33.愚かな王子は、神に祈るが救われない
《モーモックSide》
キリエを追放した王子モーモックは、奈落の森近くの村にて、問題を起こした。
その結果、彼は自警団の牢屋にて、監禁されるはめとなった。
「おい! 出せ! ぼくを誰だと思っている!? モーモック王太子だぞぉ!」
捕まった当初、モーモックはまだ元気があった。
牢屋の木の格子を、がんがんと叩く。
「貴様らぼくにこんな仕打ちをしたこと、後悔させてやるからな! 不敬罪でとっつかまえてやる!」
「本当にあんた王太子なのかぁ?」
見張りをしていた自警団の若者が、疑いのまなざしを向けてくる。
「当たり前だろ!」
そこへ別の自警団員がやってくる。
「どうだった?」
「思った通り、違うってさ」
二人の会話を聞いて、モーモックは「何のことだ!」と声を荒らげる。
「あんたをここへ捕らえたとき、王城へフクロウ便を出したんだ。あんたんとこの王太子がやらかしたので、身柄を拘束したってな」
彼が本当の王太子かどうか、村人達は判断ができなかった。
そこへ王城へ手紙を送って、判断を向こう側に委ねることにしたのだ。
「おお! それで! 父上はなんて!?」
若者が手紙を開いて、中身を読み上げる。
「『貴様の死罪が確定した。数日後に使いの者をよこす。村人たちはその愚息を閉じ込めたままにしておくように』だってさ」
「………………は?」
死罪が、確定……?
そんな……ばかな……。
「うそだ……」
「本当だよ。読むか?」
自警団員が手紙を渡してくる。
呆然とした表情のまま受け取り、文章に目を通す。
……イオン司祭から報告がいったらしい。
キリエを連れ戻すのに失敗したことから、王太子モーモックの死罪が確定した……と。
「う、うそ……うそ……うそ……こんな……ありえない……父上ぇ……」
父は息子を見放したのだ。
その事実を、受け止めたくなくて、彼は手紙を丸めて投げる。
「なんか哀れだな」
「いやかわいそうなもんか。キリエ様を殺そうとしたんだぜ?」
「そりゃそうか。じゃあ死んで当然だな」
村人達はキリエに救われたことがある。
彼らにとってキリエは神同然なのだ。
神を傷つけたのだから、天罰が下っても致し方ない。
「…………」
数日後に使いの者がきて、王城へと連れて行かれる……いやまてよ!
「来る前にぼくは死んでしまうじゃ無いか……」
盗賊団から遅効性の毒を受けていた。
あと1日もすれば毒が全身に回って死んでしまう……いや!
「捕まってからも時間が経ってる……! おい今はいつだ!?」
村人から今日の日時を聞いて愕然とする。
なんと死ぬまで、あと数時間もなかった。
「う、うわぁあああああああ! いやだぁああああああああああああ!」
「なんだこいつ、急に泣き出したぞ?」
モーモックは死にたくなかった。
泣きわめきながら、彼は訴える。
「いやだ! 死にたくない! ぼくは死にたくない!」
「いや死ぬからあと数日で」
「違うんだ! もう数時間後に毒が回って死ぬんだ!」
しかし村人はドライに言い放つ。
「どっちにしろ死ぬなら、別によくないか?」
たしかに、死ぬのが数日後か、数時間後かのちがいだけだ。
「いやだ! ぼくは……ぼくは死にたくない! どうして死ななくちゃいけないんだ!」
「それはまあ、キリエ様を殺そうとしたから、当然の報いだろう?」
キリエは村の人たち、そして王都の人たちにとってとても重要な人物だったのだ。
そんな彼女を理不尽に追い出すだけでなく、奈落の森に捨てることで、殺そうとした。
これはもう重罪だ。
殺されても仕方ないことなのである。
キリエは王都を外敵から守っていたし、彼女の聖女としての癒やしの力は、あらゆる怪我病気を治していた。
いわば、キリエは王国にとっての万能薬なのだ。
そんな彼女を殺そうとしたら、命を以て償わねばなるまい。
「いやだぁあああ! いやだぁああ! 助けてぇ! 助けて神様ぁああああああああああああああああああああ!」
こんなときだけ、モーモックは神に祈った。
このあたりの人たちは、助けてと神に祈ると、キリエが危機を察知して、自動で転移してくる(本人自覚なし)。
しかし……いくらまっても、キリエが来ることはない。
「神はあんたを、見捨てたみたいだな」
「ああ、キリエ様が来ないってことは、つまり祈りは届かなかったってことだろ」
「当然だよな」
「ああ、当然の報いだ。自分が死ぬまでに、己の行いを悔い改めることだな」
自警団員たちが冷たいまなざしを送った後、あっさりと部屋を出て行く。
王太子に同情するようなことはいっさいしなかった。キリエはこのあたりの神だからである。
「う、ううう……いやだぁ……ぼくはしにたくないよぉ……たすけてぇ……かみさまぁ~……」
情けなく涙を流しながら、必死になって命乞いをする。
神に祈るも、しかしその祈りは届かない。
「どうしてだよぉ……かみさまぁ……ぼくを見捨てるのかよぉ……あんたまでぇ……」
神の子を傷つけた王太子に、神は慈悲を与えない。
キリエに、王太子が毒で死にかけてることも伝えない。
このまま彼は、くたばるべきだと、そう判断したのだ。
やがて……3時間が経過……。
徐々に、王太子の体調が悪くなる。
彼は死の苦しみを味わいながら、地面でのたうち回る。
「うぐ……がぁあ……い、いや……だぁ……じにだぐ、ない……よぉお……だれかぁ……だれでもいい……たすけてぇ……」
だが地面に倒れ、情けなく涙を流し、助けを求めても、誰一人として救いの手を差し伸べてくれる人はおらず……。
どくんっ!
「が………………………………………………」
心臓にまで毒が回り、ついに、モーモック王太子は死亡したのだった。
「目覚めなさい、愚かなる王子。あなたにはまだ、魔王様のために、やってもらうことがあるのですから」
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