてくる……って、あれ?
なんでみんな……困惑してないの?
「わたし、翼が生えてるのよ? びっくりしないの」
『『『うん、だって前からあるし』』』
「えええ!?」
前から!?
翼なんて生えてたの!?
い、いけないわ……びっくりしすぎて、自分を保てない……。
「キリエ様が魔王襲名を宣言なさった……!」
チャトゥラさんがうれしそうに、そして、堂々と言う。
「世界に潜む魔王どもよ! 我らが主が真の魔王である!」
真の魔王!?
アニラさんが竜の姿へと変化して、叫ぶ。
『これから魔王名乗ってるやつは、全員もぐりな! おれさまのキリエが、全ての魔王の頂点となる! と言っている!』
言ってない……(泣)
「これから先、奈落の森はキリエ様の名のもと、人と魔物が共存する新たなる国を作る、とおっしゃった!」
おっしゃってない……(泣)
「人間どもよ、我らが神は寛容だ。助けを求めるならば、奈落の森は全てを受け入れるだろう! そして魔なる物たちよ、聞け! 我らが……」
「ああもう! ストップストップ! もう帰るわよ!」
その瞬間、翼がさらに広がって……みんなを包み込む。
わたしたちの視界が真っ白になると……。
やがて、森の前へと帰ってきていた……。
「転移……?」
「おお! 集団転移でございます、このような高度な魔法を使うなんて、さすがキリエ神様!」
森の民たちが、わたしの前で跪く。
ええと、ええーっと……。
「わたしいつ、魔王の頂点になるって言ったの?」
『え、言ってなかった?』
「言ってない! もう、アニラさん勝手なこと言って!」
次はチャトゥラさんをにらみつける。
「いつわたしが国を作ると宣言したのっ?」
「え、言ってませんでした?」
「言ってない! もうもうっ! みんな勝手に……はぁ」
それに……。
「わたし、神じゃなくて、聖女なんですっ!」
すると森の民たちは、笑顔で言う。
『『『またまた、ご冗談を』』』
「冗談じゃないっ。もぉ~……」
ああ、神様ごめんなさい。
みんなどうやら、わたしを勝手に神様って思ってるようです。
わたしは単なる神の代行者にすぎないのに。
神様が奇跡を起こしてるだけに過ぎないのに……。
ほんとに、ごめんなさい……。
「まーまー、キリエ。いいじゃないかい」
「くま子さん……」
人間姿のくま子さんが、わたしを慰めてくれる。
「いずれあんたの噂は、世界中に広がり、たくさんの魔物たち、人間たちが、ここへ集まって来るんだから。森は国になってたよ。遅かれ早かれだよ」
「うわさ……」
「あんだけのことやらかしたんだからね」
……やらかしたのは、わたしじゃなくて、ノアール神様なのだけど……。
『『『キリエ様ばんざーい! 建国ばんざーい!』』』
「名前は聖魔王と魔物の国……そう、魔王国ケラヴノスティア! そうなづけましょう!」
……なんか勝手に国の名前まで決まってるし……。
はぁ……。
もう……。
「どうしてこうなるの……」
★
わたしの名前はキリエ・イノリ。
ひょんなことから王都を追放され、気づけば魔王国ケラヴノスティアの、女王になってました。
【★読者の皆様へ】
これにて一章完結です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
キリエの物語はまだ続きますが、一旦ここで区切らせていただきます。
二章開始は少々お待ちくださいませ。
ここまでで
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