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29.愚かな王子は、謝罪に行くが魔物に撃退される



《モーモックSide》


 キリエを追放した王太子、モーモックは、父親に隠し事がバレてしまった。

 彼女を連れて帰らねば死罪。帰ったとしても、自分は王位継承権をはく奪されたうえに、国外追放される。


 どちらも嫌だったが、死ぬのはもっといやだ。

 自分の命がかかってるということで、仕方なく彼は奈落の森へと向かうのだった。


「(僕は信じないぞ! キリエがすごい聖女だと? なら証拠を見せろというのだ! 僕は間違っていない!!!!)」


 こと、この期に及びモーモックはキリエの力を信じていなかった。

 たしかに自分が直接、キリエの奇跡を見たわけではない。


 だから周りがいくらキリエ凄い、とほめたたえても、彼は信じることができなかったのだ。

 森に差し掛かろうとしたその時だ。


 がったん、と馬車が急停止したのである。


「な、なんだ?」

「どうしたのでしょう。様子を見てきましょう」


 同行していた(逃亡防止のため)イオン司祭がドアから出ると……。


「な、なんだ貴様ら……ぐぅあああああ!」


 突如として馬車の外から、悲鳴が上がったのである。

 どうしたのだと思い、モーモックが外に出ると……。


「な!? と、盗賊!?」


 こないだキリエが追い払った、盗賊団【灰色の狼】だった。

 彼女に倒されたサブリーダーの、ザコワンパンと、そしてガタイのいい男が立っていた。


「スグバイバイ頭領! こいつ天導の司祭っすよ! それとゲータ・ニィガの王子っす!」

「くっくっく、ついてるなぁおい」


 スグバイバイと呼ばれた男は、この灰色の狼のリーダーのようだ。

 ザコワンパンがヒヒヒと笑う。


「こないだは妙な女がきて失敗しちまったが、今日はスグバイバイ頭領が一緒だから無敵だぜえ! 野郎ども、王子を捕縛しろぉ!」


 盗賊たちがにじりよってくる。

 彼自身に力はないため……。


「や、やめろぉ! ぼ、僕を誰と心得る!」

「ゲータ・ニィガの王子様だろぉ。てめえを捕まえれば身代金がたんまりともらえるぜえ」


 盗賊たちにあっという間に拘束される。

 そして、ぶすり、とナイフで背中を刺される。


 その瞬間、激しい吐き気とめまいを起こした。


「な、んだこれ……」

「遅効性の毒だぜぇ。解毒薬を飲まないと、72時間以内に絶対に死亡する。この解毒薬以外、絶対に治せないしろものだぜえ」

「そ、そんな……!」


 交渉するために、遅効性の毒を投与させたらしい。

 王子の命が惜しければ、3日以内に金を払え……と。


「い、いやだぁ! 死にたくない! 死にたくないぃ!」


 モーモックは情けなく涙を流す。


「ひひひ、安心しろよ。ぱぱがおとなしく金払ってくれりゃ、てめえは助かるんだから」


 父に言って助けてくれるだろうか……。

 今彼は父から見限られている状態だ。頼んだところで……。


「スグバイバイ頭領! た、大変だぁ……!」


 部下の盗賊が声を張り上げる。


「なんだぁ?」

「あ、あれを! 魔物の群れです!!!!!!!!!!」


 奈落の森から、大量のモンスター達が現れたのである。

 どどどど! と足音を立てながら、凄まじい勢いでかけてくるではないか。


「す、スグバイバイ頭領どうしましょう?」

「ばかやろう! 魔物ごとき、この俺さまが倒して見せる!」

「おお! さすが頭領!」


 しかし……先頭を走る、死熊デスベアの雌が、思い切り腕を振り上げると……。


『さっさとキリエの森からきえな!』


 どーん!


「ふげええええええええええええええええええええ!」

「「「スグバイバ頭領ぉおおおおお!」」」


 頭領は死熊……くま子の一撃で、空の彼方へと消えていった。

 じろり……とくま子は周りの人間達をにらみつける。


『死にたくないやつはとっとと帰りな!』


 がぉおお! とくま子が吠えると、ザコワンパンを含めた盗賊達が、一目散で去って行った。

 ふしゅうぅ……とくま子がため息をつく。


「あ、あ、な、なんだ……この……化け物の群れはぁ……!?」


 奈落の森の魔物が勢揃いしてる。

 王太子、そしてイオン司祭は戸惑うばかりだ。


「我らを助けてくれたのですか?」

「はぁ!? バカか貴様! こいつらは獣だぞ!?」


 しかし……。


『あたいらは別に食べる気はないよ。とっととうせな』

「やはり……声が聞こえる」

『おや! あたいの声が聞こえるのかい!』

「ええ。助けてくださり、ありがとうございます。なんとお礼を言って良いやら……」


 イオンと魔物が会話してるのをみて、怯えるモーモック王太子。


「き、貴様もその獣の仲間なのか!?」

「命の恩人に、なんて言い草ですか……本当に礼儀を欠いたひとですね」

「なにぃいい!?」


 と、そのときだった。


「騒々しいですよ」「なんだもめごとか? おれさまの出番かー?」


 獣人の男に、竜人ドラゴニュートの女が現れる。

 彼らはくま子と仲間なのか、襲う気配はない。


「あなた方は何者ですか?」

「失礼いたしました。天導教会の司祭イオンともうします。こちらは王太子のモーモック様です」


 ぴくっ、獣人男の眉間にしわが寄る。


「そうですか。私はチャトゥラ。フェンリルで、聖魔王キリエさまの右腕です」

「おれさまはアニラ。キリエの左腕」

 

 ふたりは……驚くほか無かった。


「な、なんだと!? キリエ!? キリエと言ったのか貴様!?」


 魔物がはっきりと、キリエの名前を出し、しかも様付けしていたのだ。


「ば、馬鹿な……キリエが、生きてる……しかも、フェンリル!? あの伝説の神獣を従えてるだと!? ば、ばかな……」


 嘘だ、と信じたい。

 しかしフェンリルの口から、嘘でキリエの名前がでるだろうか……。


「ここへなんのようでしょう?」


 そ、そうだ……。

 本題を忘れるところだった。


「き、キリエに会わせてくれ!」

「会って……なにするつもりですか?」

「謝りたいんだ! ぼくが悪かったと! 彼女にひどいことをしてしまったから……」


 本当は、死にたくないからだが。

 同情を引いた方がいいと思ったのである。


 そのほうが感情で動く生き物である女(偏見)は、協力してくれるだろうと。

 だが……フェンリルは大きくため息をつく。


「お帰りください」

「そ、そんな……! このままだとぼくらは死ぬんだぞ!」

「街を守る結界の維持なんて、ほかの聖女でもできることでしょう? なぜキリエ様にこだわるのです?」

「そ、それは……」


 国王からキリエを連れ戻せ、できなければ死刑と言われてるからである。


「……キリエ様の優しさにつけこみ、利用しようなどと言語道断! アニラ! こいつらは敵です! 追い返すのです!」

「おお、やっとケンカかよ。待ちわびたー」


 ごごごご、と二人の体が徐々に大きくなっていく。

 そこにいたのは、伝説の魔物フェンリルと……。


「ひぎぃいいい! ぼ、暴虐竜ぅううううううううううううう!」


 アニラの名前を聞いたときに、違和感を覚えていた。

 だがまさか本物が来るとは思っていなかった。


『ここを立ち去るが良い、愚かな王子よ!』

「い、いや! いやだ! お、おれはキリエを連れ戻さないと……死刑になるんだぞ!」

『関係ありません! アニラ!』

『おうよぉ!』


 アニラが大きく翼を開いて、強風を巻き起こす。


「ふぎゃぁあああああああああああああああああああああああ!」


 モーモックは突風にさらわれると、空の彼方へと飛んでいった。

 毒が解毒しきって無い状態だった。


「……なぜ、私は助けたのですか、フェンリル殿?」


 するとフェンリルは先ほどよりは怒気を抑えて言う。


『貴様からはキリエ様の匂いが濃くする。おそらくは知人であろう』

「お察しの通りで……ぐ……」


 ふらり、とその場にしゃがみ込むイオン司祭。

 はぁ……とチャトゥラはため息をつくと……。


『しかたありません。あなただけは、キリエ様のもとへ連れて行ってさしあげましょう』


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