31.いつの間にか最強種族に進化してた件
《キリエSide》
ある日のこと。
わたしはくま吉くんたちと、お風呂に入っていた。
そのとき、くま吉君がふと言う。
『姉ちゃん、なんか最近、目の色変わった」
「目の……色?」
はて……?
「変わったってどういうこと?」
『なんか、前は青い瞳だった気がするんだけど、今朝姉ちゃん見たら、金色になっててさ』
たしかにわたしの目の色は生まれつき青色だった。
「あら、そう?」
『うん、そう。姉ちゃん目の色変わったって気づかないの?』
「気づかないねえ」
『どうして?』
「鏡見ないからね。聖女は戒律で、お化粧が禁じられてるし」
森に鏡なんてないし。
今はいってる温泉は……白濁色してるし、よくわからないわ。
『ぴゅいい! 金色でかっこいー!』『きれー!』
「ふふふ、ありがとう。そういえば、教会に鏡があったはずだわ。ちょっと確かめに行ってみましょう」
ざば、とわたしはお風呂から上がる。
手早く着替えて、わたしはくま吉くんに乗っかって、旧楽園の入り口である、樹木王さんの元へ向かおうとする。
そのときだった。
「ギシャァアアアアアアアアアアアアアアア!」
『空からドラゴンが!』『ぴゅぃい! 飛竜だよぅ!』『森のなかまじゃないやーつ!』
突如として襲いかかってきた飛竜。
かなり早くて、みんな反応しきれない。
まずいわ、お祈りしてる間に、やられてしまう。
いけない、みんなを守らないと!
「ぎしゃぎ…………」
どさ!
「……って、え? ど、どうしたの?」
飛竜がわたしの前で、白目を剥いて気絶していた。
「「「キリエ(様)!!!!!!!!!」」」
チャトゥラさん、シンドゥーラさん、アニラさんの三匹が、あわくってわたしの前に現れる。
みんな人間の姿だ。
「申し訳ございません! 森の周辺警護にかまけて、キリエ様の御身に危機が迫っていることにすぐ対応できず! このチャトゥラ、切腹してお詫びします!」
「しなくていいわ。そんなこと。わたしはこうして無事だし」
「しかし……」
「それより、この子、急に襲ってきたと思ったら、気絶したの。どうしたのかしら……?」
空の主たるシンドゥーラさんが、飛竜を見て確信を持って言う。
「奈落の森の民ではないですわね。ほかの【魔王の配下】かもしれませんわ」
ん……?
ほかの……魔王?
「しばらくエレソン様の聖なる結界があって、他魔王からの侵攻がなかったのですが……」
他……魔王?
「つーか、なんでほかの魔王の三下連中が、キリエを襲うんだよ? キリエが【魔王種】って訳じゃあるまいし」
ああもう!
「お三方、ちゃんと説明して! ほかの魔王ってなに?」
「それは……。はっ! き、キリエ様! その目はよもや【覇王眼】!?」
「はおう、がん……?」
何かしらそれ……?
「うそだろ!? 昨日までは普通の目だったよな!?」
「しかしその深い琥珀色の瞳は、間違いなく覇王眼ですわ!?」
アニラさんも、シンドゥーラさんも、わたしの知らない何かを知ってるらしい。
どうしたのかしら……?
「お三方、説明して」
「そうですね、では順を追って」
まず、とチャトゥラさんがわたしの目を指さす。
「キリエ様の目の色が、琥珀色に変化したことにお気づきでしょうか」
「うん。ついさっき、くま吉君に言われてはじめてだけどね」
「その琥珀に輝く目は、とある【種族】にのみ発現するという、伝説の目なのです」
「とある……種族?」
こくん、とうなずいて、チャトゥラさんがいう。
「覇王眼を持つ種族を、【魔王種】といいます」
「魔王種……まおう?」
それって……。
「昔いた、魔族を率いて人間達を襲ったっていう、あの魔王?」
「おそらくキリエ様がおっしゃっているのは、魔王イヴル・アイのことでしょう」
そう、そうだわ。
たしかにそんな名前だった気がする。
「魔王は、この世に複数体存在するのです。今も、この世界に」
「! たくさんいるの、イヴル・アイみたいなのが?」
魔王は世界を滅ぼすところだったと聞いてるわ。
そんな危険な存在がたくさんいるなんて!
「落ち着いてくださいまし、キリエ様。なにも、全員がイヴル・アイのように悪しき存在ではございませんの」
「そ、そうなの……シンドゥーラさん?」
「ですわよね、竜魔王アニラさん?」
……………………はい?
「おれさまを見ればわかるだろう?」
「え、え、えっとぉ……どういうこと? アニラさんも魔王ってこと?」
「うむ。まあ正確にいうと、おれさまは魔王種なのだがな」
「魔王種……?」
チャトゥラさんが指を立てて言う。
「この世界にいる最上位の魔の存在、それが魔王種とよばれる輩たちです」
「ようするに、チャトゥラたち上位の魔物の、さらに上の最高位の魔物ってこったな」
冒険者でいうところの、Sランクみたいなものかしら……。
「魔王は、称号じゃなかったんですね」
「そのとおりです。種族名です。もちろんイヴル・アイも魔王種でした」
とっても強い魔物が魔王種ってことらしい……って、あれ?
「人間が魔王種っておかしくない?」
「その通りです。本来なら魔物の最終進化形態が、魔王種なのです。人間が魔王種となった事例は、この世に存在しません」
あれ? とくま吉くんが首をかしげる。
『でもさー、エレソン様も魔王種なんじゃないのー?』
! そう、そうだわ!
だってこの森の長、聖魔王エレソン様も、言われてみれば魔王って付いている!
「エレソン様が魔王だったら、おかしいわ。だってあのお方も人間なのでしょう?」
するとお三方がふるふる、と首を振る。
「一般に知られてないことですが、エレソン様は人間ではないのです」
「人間じゃ……ない?」
魂だけとなったエレソン様を見たことがあるけど、普通に人間の見た目をしていたような気がする……。
「エレソンは、魔族と人間のハーフなんだよ」
「魔族とのハーフ……」
そういえば、魔族は魔物の一種だと言っていたわ。
なるほど、エレソン様にも、半分だけど魔物の血が流れていたのね……。
「エレソン様は最初から魔王種だったわけじゃない。長い修練と、そしてアニラと契約したことで、ようやく最強種となれたのです」
かなり苦労したのね……。
「契約って?」
「従魔契約っつーモンがあるらしくてよ。魔物と契約することで、魔物と魔力経路をつなぎ、力を共有できるんだとさ」
つまり……エレソン様は半魔族で、アニラさんと契約を結んだことで、魔王種へ進化し、聖魔王となったのね。
「でもどうして?」
「魔王種となると、さらなる強大な力が手に入るからな。配下にもバフがかかるしよ」
「森の民を守るために、魔王種となったのね、エレソン様」
ほんと、優しい人だわ。
「話を戻しますと、魔王種とは本来魔物がたどり着ける最終進化形態です。半魔族でもない、純粋な人間が魔王種となれた例は、存在しません。前代未聞です」
「すごいですわ! 歴史上初! だなんて!」
シンドゥーラが褒めてくれる。
『よくわからんねーけど、姉ちゃんがすげえってことだな!』『すごーい!』『さすがー』
ううん……わたしにもよくわからないわ。
知らない間に、最強種族になってたし……。
まあでも、これも神のご加護があってこそでしょう。
ありがとうございます、神様。
わたしをより強くして、何をさせたいのか……なんて、決まってるわ。
エレソン様と同じく、この森の民達を守れということでしょう。
「しかし、そうなるとキリエが襲われたのも合点がいくな。ほかの魔王種たちが、新しい魔王種の誕生に気づいたってことだろうしよ」
「? どういうこと……?」
お三方が黙りこくる。
「それは……」
「チャトゥラ」
アニラさんが首をふるふると横に振る。
彼は何かを言いたげだったけど、押し黙った。
「すみません、キリエ様。その問いにはお答しかねます」
「そうですか、わかったわ」
「……よいのですか?」
「ええ。知らない方がわたしのためということでしょう? 気を遣ってくれてありがとう」
ずしゃあ……! とチャトゥラさんが倒れる。
『チャトゥラの兄ちゃんが気絶した!』『ぴゅい? なんで?』
するとシンドゥーラさんが呆れたようにため息をつく。
「敬愛するキリエ様にお礼を言われたから、嬉しくて気絶したのでしょう」
『まじか。まあでもわかるな、おいらもキリエ姉ちゃんに褒められるとうれしいし!』『ぴゅーい! ぐーちゃんもー!』『すらーもー』
しかし……そうか。
この世には、たくさん魔王がいるのね……。
そしてわたしも、本当の意味で魔王になっていた。
でも、わたしのやることは変わらないわ。
この森に住む民達、そして彼らと仲良くしてくれる優しい人たちが、平和に暮らせますように……と祈ることだけ。
それがわたしにできる唯一のことなのだから。
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