34.愚かな王子は、魔王の手により化け物になる
《モーモックSide》
毒が回って、死んだはずのモーモックだったが……。
「あ……れ? ぼ、ぼ、ぼ、ぼくは……い、いき、生きて……る?」
目を覚ますと、そこには美しい女がいた。
背は高く、髪の毛も長い。
豊満な乳房を持ち、腰はくびれ、尻にもたっぷりと柔らかい肉がのっている。
彼女の体を包み込むのは、リボンといっても差し支えないほどの、細長い布。
見た男全員がよだれを垂らすような抜群のプロポーションに、扇情的な衣装。
そして……とろけるような笑みを浮かべた、まさに……。
「女神……?」
「あら、お世辞が上手ね。ゲータ・ニィガの王太子さん」
「お、おま……おまえ、は……?」
「わたしは……そうね。ふふっ、あなたの言葉を借りるなら、女神……かしらね」
女神はニィ……と微笑む。
笑ってはいるものの、その目の奥にはほの暗い闇が広がっている。
人によっては彼女を見ただけで恐怖するものがいてもおかしくない。
だが……。
「あ、あああ……なんて、なんて、う、うつくしいんだぁ……」
モーモックは目の前の美女に、完全に魅了されてしまっていた。
女神は微笑みながら、モーモックの頬をなでる。
「ありがとう……でも【その姿】のあなたも、とても美しいわ……♡」
女神が熱っぽくつぶやく。
その姿……? どういうことだろうか。
すると女神は何もない空間に手を伸ばすと、どこからともなく、1枚の手鏡を取り出す。
手鏡をモーモックに向けてきた。
「あ、え……?」
彼は途端、思考が止まる。
そこにいたのは……完全な化け物だった。
頭部の皮膚がただれ、片目が白濁している。
体は緑色をしており、どう見ても人間ではない。
「ふふ……どう? ゾンビになった気分は……?」
「ぞ……え……? なん……だこれ……? なに、これぇ~……」
そこにいたのは、イケメン王太子の姿ではない。
完璧に化け物……ゾンビだった。
「ゾンビ。そうよ、あなたは死んでゾンビになったの♡」
「いや、いやぁ……! いやだああああああああああああああああ! あががががあぁああああああああああああ!!!!!!」
自分が死んだことも、化け物になってしまったことも、彼は受け入れられなかった。
彼は頭を抱えて叫び出す。
だが女神はいつの間にか牢屋のなかに入ってきて、そして、顔を近づける。
女神の美しい顔を見ていると、荒れ狂っていた気持ちが、少しずつ鎮まっていく……。
「安心して、あなたはとても美しいわ♡」
「うつ……くしい……?」
「ええ。壊れた物って、きれいじゃない? 廃墟とか、死体とか。生きてる間では絶対に持つことのできない、壊れてるからこそ表現できる美があるとわたしは思うの」
「う……が……うがああ……」
何を言ってるのかさっぱりわからない。
だがこれだけはたしかである。
この美女に褒められると、心が満たされる。
とてつもない幸福感に包まれる。
自分が死んだこと、化け物になった恐怖心はとっくに霧散していた。
今はただ、この女神に褒められたことがうれしい……。
「さぁモーモック。わたしの可愛い下僕。わたしのために手足となって働いてくれるかしら?」
「あ、あ、ああ……! アアア……!」
もちろんだ、という意味を込めて叫ぶ。
もはや人間の言葉がしゃべれなくなっているけど、どうでも良かった。
この女神について行く、この人の言うことを聞いているのが幸せ……。
モーモックという自我は消滅し、ただ女神のためだけに動く、生きる屍となったモーモック。
「まずは手駒を増やしましょう。大丈夫、あなたに芽生えた恩恵があれば、みんなを幸せにできるわ♡」
「う、が、うがぁあああああああああああああああ!」
モーモックは牢屋をぶち破り、外に出る。
そして暴走を開始する。
すべては女神に褒めてもらうため。
彼はよだれを垂らしながら、彼女のために猛進する。
その背後で女神が笑っていた。
だがニィイ……と口の端をつり上げて笑うその姿は……とても女神とは言いがたい。
それは例えるなら……悪女、否。
魔物を率いて悪事をなす……【魔王】の姿そのものだった。
彼女の名前は、屍魔王・腐姫。
キリエと同じ、魔王種の一匹であり、不死の化け物たちの女王なのだった。
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