30.司祭様から神扱いされた件
《キリエSide》
旧楽園にある教会にて。
わたしはくま吉、スラちゃん、ぐーちゃんと戯れていた。
すると急に、くま吉くんたちの様子がおかしくなる。
ううう……とうなり声を上げだしたのだ。
「どうしたの?」
『『『にんげん!』』』
人間……?
不思議がってると、教会のドアがノックされる。
「失礼します」
「チャトゥラ……と、え、ええっ? い、イオン司祭様?」
王都でお世話になった、イオン司祭が、なぜか知らないがここへとやってきたのである。
おかしいわ、王都にいるはずの人なのに……。
いや、おかしいのはそれだけじゃないわ。
アニラさん(人間態)に肩を貸してもらってる。
「な、何かあったのですか?」
「途中で盗賊に襲われて、毒をもらっちまったようだぜ」
「毒! 大変……すぐに治療を」
神に祈ろうとしたそのときだ。
「いや……もう大丈夫です。アニラ様。ありがとうございました」
「あれ? 大丈夫なのかい?」
「はい」
イオ司祭様が自分の足で立ち、アニラさんに深々と頭を下げる。
「ど、毒は……?」
「もう、治りました」
「治った……?」
「はい。聖女キリエのおかげです」
ど、どういうことかしら……?
わたしまだ、何もやっていないのだけども。
「まあそれは、些細なことです。聖女キリエ……無事で何よりです」
司祭様はわたしに近づいてくる。
その前に、立ち塞がるくま吉君たち。
『姉ちゃんに近づくな!』『ぴゅい! ひどいことするつもりだろ!』『かえれー』
がるるるう……とうなり声を上げるくま吉君たち。
「大丈夫ですよ、この人は悪い人じゃ無いの」
『『『じゃあゆるす!』』』
わたしのいうことを素直に信じてくれたようだ。
良かった。
「聖女キリエ……あなた、しゃべられるようになったのですね」
イオン司祭様はわたしが事故のショックでしゃべれなくなったことを知ってる。
「はい。おかげさまで」
「そうですか……それは本当に良かった。あなたはそのせいで、ひどいことを言われておりましたからね。治って本当に良かった……」
な、涙ぐんでいるわ。
そんなに不憫だったのかしら……。
わたしのために心を痛めてくれたのね。
本当に優しい人だわ。
「それに、無事で本当に良かった。奈落の森に捨てられたと聞いたときは、気が気ではありませんでしたよ」
「まあ、ご心配をおかけしました」
部下の安否を気にしてくれてたのね。
ホントに優しいひと。
するとくま吉くんがじろりと、イオン司祭様をにらみつける。
『おまえさては……姉ちゃんに気があるんだな!』『あるんだなー』『なにぃ!』
やれやれ。
「何を言ってるのですか。そんなわけないわ」
『でも心配しておいかけてきたんだろ? 好きな人のことをさ!』『そうだそうだー!』『きっとぞっこんだー』
まさか、ねえ……?
するとイオン司祭様が「あ、ああ……もちろん」と顔を赤くしながら、そっぽを向いたわ。
何かしらこの微妙な反応……。
まさかと思うけど、この子達の言うことが本当じゃないわよね……?
ないと思うけど。
「と、ところで聖女キリエ。いつの間にか、法力を上げておりましたね」
『なんだー、法力って?』
「聖女としての力のことですよ、熊の子さん」
……あれ? 普通に会話してる?
するとチャトゥラさんが得意げに胸を張る。
「当然です。キリエ様は初代聖魔王様の魂を受け継ぎ、さらに聖遺物の力も相まって、その力は世界トップクラス! その影響は配下だけでなく、この森全体にも及ぼすほど!」
配下だけで無く、森全体……?
「チャトゥラさん、どういうこと?」
「つまりですね、聖女の力が高まったことで、配下の魔物たちにも、キリエ様が以前使っておられたテレパシー能力を付与、そしてこの森全体がパワースポット……いわゆる、聖域にしていたのです!」
ぶんぶかとチャトゥラさんが尻尾を振る。
せ、聖域……?
「おい駄犬。なんだ聖域ってよ?」
「高位の回復魔法使いが、まれに引き起こす自然現象です。一定の場所にいることで、聖なる力が土地に付与されて、そこにいるだけで自然治癒力が高まるようになります」
「つまりキリエがいるだけで、魔物たちを元気にしちまうってことか! すげえ!」
イオン司祭様がうなる。
「たしかに、伝承では神がまだ地上にいた頃には、聖域が存在していたと聞きます。現在は存在しませんが」
『つまり姉ちゃんは伝説の存在ってわけだな! すげえ!』『すごーい!』『さすがー』
こまったわ……。
「どうしたのです、聖女キリエ?」
「あ、いえ……。神様はわたしのためだけに、こんな凄いことをしてくださったことが、申し訳なくて」
たしかに毎朝みんなの幸せを祈っているけれど。
まさか聖域にしてくださるとは。
神様はお忙しいかたなのは承知しているので、なんだか申し訳なくなる……。
「って、どうしたの、イオン司祭様?」
「いや……君は相変わらずだなと思いましてね」
「はぁ……」
あいかわらずってどういうことかしら?
敬虔なる神の使途であることを、評価してくれた?
それだったら最高ね!
「ところで……人間」
すぅ、とチャトゥラさんがイオン司祭様をにらみつける。
「あなたたちはキリエ様のもとへなにをしにきたのですか? まさか……彼女を連れて帰ろうっていうのではありませんよね?」
たち……?
ほかにもいたのかしら?
くま吉くんたちが、がるるるう……とうなりだす。
アニラさんからも怒りのオーラがひしひし伝わってくる。
しかし、それを受けてもイオン司祭様は穏やかな表情をしており、ふるふると首をふるった。
「そんなことは、しません。あくまで私は、聖女キリエの安否を確認しに来たまでです」
『『『よかったぁ~~~~~~!』』』
くま吉君、アニラさんなど魔物さんたちがわたしにくっつく。
ぎゅうぎゅうとハグしてくる。
『姉ちゃんがいなくなったらさみしくてしんじゃうところだったよー!』
「おれさまもだ! キリエがそばにいてくれなくちゃ国を滅ぼすとこだったぜ!」
おおげさだなぁ。
「聖女キリエ。あなたはすでに、新しい場所、新しい仲間達と、幸せに暮らしてるのですね」
「はい、ノアール神様のおかげで」
神様が、わたしの行いを見てくれているのだろ。
こうして奈落の森で、平穏無事でいられるのは、神様のご加護があるからこそ。
「ならば、私から何かするつもりはありません」
イオン司祭さまは微笑んで、きびすを返す。
「聖女キリエ、どうか幸せになってください」
「ありがとうございます、司祭様。そうします」
少しだけ、さみしそうに笑うと、彼は帰っていく。
「チャトゥラさん、街まで彼を送ってあげられる?」
「……聖魔王様のご命令とあらば」
なんだかすごぉく嫌そうな顔をしていたけれども、連れてってくれるようだわ。
ありがとう。
「では、聖女キリエ。これにて失礼します」
そう言って、彼は立ち去ろうとする。
せっかく遠くまでご足労いただいたのに、なにもしないのは気が引ける。
そうだわ。
「イオン司祭様」
わたしは、手を組んで、目を閉じる。
「あなた様にも、神のご加護があらんことを」
すでに神の使途たるイオン司祭様に祈りが必要かはわからなかったけども。
どうか……無事に帰れますようにと願いを込めて、祈った。
「!? こ、これは……」
目を開けると、イオン司祭様は……え、ええ!?
な、泣いてる……?
「ど、どうしたのですか……? 涙なんて流して……」
するとイオン司祭様はわたしに向かって、手を組み、頭を下げていた。
「そういうことだったのですね……やはり……」
「や、やはり?」
「全て、理解しました。聖女キリエ……いえ、キリエ様」
急にどうしたのかしら?
さまなんて付けて……。
「あなた様は教会なんて狭い場所ではなく、この広い森で、多くの存在を導くのが使命ということなのでしょう」
「は、はあ……」
もとよりそのつもりなのだけど、急にどうしたのかしら改まって。
「ありがとうございます、キリエ様。あなた様に最後に出会えたこと、そして一時でもあなた様の上司でいられたこと、一生の誇りとして生きていこうと思います」
ず、随分と大げさだわ。
いったい何があったというのかしら……。
「それでは」
といって、今度こそ司祭様は帰っていったのだった。
うーん……急にどうしたのかしらね。
『やっぱ姉ちゃんの羽根はきれいだよなー』『てんしー』『ぴゅーい! かみー!』
羽根……?
なんだか、前もそんなこと、魔物さん達に言われたような……。
わたしに羽根なんて生えてないのに、ねえ?
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