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39.進化した神の結界



《キリエSide》


 ゾンビにあふれた王都。

 わたしは仲間達と協力し事態にあたっていた。


 グリフォンのシンドゥーラさんの背中に乗って、わたしは王都上空にいる。


『キリエ様、これからどういたしますの?』

「ゾンビを人間に戻しつつ、怪我人の治療、そして壊れた王都の修復を同時に行う」

『同時! いくら凄まじい聖女のキリエ様でも、それらを同時に行うのは不可能では……?』


 確かに別々にやればいいかもしれない。

 でもゾンビはほっとくと、加速度的に数を増やす。


「ひとりひとりゾンビから人間に戻す作業をやっていたら、その間に治療した人間をゾンビに噛まれてしまうわ」

『なるほど……確かにそれでは切りがありませんわね。でも……どうするのです? 3つの作業を同時にはできませんわよね?』


 確かに、今までのわたしだったら、防御と治癒は同時に行えなかった。

 屍竜ドラゴンゾンビに襲われたとき、守るだけの結界で手一杯で、治療ができなかった。


「新しいアイディアが、ふってわいてきたのです」

『まあ……新しいアイディアが』

「ええ、どうすればいいでしょうかと、ノアール神様に解決方法をお願いしたところ、ふと思い立ったのです」

『それは単純に、キリエ様が思いついただけでは……? 神さまの力では無く……』


 いいえ、わたしは所詮神の使い。

 このような素晴らしいアイディアを、思いつけるわけがない。


「全ては神の思し召しなのです」

『まあいいですわ……。それで、何をしますの?』

「決まってます。祈るのです」

『い、祈る……それだけ?』

「はい。ただ、わたしだけが祈るのではありません。皆さんの力も、おかりします」


 わたしはシンドゥーラさんの背中の上に立ち……語りかける。


『皆さん、聞こえておられますでしょうか』

『! キリエ様の心の声が……頭の中に響いてきますわ!』


 そう……かつてわたしが使っていた、心の声を相手に届ける力。

 しゃべれるようになって、もう不要になったもの。


 しかし今は、より多くの人の協力が必要だ。

 だから、使わせていただきます、ノアール神様。


『これから大規模な結界を展開します。王都全体を覆い尽くすほどの、大きさの結界です。そのためには、わたしひとりの力では足りません。王都のみなさん、そして森の民の皆さん。いっしょに……神に祈りましょう』


 わたしひとりの力なんて、限られている。

 だからみんなの力を借りる。


『ともに、王都を救ってくださいと、神に祈るのです。さすれば、神は願いを聞き届けて、我らを窮地から救ってくださります』


 これは時間との勝負だ。

 時間が経つほどにゾンビが増えてしまう。


 今、王都の外にゾンビが出てしまってもアウトだ。

 被害が拡大してしまう。


 今はチャトゥラさんが指示して、魔物さんたちがゾンビの進行を食い止めているけど、いずれ限界が来てしまう。


 だから、今なのだ。


『お願いします、ともに、神に祈りを』


 するとどうだろう。


『わかりました!』『姉ちゃんといっしょに祈るぜ!』『ぴゅーい! いのるー』『すらーも』


 魔物さん達の心の声が届く。

 そして……。


『キリエ様の言うとおりにするぞ、みんな!』『おう!』『恩人であるキリエ様がそうしてくれっていうんなら、喜んで聞くぜ!』


 王都に住む人間のみなさんの声も又、届く。

 皆さん……思いは同じなのだ。


 この王都を救いたいと。

 平和を願う心は、魔物も人間も同じ。


『では……ともに祈りましょう! 神に!』


 ノアール様に!


『『『『キリエ神様! どうか、王都を救ってくださいませ!!!!』』』』


 ……魔物、そして人間さんたちの声が一つに……。

 って、あれ?

 キリエ神……?


「ち、違いますよみなさん! 神さまの名前はノアール神で……」


 と、そのときだ。

 凄まじい神の力の波動を感じる。


 え、ええ!?

 いいのですか神さま!


 みんな、名前を間違えて……いや。

 そうか。わかりました。


 神さまは、とても寛容なお方なのです。

 民が言い間違えをしても、許す……ということですね!



『す、すげえ!』『王都を覆うほどの、巨大な結界が展開していく!』


 わたしは目を閉じ、みんなのために祈ります。

 神さまの力が地上に降り注いでいるのでしょう。


『すげえ! キリエ様の翼!』『あれもう神だろ!』『スゲえ神だ!』


 人間さん達が……何か言ってるわ。

 翼……?


『すごいですわキリエ様! 巨大な結界が町を包み、そして、中に居る人、物、すべてを元に戻しております!』


 やがて、わたしは目を開ける。

 すると……壊れたはずの王都は元通りに。


 そして地上には……。


「うぉおお! なおったー!」「人間に戻れたぞー!」


 あちこちで歓声があがっている。

 人も、そして魔物も、抱き合って喜びを分かち合っている。


「良かった……」

『キリエ様、今のは一体……?』


 すると……。


『お見事です、キリエ様!』


 フェンリルのチャトゥラさんの声が響いてくる。


『結界で包み、内部のものを修復、治療してみせたのです。これを名付けるならば聖なる神の結界……そう、【神聖結界】とでも言うべきしろものでしょう!』

『なるほど……つまり、キリエ様が凄い結界術で、全てを解決したということですわね! さすがですわ、キリエ様……!』


 うん? チャトゥラさん、シンドゥーラさん?

 何言ってるの……?


「神さまがやってくれたんじゃない……?」


 しかし……。


『『『ありがとぉおお! キリエ神さまぁああああああああ!』』』


 地上に居る人たちがみんな……なぜかわたしに感謝していた。

 助けてくださったのは神さまなのですが……。


 まあ、何はともあれ、一件落着ってことで。

 神さまもきっと、少しの言い間違いくらい、許してくださる……よね?

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