31.愚かな王子は、誘拐を試みるが失敗する
《モーモックSide》
キリエを追放した王太子、モーモック。
彼は盗賊から毒を受けた後、暴虐竜アニラによって吹き飛ばされた……。
その翌日。彼は、奈落の森にほど近い村の宿屋にいた。
モーモックは焦っている。
「ちくしょう! どうすればいいのだ!」
彼が焦るのはしょうがないことだ。
窮地に立たされているのだから。
「キリエを連れもどせなければ死刑。ほっといても2日後には毒が回って死ぬ……どちらにしろ、死んでしまうではないか……!!!!!」
のこのこと国に帰れば死が、何もせずとも死が待っている。
八方塞がりだった。
「こうなったら……無理矢理にでも、キリエを連れて帰るしかない!」
しかし彼女のいる森には、恐ろしいモンスター達がいる。
彼らはどういうわけかキリエを守護していた。
「キリエを連れて帰るためには、まずは邪魔な魔物どもを駆除する必要がある。どうすれば……」
窓から外を見やる。
剣を背負った男や、杖を持った女があるいてる。あれは……。
「そうか……冒険者! 冒険者を雇えばいいのだ!」
冒険者の主な任務に魔物の討伐がある。
キリエを連れて帰るのに、彼女の配下の魔物が邪魔ならば、冒険者たちに処理させればいい。
モーモックはさっそく行動に移すことにした。
村にある冒険者ギルドへ赴き、受付カウンターへ向かう。
「いらっしゃいませ! 当ギルドへどんな用事でしょうか?」
「依頼をしたい。魔物討伐だ」
「魔物……なるほど。どのような」
「奈落の森にいる魔物どもだ」
ぴしっ、とその場にいる全員の表情がこわばる。
妙な雰囲気に戸惑うモーモック。
「当ギルドでは、その依頼を受けることはできません」
「な、なんだと!? 何を馬鹿な……!」
魔物討伐を受けてくれないとは、どういうことだ……?
「金の心配はするな。家には金がたんまりある」
「いえ、金の問題ではございません」
「ではあれか? 奈落の森の魔物どもが恐ろしいから、怖じ気付いてるのか? はっ、随分と腑抜けた連中……ふげええ!」
ガタイのいい、冒険者のひとりが、モーモックの胸ぐらを掴んで殴り飛ばしたのだ。
「ガープさん、乱暴はよくありませんよ」
受付嬢がそういう。
しかし強く注意してる感じはない。
「な、なんだ貴様……!?」
「おれはガープ。Sランク冒険者だ」
「なっ!? え、Sランクだと!?」
Sといえば最高位の冒険者だ。
こんなへんぴな場所にいていい存在じゃない。
ガープは王子をにらみつけながら言う。
「あの森の魔物達を、討伐しろだと? ふざけるな」
「ふ、ふざけてなどいない! なぜ討伐がだめなんだ!?」
「あそこの連中には世話になってるからだ」
モーモックは知らないが、ガープはかつて森で怪我をしたとき、キリエに助けてもらった過去がある。
普段は獣人国を拠点として活動しているが、最近はキリエに会いたいがゆえに、奈落の森の近くである、この村に拠点を構えてるのだ。
「森の連中は悪い魔物じゃない。野生の恐ろしい動物を追い払ってくれたり、盗賊団を撃退してくれたりする。なにより、森の主にはおれら冒険者も、そしてこの村のやつらも大いに世話になってるからな」
「森の主……まさか、キリエか?」
「なんだあんた、知ってるのか」
知ってるもなにも……。
自分が追放したやつだった。
「そもそも奈落の森の魔物を討伐して、あんたは何がしたいんだ? あんた、この辺じゃ見ない顔だが」
「あ、いや……」
まさか、森の魔物をみなごろしにしたあと、キリエを拉致するためにとは言えない……。
「ほぅ……」
しかし、ガープは、すっと目を細めた。
目の前のモーモックに対して、明確な敵意と怒りを向けてくる。
「あ、あの森にいる恐ろしい……そう! 恐ろしい魔女を討伐したいのだ!」
「…………」
「あの魔女のせいで、ぼくはあと2日で死ぬ呪いを……ふげえぇええええええええ!」
ガープに思いきり、頬をぶん殴られた。
倒れ伏すモーモックを、ガープが冷たく見下ろす。
「キリエ嬢ちゃんを誘拐するつもりらしいな」
「なっ!? ど、どうしてそれを……」
「キリエ嬢ちゃんの力だ」
「なんだと!? どういうことだ!?」
ガープは自分の耳を指さしながら言う。
「おれは嬢ちゃんに治療してもらった。そのときから、おれには特別なちからが芽生えたのだ。彼女のおかげでな」
「特別な力だと……?」
「ああ、人の嘘を、聞き分ける力だ。聞いたぜ……てめえのきたねえ計画を」
じろりとにらみつけてくる、ガープ。
ガープだけではない、ギルドにいた冒険者達、そして依頼しにきた村人達がみな、モーモックを取り囲んでいた。
「な、なんだよ!? なんだよおまえら!?」
「キリエ嬢ちゃんに、みんな世話になってるのさ。あの人は仲間の魔物を傷つけなければ、無償で村人だろうと冒険者だろうと、怪我病気なんでも治してくれる。だから感謝してるし、だから……キリエ嬢ちゃんを皆好きなのさ」
そんな……。
「さて、あんた……何者だ?」
まさか、キリエを追放した張本人の王子だとは……口が裂けてもいえない。
「そうか。おいこいつがキリエ嬢ちゃんをいじめた張本人の、馬鹿王子らしいぞ!」
「し、しまった……! 心を読めるんだった……ぐわぁあああ!」
冒険者に村人、集まっていた人たちがみな、モーモックに暴力を振るう。
「き、貴様ら誰に向かって手を上げてると思ってる!」
ばき! どご!
「や、やめろ! 王族に手を上げたらどうなるか……」
ぐしゃ! ばき!
「や、やめ……やめで……やめて……くだ……はい……」
ボロボロになったモーモックが、泣きながら懇願する。
だがガープを含めた村人達はみな、森の魔物、そしてキリエに感謝している。好いてる。
そんな相手を殺そうとしたやつを、絶対に許せない。
たとえ相手が国の王子だろうと……だ。
やがて気を失った王子を、ガープは自警団に突き出すことにした。
地下牢に閉じ込められ、半日気絶することになる。
……彼が死ぬまで、あと1日半。
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