40.愚かな王子と偽の聖女は、地獄に落ちる
《モーモックSide》
キリエが神聖結界で、全て元通りにした、一方……。
彼女を追放したモーモックはというと……。
『なんだ……どうなっている!? なぜぼくは、この姿なのだ!』
モーモックはゾンビ姿のままだった。
場所は王都外れの森のなか。
彼は体中が腐った状態で立っている。
『たしかぼくは……王都でゾンビとなって暴れて……』
周りの人間たちを襲い、次々とゾンビにしていった。
大量のゾンビたちとともに、王都を蹂躙していた。
『そこにキリエがあらわれて……』
『モーモック……』
『! ハスレア!』
同じく、ゾンビとなったハスレアが、なぜかそこにいた。
美しかった彼女はもういない。
そこにいたのは、腐った肉の塊だ。
『よかったぁ……もーもっくぅ~……言葉が通じる人が居てぇ……』
腐り果てた聖女が、涙を流しながら近づいてくる。
だがそれはおぞましいのひとことだった。
『ち、近寄るなばけもの!!!!』
ばしっ! とモーモックがハスレアを叩く。
彼女はぽかんとしたあと、彼を見て言う。
『化け物なんてひどいわよぉ……』
『うるさい! 自分の顔を見て見ろ!』
彼女が跪いた場所に、水たまりがあった。
そこに写るのは……。
目玉がとれて、皮膚がただれ、髪の毛がずり落ちた……まさしく化け物。
『いやぁ、いやぁああああああ! こんな姿……いやよぉ! いやぁああああああああああああああああああああ!!!!』
ゾンビとなったハスレアが絶望のあまり慟哭する。
『おねがい! 元に戻してぇえ! もどしてよぉお!』
『……ぼくだって戻りたいさ』
こんなゾンビの姿でいたいわけがない。
人間に戻りたい……。
『そうだわ! キリエにたのみましょう! あいつなら治せるわ!』
彼女はもう、キリエの力を認めていた。
自分では使えなかった、奇跡の力。
キリエはそれを自在に使って見せたのだ。
『そうだな……もう……キリエにすがるしかない……謝ろう』
『そうね……』
ふたりとも、ゾンビでいたときの記憶はボンヤリとだが覚えていた。
光の翼を生やし、そして王都にあったもの全てを元通りに戻した……。
まさしくキリエは、女神であった。
『ぼくたちは間違っていた……彼女は神だったのだ』
『そうね……本当に悪いことしたわ。謝って……なおしてもらいましょ』
二匹のゾンビは、そういいながら、森の外へ出る……。
そのときだった。
じゅううううう!
『『うぎゃぁああああああああああああああああああああああ!!!!』』
森を出て、日の光を浴びた瞬間、彼らの身体に激痛が走った。
その場に倒れて動けなくなる。
『いたいよぉおおおお!』
『なんだぁ! なんだよこれぇえええええええええええええ!?』
あまりの痛さに悶絶する。
その場からとにかく退散しようとした。
だが……動けない。
『足が取れて動けないわ!』
『いてええ! いでええよぉおお! ああああああああああ!』
ゾンビとなった二人は泣き叫ぶ。
彼らは……助けを求める。
少し歩いたところにある、王都に。
『『助けてぇええ! キリエ様ぁああああああああああああ!』』
だが……。
『『なんでえええええええええええええええええ!?』』
キリエはあらわれない。
こうして彼女に救いを求めているのに。
そのときだ。
「それは当然でやがるです」
『『誰だ!?』』
バサッ……! と白い翼が広がる。
目の前に現れたのは、光る翼を持った、美しい少年だ。
そう……。
『て、天使……?』
「てめらの言葉で言うのなら、まあ、そうでやがるです」
長髪の、美少年。
真っ赤な髪の毛に、キリエと同様の、光の翼を持つ。
黒いスーツに、天使の輪っか。
そして、背中には1本の剣を背負っている。
「ぼくはミカエルです」
『み、ミカエル……神話に出てくる、あの?』
「そうでやがるです。ぼくは神の代行者でやがるです」
ミカエルと名乗った天使は、哀れな存在でもみるかのような目線を、モーモックたちに向ける。
「おめーらは神に見放されたです。だから、【神候補】の力が発動しなかったでやがるです」
『か、神候補……誰のことだ?』
「てめえらがひどいことした、あのお姉ちゃんでやがるです」
『! き、キリエのことか……!』
こくん、とミカエルがうなずく。
「あの神候補でやがるです。第一の試練を突破しやがったです」
『第一の……試練?』
まるで、第二、第三があるかのようないいかただ。
試練とは、何を試しているのか……。
「ゾンビになった王都の民たちを、みんな人間に戻しただけでなく、死者蘇生もした。そして、壊れた建物を直し、ゾンビの腐肉で腐った土地を浄化した。なかなかです。90点をあげましょうです」
にっこり、とミカエルが微笑む。
「これは、先が楽しみですね。新たなる神が生まれるのも、そう遠くないです」
ふわ……とミカエルが翼を広げて、その場をあとにしようとする。
『ま、待ってくれ! ぼくたちも助けてくれ!』
ミカエルは言っていた。
キリエがゾンビになったひとたちを、みんな元に戻したと。
『ぼくたちはまだ人間に戻ってないぞ!』
『そ、そうよ! 人間に戻して! 戻してよぉ!』
しかしミカエルは、冷たいまなざしを彼らに向ける。
「無理に決まってやがるです」
『『どうして!?』』
「てめえらは、神に救われるべき人間じゃないからです。この穢れた魂の、悪人どもめ」
ミカエルが軽蔑のまなざしを、醜い肉塊に向けて言う。
「神が助けるのは、神を信じる善良な魂のもちぬしだけ。てめえらみたいな、薄汚い魂は、神が手助けする価値もない。よって、神はてめえらを冥界へ落とすことを決定したです」
『めいかい……?』
「地の底に存在する、魂の牢獄でやがるです。救うことのできない悪人の魂は、冥界にある魂の牢獄にとらわれて、一生苦しみ続けるです」
この世界において、万物は転生する。
しかし冥界に落ちた魂は、転生することができず、一生、不滅の存在として、生き続けなければいけない。
「光の届かない、暗くて、寒い牢獄の中で、自らの行いを悔い続けるです」
どんどんと肉体が蒸発していく。
骨すらも残らず……消滅する。
やがて魂だけとなったモーモックとハスレア。
地面から無数の手が伸びて、彼らの魂を掴む。
『いやぁ! なにこれぇええ!』
「冥界の番人が、てめらをお出迎えです」
無数の手はモーモックたちの魂を、地の底へと引きずり込んでいく。
ずぶずぶ……とふたりの魂が地面に沈んでいく。
『いやぁああああああ! 助けてキリエ様ぁああああああああ!』
『キリエぇえええええええええ! ぼくが悪かったよおぉおおおおおお! たすけてよぉおおおおおおおおおおおお!』
涙を流しながら、泣き叫ぶ二人。
しかし彼らの声が神……そして、神候補であるキリエに届くことはない。
「じゃあな、きたねえ魂の持ち主ども。冥界の牢獄で、一生苦しみ続けるがいいです」
『『いやぁああああああああああああ!』』
……モーモックは地に落とされながら、激しく後悔した。
こんな馬鹿な女と、出会わなければ。
今頃、こんな目に会わなかったのに……。
『ごめんなさいキリエ様ぁあああああ! たすけてぇええええ! わたしだけでもぉおおお!』
『なんだとてめええ! てめえのせいだろうがぁああああ!』
……最後の最後まで、ふたりは醜く罵り合っていた。
これでは、神も神候補も助けられないだろう。
やがて二人の魂が完全に消滅する。
その様を見て、天使ミカエルは言う。
「善人は救われ、悪人は裁かれる。それが、この世界のルール、でやがるです」
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