03.長のもとへ
わたし、キリエ・イノリは王都を追放されたあと、森に廃棄された。
そこで出会った熊の親子に名前を付けた。
すると熊の親子はでっかいモフモフへと存在進化? した。
するとくまの母、くま子さんが、わたしを彼らの長に会わせたいといってきたのだった。
わたしはくま吉くんの背中に乗って、森のなかを進んでいく。
くま吉くん、めちゃくちゃでっかい。
歩くたびに揺れるので、正直こわいんだけど……。
この、もふもふの感触がやめられないわ。
っと、どうしてくま吉くんに乗ってるのか?
くま子さんが、わたしを誰かに会わせたいっていってるからだ。
その人は森の奥に住んでいるらしい。
『キリエは魔王を知ってるかい?』
魔王……。
たしか、魔族たちの王、だったかしら。
魔族。とても強い魔法の力を持った、人間に近い種族。
魔族と人間は長く争っていたらしい。
しかしある時、勇者と呼ばれる存在が魔王を打ち滅ぼし……。
長きにわたる魔族と人間との戦争に、終止符が打たれた……。
だったかしら?
『おおむねあってるが、魔王様は別に、魔族だけの王様じゃないのさ』
『おいらたち魔物の王でもあるんだよ!』
……え?
そうだったの……?
『そうさ。そもそも魔族とは、高レベルの魔物が進化した姿だからね』
そんなこと、知らなかった。
じゃ、じゃあ……魔王は、魔族と魔物の長だったってこと?
『そのとおりさ。まあ人間どもは知らないだろうけども』
どうして?
『だって、あたいら魔物の言葉が、人間たちは聞こえないじゃないかい』
あ……。
そういえば、そうだわ。
ナチュラルに話してるけど、普通の人間には、この子たちの声が聞こえないんだった。
……そんな。
言葉が通じないけど、悪い子たちじゃないのに。
『ふふ、ありがとねキリエ。そう言ってくれる人間は、あんただけだよ。今はね』
今は……?
『っと、ついたよ。ここだ』
森の奥の奥。
しかし、何もないように見えるわ。
目の前には大きな木があるだけで……。
『おおい、樹木王さんよ! おきてくれぇい!』
樹木王?
すると、巨木の幹に、2つの目が浮かび上がった。
目だけじゃないわ。
とんがった鼻に、大きな口が現れる。
木の魔物……トレントだわ。
樹木王ってことは、その王様ってこと?
『なんじゃあ……? どーして死熊なんかが、ここでうろついてるんじゃあ? それも2体も』
死熊?
なにそれ?
『あたいらだよ、赤熊の親子さ』
『ほー!? なんと、おっどれえた。おまえさんら、存在進化したのじゃな!?』
また出た。
存在進化。
なんなのかしらね。
というか、樹木王さんはわたしの声聞こえないのかしら?
逆は聞こえるのだけど。
『キリエ。あんたこのじーさまに触れてごらん』
触れる?
『ああそうさ。あたいはさっきぴーんと来たんだよね。あんた、多分触れた魔物と心を通わせることができるんじゃあないかい?』
……なるほど。
それなら、くま吉くんとくま子さんと話せるのがわかる。
でも声が聞こえてるのはどうしてかしら?
『あたいらを通して、このじーさんの声を聴いてるんだろ?』
なるほど……。
『おいおまえさんら、さっきから誰と会話してるんじゃ?』
『この人間さ。おそらく、聖魔王さまの子孫』
『なんと! イノリ様の!?』
またでた。
聖魔王。イノリってやつが聖魔王なのかしら?
……え?
子孫?
『力を示すよ。キリエ、触れてやんな』
わ、わかったわ。
わたしはくま吉くんから降りて、樹木王さんの幹に、触れる。
『どうじゃ?』
あ、問題なく聞こえるわ。
『な、なんじゃとぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』
樹木王さん、声でかい……。
『あ、ああ、すまん。し、しかし本当じゃ……人間なのに、わしら魔物の声が聞こえる。こんなの、聖魔王さま以外におらんかった! やっぱり、おぬしは……いや、あなた様は聖魔王様の子孫! いや、生まれ変わりやもしれん!』
……ううん、謎のワードが増えていくわ。
聖魔王ってなんなの?
『はるかな昔、存在しておった、女性じゃ。人間なのに、魔物の言葉を理解し、そして、我ら魔物に力をあたえ、そして、その聖なる力で癒してくれた』
魔物を治した……人間?
聖女の力って、人間にしか通じないんじゃなかったの?
『並みの聖女はな。じゃが、聖魔王様は違う。人と魔物、そして魔族。分け隔てなく、その奇跡の力を使ってくださった』
……人なのに、魔物の言葉を理解し、人なのに、人間以外にも施しを与える。
まるで、神様みたいね。
『そうじゃな、イノリ様は我ら魔物にとって、神様のようなお方じゃった』
……過去形。
そうよね、大昔の人っていってたもの。
『まさかわしが生きておる間に、聖魔王様とまた相まみえることになるとは。ありがたやありがたや……』
ありがたがれても、困るわ。
わたし、その聖魔王じゃないんだし。
『樹木王。キリエを、森の長さまに合わせてくれないかい?』
『なんと! 長さまに? どうしてじゃ?』
『もしこの子が聖魔王様の生まれ変わりなんだとしたら、長さまのご病気も治せるんじゃあないかい?』
また新しい単語だ。
森の長って?
『この森のリーダーさ』
リーダー……。
さっき言っていた長ってやつかしら。
『ううむ、なるほど……わかった。キリエ様』
キリエでいいわ。
『キリエ。どうか、森の長さまをお救いくだされ。あのお方は、病で苦しんでおられるのじゃ』
『おねがいだよ、キリエ』『たすけてあげてー!』
……なんだかわからないけども、困っている人を、ほうっておけないわ。
魔物の長なんだから、多分、モンスターなんだろうけども。
それでも……。
神さまが与えてくださった、このお力は、他人のために使うもの。
わたしはほかの聖女と、ちょっと違うらしい。
今まで人間にしか使ってこなかった、この力。
魔物にも使えるんだと、初めて知った。
そして知り合いが、困ってるのだったら、たとえ魔物だろうと、使ってあげたい。
そのために、神様はわたしに力をお与えになったのだから。
『なんてすばらしいお考えなのじゃ!』『立派だねえ』『かっこいい!』
……心の声が駄々洩れなの、ちょっと気恥しいわ。
まあでも、本音で語り合えるってことは、素敵なことだと思う。
『さあ、キリエ。わしの中へ』
んが! と樹木王が口を大きく開く。
『樹木王の口は転移門になってるのさ。森の賢者様がおすまいになられてる、館へと導いてくれる』
……この奥に、森の長がいるのね。
正直、ちょっと怖いけど、でも、そこに困ってる人がいるのなら、助けてあげたいわ。
わたしは意を決して、樹木王の口の中にはいる。
その後ろから、くま吉くんたちがついてきてくれる。